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君が笑うと嬉しくて3

翌日。

澄み切った青空の下洗濯物を干しながら、##NAME1##は昨日の事を思い返していた。

(あの時、シンさんにキスされるのかと思ったんだけどな……私の勘違いなのかな)

急に不機嫌になってしまったし。
かと思えば、今朝はいつも通りの彼で。

彼の一挙一動に悲しくなったりドキドキしたり、振り回されてばかりで##NAME1##は正直参ってしまう。

けれど、いつもの意地悪く微笑んだ彼の顔を見たら。

何もかも吹き飛んでしまう位、嬉しいのだった。

(…どんなシンさんも好きだけど、やっぱり笑ってるシンさんが1番だな)


「##NAME1##さん、今日はこの街でお祭りがあるそうですよ」

甲板の掃除をしていたトワが話しかけてきた。

「へぇ~いいね!お祭りかあ」

「夜にはこの港で花火も上がるそうです」

「ホントに?!すごいね!港のどのへんで打ちあげるんだろ」

(シンさんと見たいな。誘ってみようかな…………でも、断られたら悲しくなっちゃうしな)

ううむ。と腕組みして悩む##NAME1##である。





結局、##NAME1##はシンを誘うことが出来ずに、時刻は夕方になってしまった。
シンはというと、リュウガと一緒に航海室にこもりきりである。
今後の航路について話し合っているのだろう。


(ナギさんのお手伝いでもしようかな)


厨房へ向かうとナギが意外そうに##NAME1##の顔を見た。
「お前、ここにばかり顔出すとまたシンにどやされんぞ」

「えっ…何でですか?」

紅茶の反応にナギは深く溜め息をつく。
昨日のシンとナギのやり取りを目の当たりにすれば、いい加減気付くだろうと思っていたが…。

「お前、いくらなんでも鈍すぎるだろう」

「はあ…昔からよく言われます」

##NAME1##はよくわかっていない様子で答える。

この男だらけの船の中で、##NAME1##がこんな調子ではシンも色々と気が気でないだろうと、少し同情してしまう。

そんなナギにはおかまいなしに、用意された料理の数々を見て##NAME1##が口を開いた。

「なんか…今日はいつにも増して豪華ですね?」

「今日は祭らしい。あの船長がこんな夜に大人しくしてるわけないだろ」

「何だかんだ、しょっちゅう宴ですね」

(宴なら…シンさんと花火見上げる位、出来るかな?)

淡い期待を胸に抱き、宴の支度を手伝うのだった。







夜になり、港が賑やかになった頃、シリウス号の宴も始まりだした。

甲板から下を見下ろすと、露店がずらりと並び人が行列を作っている。


「人でいっぱいだなあ…」

##NAME1##はちらりとシンの様子を伺う。
宴が始まってからも、リュウガの横で飲み出してしまい声をかけられずにいた。

「##NAME1##さ~ん、ちゃんと食べてますかあ」

ハヤテに次から次へと酒を注がれ、すっかり酔っ払ったトワがやってきた。

「もちろん食べてるよ!……トワくん、すごい顔赤いけど、だ、大丈夫??」

「はぃ…。ちょっと飲まされすぎました…」
「アハハ。皆強いもんね~。同じペースで飲んでたら倒れちゃうよ」

「花火、そろそろ上がるんれしょうか…」

「そうだねぇ、楽しみだなあ」


「##NAME1##」


「わ!シンさん」

さっきまでリュウガの隣に座っていたシンがいたので##NAME1##は驚きの声をあげた。
「大きな声だすなよ…抜け出すぞ」

「…へ?」

シンが##NAME1##の手を握る。

「えっ、二人ともどこ行くんれすか」

トワが慌てて聞くと
「デートだよ」
ニヤリと笑みを残し、##NAME1##の手を引いて船から降りてしまった。




「シンさんっ、勝手に抜け出しちゃっていいんですか?!」

「船長も了解済みだ。……それより、人が多いからはぐれるなよ」

「はっ、はいっ」

シンが強く手を握ってくるので##NAME1##は顔が赤くなるのを感じた。

(デートだなんて、どうしたのかな?)



「よし、この辺が良さそうだな」
花火を見物するには丁度良い場所なのだろう、沢山の見物客達が腰かけていた。

シンが石段に座る。

##NAME1##も少し離れてシンの隣に座った。
「もっとこっちこい」

ぐいっと腰を引き寄せられた。

(わわわっ!近い!シンさんが近すぎるんですけど!)



