『ブッダガヤにて星になる』

 作 Yuuku


彼はブッダガヤにて星になった。

日本では知られず、

インドで知られ。

ただ一人でこの世を去った。

いづれ来る時代の波を信じて。



1 真和



東京は鬱屈する街だった。

それに愛が足りない。

彼は出国の日、そう呟いた。




彼と僕が出会ったのは、まだ毛も生え揃わない青い中学時代だった。

僕と彼は同じ地区だったが、違う小学校に通っていた。

会ったことは無い。


僕らの住む街は、新宿区と渋谷区に挟まれたサブカル的な街。

遊び場といえば新宿、渋谷、原宿などの東京の「ど」が付くほど、ど真ん中であった。

自転車で20分から30分あれば、東京の繁華街はどこへでも行けた。そんな何でもある街。

影響を受けるのは常に最先端。

特にファッションやカルチャーはいち早くキャッチし、誰が1番最初か、誰がいち早く手に入れるのか。

その1番が格好良かった。



そんな中、彼は全く違った。

僕が思うに『先』を生きていたんだと思う。


彼の目には、僕らが見ていなかった世界が見えていた。

もし、まだ彼が居たらあの時、何を見ていたのか聞いてみたい。


たぶん彼は見えていたのだろう。


世界

日本

東京の


時代の流れの先が。



当時はギャル、ギャル男文化。

渋谷を歩けば、日焼けをしケバケバしいメイクをした女の子たちがパラパラを踊り、また男達は、ホスト風な格好をし、髪の毛をツンツンに立てていた。そんな時代。


だが彼には、時代は関係無かった。


彼は常に個性的。

いつでも髪の毛は長めで、常に片目を隠す。

顔は整っており、髪型をサッパリすれば女の子にモテるであろう雰囲気。

それに、グランジの様な、ヒッピーの様な、ネルシャツを身に纏い、白Tにデニム。そんなファッション。

誰も彼もは当時欲しがったブランド品にも目をくれず、彼はTシャツにデニムにこだわった。


カルチャーは、アート、音楽、本を愛し、

彼を見かける度に、音楽を聞きながら、本を読んでいた。

何を読み、何を聞いているのかは当時は不明だった。



昔、彼に聞いた事がある。

なぜ、そんなに本を読むの?と。


その時、彼は優しい笑みで、


「ユダヤ人は言うんだ、家が火事になったら、何より本を持ち出せ。だから俺は本を読んでいる。」


彼は、そんな事を言う人間だ。


僕はその時何を言ってるのか、サッパリ分からなかった。

分かったら、逆に凄い。

だから想像した。


彼は、本好きで本を抱きしめながら寝れる様な変な人間。


と、勝手に想像した。

想像とはいつも勝手なものだ。




僕が彼の存在に気をかける様になったのは、中学生一年。


しかも、入学早々。

誰もがソワソワとし、浮いた気持ちを隠せない中、彼の存在は際立っていた。

窓際の席で空を見上げ、音楽を聴きながらぼぉーとしていたのだ。

しかも、学生服のボタンを三つも開けて。


僕は衝撃的だった。

入学したての中学生が、ロン毛で音楽機器を教室に持ち込ちこんでいると同時に、学生服のボタンを三つも開けていたという事実に。

カルチャーショックを通り越し、怖さをも感じた。

当時、学生服のボタンを開けることは、一個でも勇気がいるのに、それにロン毛!

僕は思った、ヤンキーとはこのことだ。と。


だが、彼の後ろポケットには文庫本が入っていたのにはいささか違う驚きも感じていた。


その後、彼は教室に入って来た教師にこっ酷く怒られていた。



だが僕は、そんな彼がカッコ良く、また彼の様に生きてみたいなと薄ぼんやり考えていたのだった。


皆んなは違うみたいだったけどね。


まぁそれが僕と真和の出会い。


これから先の長い人生の道程での、

たった一回の出会いであった。


この時ある程度予想が出来たら良かった。

先にある、僕らの人生がどうなるかを。