だいぶ前の話


とある母子とある関わりを持った


子は幼く、母の行為により脳に大きなダメージを受けていた


よく言われる虐待が行われていたのだろう


とても美しい名前を付けられ、その名の通りに美しい子だった


しかし成長はその子の年齢の半分程度で止まり、生きるためには医療と人の手が常に必要な状態であった


歩くこともできず、発語することもできない


口から自力で食べることが出来ず、管を使い胃に直接栄養を送り込む


子供が本来喜ぶアイスクリームを食べる練習の為に与えても、それが美味しいものだと認識できずに泣く


絵本を見せてもよく見えないのか視点が定まらない


その子の笑顔が少しでも見たくて多くの人が一生懸命に関わった


それでも反応はいまひとつ


しかし、たった一人、抱くだけでその子の状態を落ち着かせ、機嫌を良くさせることのできる人がいた


母親だった


面会には制限があるためにわずかな時間ではあるが、母親が抱くと安定しない呼吸が安定する


その子の表情が柔らかく変化する


一生懸命母親の声のする方向に目を向ける


どんなに周囲が心を砕いてその子に接しても敵わない


母親にだけしかできないことだと思い知らされた


母親を悲しく思った


他人が尽力しても出来ないことを抱くだけで出来てしまうという事に気づけない母親が悲しかった


子どもの母親に対する信頼や本能の強さを、その子にしっかりと教わった


短かったが一生忘れることのできないであろう関わりだった