「##NAME1##」



「は、はい?」



その時、大輪の華が夜空に咲いた。


人々が歓声を上げる。


##NAME1##も、感嘆の声を上げた。

「…すっごい綺麗…」

シンは花火に見とれるでもなく、##NAME1##に目を奪われる。
花火が打ち上がる度に##NAME1##の笑顔が照らされた。
(今まで女なんて欲の掃け口でしかなかったのに)
だが今は目の前の##NAME1##を、とても大切だと思う。そして同時に、彼女の何もかもを奪い尽くして自分だけのものにしたいという激しい独占欲が湧きあがる。
そして、まっさらな彼女を自分の手で汚してしまうのではないかとも思うのだ。

自分は今までまともな恋愛もしてこなかった。
だから、自分のこのいびつな愛情で##NAME1##を傷つけてしまうのではないかと臆病になる。

けれど、愛さずにはいられない…。

「どうしてお前はこんなにも愛おしいんだろうな…」

シンが、独り言の様に言った。

「えっ?」

##NAME1##が、視線をシンに向けたその時。


(もう、自分の想いをごまかすことも抑えることも出来やしない)


シンは躊躇いながらも。


口づけた。



触れるだけの、一瞬のキス。



「お前が好きだ」



シンの告白と共に、また一輪、空に華が咲きみだれた。







シンの告白に、##NAME1##は驚きのあまり声も出せなかった。


ただただ、目を丸くするばかりで。


そんな彼女をシンはまた愛おしそうに見つめて。


もう一度、口づける。


角度を変えて、何度も触れるだけのキスをした。


抱きしめる。


愛おしい体温が自分の腕の中にある。


それだけで、こんなにも満たされるのだとシンは改めて思い知る。


「……シン、さん?」


抱きしめられながら、##NAME1##がやっと口を開いた。

「なんだ」

「あ、あの、嬉しさのあまり混乱しちゃってよくわからないんですが…わわわわ、私を好きとは本当ですか?」


「アホ。こんなこと嘘ついてどうすんだよ。おまけにどもりすぎだろ」


半ば呆れつつ、腕の中の##NAME1##を小突いた。


「だって、こないだまでシンさんすっごく冷たかったし……私てっきり嫌われたかと…」


小突かれた頭を押さえながら##NAME1##が言う。

「それは……」

シンが言い淀む。

「お前があんまりにもナギんとこばかり行くから妬いたんだよ…」

罰の悪そうな顔を微かに赤らめた。


(えええっ…!じゃあ、今までのはみんな……ヤキモチ……)
ならば、ナギとの険悪な雰囲気も頷ける。

「……シンさん、意外に嫉妬深いんですね……うふふふ」


##NAME1##が、笑う。

「うるさい。………俺だって、自分がこんな嫉妬深い奴だったとは思わなかったよ」
シンが拗ねたように言う。

「なんだかシンさん、可愛い」

ふふっとまた、##NAME1##が華のように笑った。

「もう、黙れ」

シンが今度は強引に##NAME1##の唇を奪った。

舌を割りこませて、深く、深く、激しく口づけた。

頬に手を這わせると、一瞬にして##NAME1##の顔が熱くなったのがわかる。

「お前、顔すっげー熱い」

「だっ、だってっ!シンさんがすごいキスするから…っ」

##NAME1##の反応が可愛いくて、シンは自然と笑みがこぼれる。


シンの優しく笑った顔を見て、##NAME1##も嬉しくてたまらなくなった。





そうして、##NAME1##は満たされた思いで、再び空に咲く華を見上げる。


そんな彼女の笑顔を、何よりも、どんな花火よりも綺麗だとシンは思いながら。


一緒に、夜空を見上げた。









君が笑うと嬉しくて。

君が笑うと。

私の心に、大輪の華が咲く。









end

君が笑うと嬉しくて2

「いいのか、シン」
隣で伏し目がちに歩くシンに、リュウガが問い掛けた。
「…なにがですか」シンは下を向いたまま、リュウガとは目を合わさない。
そんなシンを見て、リュウガは溜め息をついた。
「…いや、俺が口出しすることじゃねえな…」






