読売新聞 慰安婦問題に関する誤解を払拭するため、国際的な情報発信を一段と強化せねばならない。

 政府は、ジュネーブでの国連女子差別撤廃委員会で、慰安婦の強制連行を裏付ける資料は発見されていないことなど、事実関係について初めて包括的に説明した。

 杉山晋輔外務審議官が、韓国で「女性狩り」をしたとする吉田清治氏の証言は捏造ねつぞうで、吉田証言を報道した朝日新聞が誤報を認め、謝罪したことにも言及した。

 遅きに失した感はあるが、国際社会では、事実誤認は的確に正し、日本を貶おとしめる主張には積極的に反論することが欠かせない。

 杉山氏は、アジア女性基金や昨年12月の日韓合意に基づく元慰安婦支援に触れ、「日本政府が歴史の否定をしているとか、何の措置もとっていないという批判は事実に反する」と強調した。

 これを機に、慰安婦問題に関して、正確な事実関係を世界に広げる外交努力を加速させたい。

 懸念されるのは、「日本軍が20万人の女性を性奴隷にした」といった誤った言説が、世界各国でひとり歩きしていることだ。

 誤解を広げた発端は、1996年に国連人権委員会に提出されたクマラスワミ報告である。

 吉田証言を論拠の一つとして慰安婦を「性奴隷」と断じた。慰安婦の数は、朝鮮半島出身者だけでも20万人と記載した。こうした誤まった表現は、米国に設置された慰安婦像の碑文にも刻まれた。

 杉山氏は今回、「20万人」に根拠はなく、「性奴隷」との表現は「事実に反する」と指摘した。

 慰安婦の数は、国内外の複数の歴史研究者が兵士の数などを基に推計しているが、20万人は過大だとの見方が有力である。

 悔やまれるのは、クマラスワミ報告が出た時点で、外務省が有効な反論をしなかったことだ。

 慰安婦募集が「総じて本人たちの意思に反して行われ」「官憲等が直接これに加担したこともあった」とした93年の河野官房長官談話の一部が報告に引用され、それに縛られたのだろう。河野談話の見直しは今後の重い課題だ。

 韓国政府は、「慰安婦動員の強制性は歴史的事実」と主張した。一方で、国連などで相互批判を自制するとの昨年の日韓合意を踏まえ、強い非難はしなかった。

 日本が今回、事実関係の説明に徹したのも同じ趣旨だろう。長く停滞していた日韓関係は今、改善傾向にある。不毛な批判合戦に逆戻りする愚は避けるべきだ