NEWSポストセブン 中国軍の動向に詳しい香港の日中関係筋によると、今年は中国の尖閣諸島への攻勢が本格化するという。すでに、海上保安庁は昨年末、機関砲4基を備えた改造フリゲート艦が日本領海に侵入したことを確認した。尖閣諸島をめぐって砲弾が飛び交う事態も懸念される。ジャーナリスト・相馬勝氏が指摘する。

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 日本の排他的経済水域(EEZ)内で日中両国間の取り決めに反した中国海洋調査船による調査活動が昨年すでに22回もあり、一昨年の2倍を超えたことが挙げられる。2011年には8回、2012年は3回、2013年7回、2014年は9回と推移し、昨年は初めて2桁台に乗り、前年比で2倍を超えた。その活動区域の多くは東シナ海となっている。
 
 これらは科学調査とみなされているが、その一方で軍事的な動機が背景にあるとみられる動きも出ている。それが中国のIT企業大手「騰訊(テンセント)」が作成した中国人民解放軍による尖閣諸島奪還作戦の3Dアニメ動画だ。これはユーチューブで公開され、昨年9月の時点で100万回も再生されている。
 
 この動画は「3D模擬奇島戦役」とのタイトルで、「20××年、某軍事同盟が国際法を無視して海洋での紛争を引き起こし、綿密に計画された奇襲作戦によって、いくつかの人民解放軍基地が攻撃された」場面から始まる。
 
 中国軍はこの報復として、沖縄の米軍基地とみられる軍事基地に中国の弾道ミサイルを撃ち込み、中国軍戦闘機が攻撃を加えたあと、中国軍の揚陸部隊が上陸を開始し、敵軍隊を壊滅し、敵の軍事基地に五星紅旗が翻るという単純なストーリーだ。一見たわいもない内容だが、実はこのような中国軍による短期集中攻撃作戦は米軍などの戦略家らの間でまことしやかに想定されており、単なる夢物語でない。
 
 特に、この動画がネット上に現れた9月というのは、それ以降、日本の集団的自衛権の行使を可能にする安全保障法案が国会で審議されていた時期であり、中国軍内で日本や米国に対する強い反発が生まれていたことは容易に想像できる。

 しかし、このようななかで、習近平にとって困った問題が起きた。それは、尖閣奪回を狙った動画によって、軍内の保守強硬派が勢いづいたことだ。

 もともとこの動画自体が習近平に反発する強硬派によって立案・作成されたもので、「軍内で尖閣奪還論を中心とする対日強硬派の声が一層強まってきた」と北京の外交筋は主張する。

 習近平としては、尖閣奪還は時期尚早であり、軍内の対日強硬論を抑える必要が出てきたのだ。このため、習近平が“火消し役”として起用したのが中国人民解放軍の上将で、習近平の側近として知られる国防大学政治委員の劉亜洲である。

 劉亜洲は昨年10月8日付の党機関紙「人民日報」で、尖閣諸島をめぐる問題に関して、ほぼ1面を費やした長大な論文を発表し、日本と中国が軍事衝突すれば「中国は勝つ以外に選択肢はなく、退路はない」と強調。もし、日本に敗北すれば体制を揺るがす事態に発展しかねないとの危機感を示唆したものとみられ「極力戦争を回避」すべきだと強く訴えた。

 劉亜洲は軍内でも対日強硬派として知られているだけに、そのような劉が日本への武力行使反対を論じることで、軍事改革に抵抗し、好戦的な軍内保守派を抑えるとの狙いが透けて見えるようだ。

 実際、劉亜洲は新華社通信のインタビューで、軍事改革について「中国の軍事改革に反対する声は我が軍内から上がっている。わが軍の一部の幹部は好戦的で、すぐに戦争をしなければならないと主張するが、我々が戦争に勝つために、まずは改革を進展させなければならない。改革を成功させるには、軍幹部が自らを犠牲にする覚悟がなければならない」と強調している。

 前出の北京の外交筋は「軍内の対日強硬派は習近平が進める軍事改革に反対する勢力と重なり合っている。軍内では30万人の削減や陸軍主導の現在の7大軍区体制から中央軍事委主導の1戦略区司令部・4大戦区構想への移行に強い反発が生じている。軍事改革を成功させるために、習近平としては軍内の反日機運を抑える必要があるのだ」と指摘する。

 しかし、軍内には、尖閣は中国にとっては絶対に譲れない「核心的利益」であるとして、「領土奪回」をことさらに主張する勢力も根強い。尖閣をめぐっては今後も予断を許さない状況が続く。