(本当に俺はどうかしているな)
シンはベッドで、深い、深い溜め息をつく。
自分の腕の中で喘ぐ女が、##NAME1##だったら…と思うなんて。
シンの隣では女が、乱れた髪を気怠げに整えていた。
「なんだい、さっきから溜め息ばかりついて。辛気臭いったらないねぇ、相手がアタシじゃ不満だったかい」
シンより僅かに歳上だろうか、女は気の強そうな目でシンを見据えた。

「ふぅん………あんた、恋患いでもしてんのかい」

女の問いに、微かにシンの瞳が揺れた。

「……なんでそう思う」

「女の勘だね。……今まで沢山の男達を見てきたからねぇ。アタシぐらいになると、わかるもんさ」

「図星だね」

ふふんと女が笑う。
が、シンはポーカーフェースを崩さない。
「女慣れしている癖に心底惚れた相手にゃ、なかなか手が出せないでいるんだろ?」

「…知ったようなことを言うな」
シンが低い声で言う。
これだから商売女は侮れない。
彼女達の女の勘というのは時に、当人さえも自覚していないことを指摘してくる。

「あんた海賊なんだろ?いつまでこの街にいるんだい?明日はちょっとした祭があるんだよ。とっても綺麗な花火があがるから、その恋患いのお相手でも誘ってサクッとやっちまいなよ」

「……最近の娼婦は恋愛相談もやっているのか…」
シンは呆れたように言って、ベッドから起き上がり身支度を整え始める。
「リュウガとは古い付き合いでねぇ。仲間のあんたにゃ特別に恋愛相談きいてやってもいいよ」

「もう夜なんだから泊まっていきゃいいのに。恋のお悩みを聞いてやるよ」
女がシンの腕に手を回してくる。シンはそれを振りほどいた。
「生憎、恋愛相談も必要なけりゃおしゃべりに付き合う程暇でもないんでな」



外に出ると、もう星が空に広がっていた。
リュウガはきっと、泊まっていくのだろう。

女に心の中を見透かされ、更には自分でも気付かずにいたものを容易に言い当てられてしまい、シンは戸惑っていた。





ここずっとシンの中に渦巻いていたのは、激しい程の嫉妬心。

独占欲。


馬鹿げている、と思った。

あんな小娘に、いつの間にかこれほど恋焦がれているなんて。

しかもそれを、娼婦に気づかされてしまうとは。

「情けねーな……」

星空の下、シンは一人、呟いた。




シンが部屋に帰ると、そこに##NAME1##の姿はなかった。
時間的に風呂の時間でもない。
いつもなら眠っているはずだが。

シンは眉根を寄せ、厨房へ向かった。

予想通り、厨房はまだ明かりがついていた。
そこには##NAME1##と……………

ナギも一緒である。

ナギは明日の仕込みをしているようで、##NAME1##はそれを横から見ていた。

二人が並んでいる姿があまりに自然で、恋人同士のようにシンには見えてしまう。
毎日の様にナギの手伝いをする##NAME1##だ。厨房の空気に自然と溶け込んでいた。

「……シン、帰ってきたのか」

ナギが作業する腕を止めずに話しかけてきた。

「………ああ」

変な緊張感が厨房に漂う。

##NAME1##は、何か言いたげにシンをじっと見つめた。

「##NAME1##」

シンが怒ったような声で名前を呼ぶと、反射的に「はいっ」と素直に##NAME1##が返事をした。
その様はまるで忠犬のようで、シンとナギの張り詰めた緊張感を一瞬で削いでしまった。
「………寝るぞ」
シンは、ぐいっと##NAME1##の腕を掴んだ。

