「...ごめんね。ベンチから移動しちゃって。」
はぁー
よかった…
言葉にならない想いが顔にでてるんだろう。
「...心配翔くんを本当に心配させちゃったね。ごめんね。」
申し訳なさそうに謝る紅深が愛しい。
「...…いや。それよりどうした、そのプードルは。」
「ベンチに座ってたら、この子1人で歩いていたの。周りに飼い主さんらしき人もいないし、人が沢山いて危ないから、抱っこしようとしたら逃げちゃって。追いかけてたの。」
「.....そっか。飼い主からはぐれたんだな。ん、、首輪についてるそのキーホルダーさ。確か中に名前とかかけるやつじゃね?」
そう言って、首輪に手を伸ばした…
『 ヴゥーヴッー 』
オレを見ながら歯をむきだしにして威嚇してくるプードル。
「よしよし。プーくん。私に見せてみて。」
紅深があやしながら首輪のキーホルダーに手をかけた。
大人しく従っているプードル。
……いや、別にね。
職業柄動物に嫌われるのは慣れてるしね。
いやだけど、今は仕事じゃない。
なんで威嚇されんの、オレ。
「...あ、携帯の番号と名前が書いてある!この子の名前は『慧』くんだって。携帯に電話してみようか。」
「...あ、オレがかけるよ。紅深は抱っこしてろ。」
携帯に連絡し、すぐに待ち合わせた。
しかしそこにやってきたのは...
飼い主ではなく。
オレが今一番会いたくないヤツ、
いや、紅深と一番会わせたくないヤツだった。