派手なノックアウトシーンやアメリカの熊殺しウイリー、南アフリカの巨人ウーテンボガードといった注目選手の勝ち上がり、日本代表選手の奮闘を目の当たりにして、チケットがないにも関わらず、大会最終日の朝一番の新幹線に乗っていました。
雪の降るなか九段下の駅から日本武道館まで大勢の観客と共に歩き、チケット売り場で当日券が買えた喜びは今でもしっかり覚えています。開場までは長蛇の列で寒い中でしたが、これから繰り広げられる最終日の試合に胸を踊らしていました。
雪が積った日本武道館
すり鉢状の日本武道館の二階席から見下ろすように観戦しました。試合場で繰り広げられる始めて生で見る極真空手の激闘の数々は本当に新鮮でした。最前列の本部席にみえる大山倍達総裁のお姿を双眼鏡で見て一人感動していました。
挨拶する大山倍達総裁
大会記念演武は大山総裁の古い弟子で極真空手黒帯の俳優、千葉真一さんが、はまり役の柳生十兵衛を思わせる扮装(眼帯はなし)で殺陣を披露してくれました。真剣佑と郷敦のパパですね。私が初めて見た大物芸能人でした。オーラがありました。ちなみに大会初日の演武は、当時まだ若手であった弟子の真田広之さんが、空手アクションを披露したそうです。
千葉真一さんの殺陣
最終日は最初から大波乱、増田章×ミッシェル・ウエーデル(オランダ)では長身のミッシェルの長いリーチから繰り出される下突きに腹を集中的に攻められ大苦戦。近くに来ていた主審を務める師範もこれは増田が負けるだろうと知り合いに話されていました。しかし、腹を効かされながらも耐え抜いて、最後にはスタミナで勝り逆転勝ちを得るという魂の戦いを見せてくれました。根性が半端ないと思いました。
増田×ミッシェル
魂の戦いと言えば、竹山晴友×ケニー・ウーテンボガードと田原敬三×ウイリー・ウイリアムスの戦いも凄かったです。
内弟子出身の竹山晴友は内弟子魂で戦い、激闘の末に玉砕しました。2メートルを優に越える巨人に対し、一歩も引かない気持ちの強さは、大山総裁の内弟子というプライドがなせる業だと思いました。ウーテンボガードはダメージのためか、次の試合は良いところなく破れてしまいました。
竹山×ウーテンボガード
田原敬三は全盛期を過ぎたとはいえ、あの熊殺しウイリー相手に一歩も引かず、下段回し蹴りを中心に攻め続け大金星を納めました。日本人が勝った嬉しさもありましたが、前回の世界大会で圧倒的に強かった熊殺し伝説が崩れるようで一抹の寂しさもありました。田原はその次の試合を勝利するも、ウイリー戦の骨折のダメージで病院に直行し棄権しました。
ウイリー×田原
あの頃の選手は、今がそうでないとは言いませんが、本当に命を懸けて戦っていたように思います。
ちなみに大会前にウイリーは、当時のお昼の人気テレビ番組である、タモリさん司会の「笑っていいとも」に生出演して全世界大会を告知し、アメリカの師範たちと「友達の輪!」も行ってました。また、ウイリーとウーテンボガードは大会翌日にNHKの「600こちら情報部」に生出演し、満身創痍ながら体力測定に挑んでいました。たしか握力が成人男性の平均以下の数値でした。激闘でまともに拳も握れなかったと思われ、テレビ局は何をやらせているんだ?と思いながら見ていました。
準決勝の前回世界王者の中村誠×アデミール・ダ・コスタ(ブラジル)は、2年前の全日本大会で上段に蹴りを何度ももらい負けている中村が、打倒アデミールを誓い、相当対策を練ったと思われ、凄まじい気迫と執念で攻撃し、最後は追いかけ回している感がありました。
アデミール×中村
松井章圭×アデミール・ダ・コスタの三位決定戦は、日本とブラジルの業師同士の戦いとなり、華麗な上段回し蹴り、変則回し蹴り、後ろ回し蹴り、掛け蹴り、横蹴りなど本当に美しいと思わせる素晴らしい技と技の応酬で、二階席から双眼鏡で見る目が釘付けになりました。
アデミール×松井
決勝戦はベテランの中村誠×三瓶啓二という、前回の世界大会と同じ組合わせ。中村誠が超弩級の突き蹴りのコンビネーションで前に出るのに対して、三瓶啓二はフットワークを使って回り込み、受け捌きからの正拳連打や下段蹴りを返す組手で対抗しましたが、前に出る印象が良かったのか判定で中村誠の世界大会ニ連覇が決まりました。三誠時代と呼ばれたひとつの時代が終わったなと感じ、お二人には長い間お疲れ様でしたとの思いでした。
中村×三瓶
中村はパワー空手の体現者として、正にキングオブキョクシンとなりました。また今大会の模様を納めたドキュメント映画「世界最強のカラテ キョクシン」が制作され映画館で上映されました。もちろん私は映画館に足を運びました。
(文中敬称略)
世界最強のカラテ キョクシン