「おい」

ナギが制す。

「仕込みを手伝ってもらっている」

シンが鋭くナギを睨みつけた。

「…##NAME1##は先に部屋に戻ってろ」

「…でもまだ仕込みが終わっていないんです」
シンとナギの様子に圧倒されながら、##NAME1##が恐る恐る言う。

「いいから」

また怒ったような声で言われ、##NAME1##は「ナギさん、手伝えなくてごめんなさい」と謝り、シンの言う通り部屋に戻った。



##NAME1##が出ていった厨房には、再び張り詰めた緊張感が漂う。

「……女の趣味が変わったな?」

シンがからかうように言う。
ナギは顔色一つ変えずに、口を開いた。

「……あいつ、ここ最近のお前の態度に傷ついている。中途半端にあいつを縛りつけるのはよせ」

「俺があいつにどんな態度とろうがお前には関係ねーだろ」
シンはムッとして答えた。
ナギがフーッと溜め息をつく。

「……あるよ」

ナギの言葉にシンが目を見開く。

「お前がそうやっていつまでも煮え切らないなら、俺がもらう」

思わぬナギの言葉にシンは一瞬固まってしまったが。

「あいつは俺の女だ」

勢い余って思わず宣言してしまった。

今度はナギが固まる番だった。
が、すぐに苦笑する。

「だったら、あいつにそう言ってやればいい」

「お前ら二人、じれったくてしょうがないんだよ。………早いとこくっついてくれりゃ、俺も諦めがつくしな…」

ナギがやれやれ、と肩をすくめた。


「仕込みの邪魔だ。さっさと部屋へ戻れ」





シンの部屋では##NAME1##がベッドに腰かけていた。
(シンさん、また怒ってたなあ…)
どうしたもんか。と頭を抱える。
(だけど、今日は私の方こそシンさんに怒りたいくらいなんだけどなあ。お買い物…付き合ってくれるって言ってたのに…よりによって娼館とか行っちゃうし……)

どんな女性が相手だったのか。
気になってしまう。
(きっと私なんかとは正反対の人よね…)

自分がもっと魅力的だったら、彼は女扱いしてくれるんだろうか。

(シンさん、戻ってこないな…。ナギさんともさっき険悪な雰囲気だったけど、一体どうしちゃったんだろう)

(早く来ないかな)

彼が自分の傍にいてくれないと、やはり何だか心許ない。

最近は、他の皆とも仲良くなれて楽しく過ごしていたけれど。

シリウスに乗ってから、ずっとシンの後を追いかけ、彼の背中を見てきたのだ。
シンの傍が、1番落ち着く。
今日もナギに買い物を付き合ってもらったが、シンの事がずっと心にひっかかっていた。
(シンさんの話ばかりしちゃったしな。ナギさんは退屈だったかもしれないな…)

先程シンに掴まれた腕が熱い。

(シンさんの傍にいたい)

だが、また冷たく突き放されたらと思うと##NAME1##は泣きたくなってしまう。




しばらくして、ガチャリとドアが開き、シンが不機嫌そうに部屋に入ってきた。

(わわ、来た!)

待ち人が来たというのに、##NAME1##は萎縮してしまう。

「……##NAME1##」

幾分柔らかい声で、シンが名を呼んだ。

「は、はい」

「今日は、付き合ってやれなくて悪かったな」

ぽん。

頭に優しく手を置かれた。

それは、ここずっと##NAME1##が望んでいた温もり。
恋しい人の、大きな温かい手だ。

安堵のあまり、##NAME1##は涙をぽろぽろと零した。

「ばか、何泣いてんだ」

「だっ、だってっ…」

指で##NAME1##の涙を拭ってやる。

シンはじっと##NAME1##を見つめた。

自分の中に、温かな気持ちが溢れてくるのが、今ならわかる。


(愛おしいってのはこういうことなんだな)


##NAME1##の白い滑らかな頬にそっと手を伸ばした。

「お前は素直だよな」

「へ?」

「俺も素直に認めないといけないな」

自分の気持ちを…

ゆっくり、ゆっくりと##NAME1##に顔を近づけた。
二人の唇が後僅かで触れそうになった時。

サイドテーブルに見慣れないぬいぐるみが置いてあるのが、シンの視界に入った。

やたらに存在感を放つそれを、シンは無視出来ずに「お前、あんなぬいぐるみ持っていたか?」と尋ねてしまう。
シンの顔が間近にあるのが恥ずかしい##NAME1##は、顔を真っ赤にしながら答える。
「へっ?………あ、今日お買い物の時にナギさんが買ってくれたんです。いいって言ったんですけど。ナギさん、無愛想に見えて実は優しいんですよね」

ナギと聞いた途端に、シンは身を引いた。

「ナギと買い物に行ったのか」

「えっ?だってシンさんが…」

あっという間に、不機嫌なシンに戻ってしまった。

シン自身、これでは同じ事の繰り返しだと嫉妬を押さえようとするが、ナギの##NAME1##への思いを知ってしまった今では気持ちのコントロールが難しい。

「もう寝る」

シンはそう言って部屋の明かりを消し、床に寝転がった。

##NAME1##はまたしてもわけがわからず、寝転がるシンに話しかけることも出来ず、やり場のない思いを胸に、ベッドにもぐりこむしかなかった。



少しして##NAME1##の寝息が聞こえてくる。
シンは眠れずに、起き上がった。
暗闇に、ナギが##NAME1##に買ったというぬいぐるみの影が見える。

(あのナギがな…らしくねえことしやがる。いや……らしくねえのは俺もか……)


『いつまでも煮え切らねえなら、俺がもらう』

ナギの言葉が蘇る。

(……誰が渡すかよ)

##NAME1##は初めて愛おしいと思った女だ。
絶対に誰にも渡せない。

強い決意のもと、シンは眠りに落ちていった。






君が笑うと嬉しくて1

ドスン!


