監督:ジュゼッペ・トレナトーレ
彼の作品で『ニュー・シネマ・パラダイス』も好き。
あとまだ見ていないので気になっているのは『マレーナ』、『題名のない子守唄』
主演:ティム・ロス
豪華客船のピアノの上で拾われた赤ん坊、
1900年の最初に見つけられた彼はその年の名前が付けられた。
「1900」それが彼の名前だ。
国籍もない、世界から見れば存在しない彼は8歳の頃から
誰も聞いたことがない音楽を生み出すピアノの才能を開花させる。
トランペット吹きのマックスは演奏のために船に乗り込み、『彼』と親しくなる。
どれほど人を惹きつけても、噂が広まっても、彼は船を降りようとしない。
噂を聞きつけたジャズの名手ジェリーがピアノ対決を申し込んでくる。
最初はジェリーの音楽に喜んでまともに弾かない1900だったが、
それに気を害したジェリーがあてつけのように弾いたピアノを聴いて一変、
超絶技巧を見せて快勝する。
その後、美しい女性に恋をしたが何も伝えられずに港で彼女を見送った。
そのこともきっかけになり船を降りることを決意するが、
タラップの途中で引き返し、船に戻ってしまう。
マックスは数年後に船を降り、1900と離ればなれになる。
さらに時が経ちマックスがトランペットを売ろうと訪れた店で、彼の弾いていたピアノを見つけ、あの船が処分されると聞く。
”彼”がまだ船に残っているに違いないと思ったマックスは
火薬の積まれた船に乗り込み彼を見つけ出し、最後の説得を試みるが・・・・
1900が船を降りられない本当の理由を聞くことになる。
「何かいい物語があって、それを語る相手がいる限り、人生は捨てたもんじゃない」
作品の所々で出てくる言葉。
1900とマックスの話が生き生きと描かれているからつい忘れがちになるが、
これは確かにマックスが「1900の伝説を語る」物語の作りになっている。
「やぁ、コーン。どうした、船酔いか?」(マックスのトランペットはコーン社製だった)
このセリフは1900とマックスの初対面と最後の再会で使われる。
大時化で激しく揺れる船の中で、平然としている彼は
マックスの船酔いを直してやると言ってピアノを弾く。
ストッパーを外して揺れとともに動くピアノに乗って演奏するシーンは、
動くピアノはともかく、なんで椅子がついてくるの?
なんでどこにもぶつからないの?
ありえないけど、映画だからいい(笑)
映像での表現も印象的。
ジェリーがピアノ対決で負けるシーンは、一言もセリフをしゃべらない。
だけど咥えたたばこの灰がジェリーの磨かれた靴を汚すカットで、ジェリーの負けが決定づけられる。
深い題材と複雑な1900の性格で重くなりがちな作品だが、
エンリオ・モリコーネの音楽と、ところどころにユーモアのあるシーンを挟むことで
受け入れやすい作品に仕上げている。
世の動きと、一人の人間としての人生、選択、才能というもの
1900の選択した生き方。
マックスが1900を成功に導こうとするが、彼は耳を貸さない。
マックスは「船を降りて成功して金を稼ぎ、結婚して幸せな家庭を持て」と何度も諭すが
レコードから流れる自分の音楽を耳にして
「僕の音楽は僕と一緒でなきゃ」と奪いかえす所や
常夏を求める旅行者のように無い物ねだりな人生は嫌だという彼は
映画の最初から最後まで大切にしているものが一貫していた。
もしくは船の上で生きてきた彼は、世のうねりとは別の場所にいて、ほかの人が見失ってしまうものが見えていたのかも。
才能というものの形というか、実態が見えるような気がした。
そしてそれが、私自身がずっと考えている本質に近いような気がした。
彼が船を下りるのをやめた理由が切なかった。
はじめて観たときは、1900の気持ちがわからなかった。
でも自分の人生で一度引き返すことを経験したあとに見ると、彼にとても共感した。
理由は彼とは全然違うのだけど。
もしかしたら育ての親のダニーの言葉「船の外には悪いものばかりだ」という言葉を守っているのかもしれないし、農夫の聞いた海の声と同じように、陸の声を聞いたのかもしれない。
無限と可能性を訴える声を聴き、奮い立った農夫とは反対に畏れたのかもしれない。
今以上に音楽が自分からあふれたら。
いや、無限にあふれる音楽の中から自分が音楽を選び出せるのか。
できない。
自分はこの船より大きな場所では多すぎる音楽に埋もれてしまって
音楽を生み出せなくなる。
だから船を降りれない。だから人生を降りるしかない。
どれだけ実力があっても、大きな大会で実績が残せない選手はいる。
素晴らしい作品を生み出すのに、リクエストされるとなにも作れなくなるアーティストもいる。
舞台が変わると別人のように才能が見えないところに潜り込んでしまう。
そういうことなんじゃないかなって。
トレナトーレ監督の作品はいい意味で 『映画くさい』と思う。
絵画のような構図、小説のようなセリフ、緩急のあるカメラ回し。
夢とか憧れとか、ファンタジーみたいなのにリアルな人間味も、作品の中に詰まってる。
好き嫌いは分かれるかもしれないけど、
私はとても好きな監督のひとり。
監督自身が映画が好きなのが伝わってくる。