真夜中、何かが落ちたような物音で目を覚ました。

薄く明かりをつけると、##NAME1##がベッドから落ちたのだろう、床に寝転がっていた。

「…全く、またか」

シンは深い溜め息をついた。

ひょんなことからシリウス海賊団の一員となってしまった女…##NAME1##は、どうも寝相が悪い。

毎夜の如く、ベッドから転落するのだ。

抱き上げてベッドに戻そうとすると、白い首筋が薄暗い部屋にぼんやりと見える。

普段は子供だとからかってはいるが、こうして抱き上げると柔らかく心地好い女の身体そのものだった。
起こさない様にそっとベッドに横たえて布団をかけてやる。


静かな寝息をたてて眠る##NAME1##を、シンはベッドに腰かけて見下ろした。


(…自分に妹がいたらこんな感じなんだろうか)


最近は##NAME1##が自分の側にいるのが当たり前になっていて、姿が見えないと無意識に探してしまうのだ。
##NAME1##は##NAME1##なりにシリウスの皆と親しくなったらしく、ハヤテやトワ、ナギとも楽しそうに船での仕事をこなしているようだが。


驚いたのは、あのナギさえも笑顔にさせてしまうことだ。


昨日も厨房で野菜の皮剥きを手伝っているところを見かけて、つい、別の用事を言いつけてしまった。

楽しそうにナギと話している##NAME1##を見て、シンは変な焦燥感を覚えたのだ。

(こんなの、らしくねぇな…)


その晩、眠れずにシンは##NAME1##の寝顔をずっと見ていた。






「明日は、陸に上がるから入り要なものがあればまとめて買い物しておけ。しばらくは海の上が続くからな」
一生懸命に航海室の床を磨く##NAME1##に声をかけた。
久々に買い物出来るのが嬉しいのだろう。
##NAME1##は顔を綻ばす。

「丁度船長から服を買えってお小遣いを頂いたんです。」

「そうだな、いくらチンチクリンでもちょっとは女らしい格好をした方がいいな」

「…………どうせ私はチンチクリンです…」

##NAME1##が頬を膨らます。

そんな反応をシンは満足気に見て、「買い物するなら付き合ってやるよ」と言った。

「お前一人で歩かせたら迷子になりそうで危なっかしいからな」

「迷子って…シンさんはすぐ私を子供扱いするんですから…………」

「なんだよ、不満か?俺が付き合ってやるんだぞ?ありがたく思え」

「いいえ、楽しみです!二人でお買い物なんて、デートみたいですね!」

(デート!?)

思わぬ単語にシンはうろたえたが、##NAME1##は気付かずに屈託なく笑っている。

「明日が楽しみです~」



(俺は一体、何を取り乱しているんだ!)

ポーカーフェースを崩さず、しかし心中では激しく狼狽していた。
##NAME1##の一言で、心乱してしまう自分に叱責する。

(こんなガキ相手に、ばかか俺は)



「さてっと!シンさん!航海室のお掃除終わりました!」


「あ、ああ。じゃあ次は…」

「シンさん、私この後、厨房のお手伝い頼まれてるんです……ごめんなさい、何かありましたか?」申し訳なさそうに##NAME1##が言う。

厨房という言葉にシンの眉がぴくりと動いた。

「ナギか………」

最近は毎日のように厨房に出入りしている##NAME1##。
覗くといつも、楽しそうに手伝いをしている。



まただ。
変な焦燥感がシンを襲う。

「好きにしろ」

明らかに不機嫌な声を残して、シンは航海室から出ていってしまった。


「……まだお手伝いすることあったのかな…シンさん、怒っちゃったみたい……」


モップを握りしめ、##NAME1##は一人、しゅんとしていた。






(遅いな……)

##NAME1##が厨房へ手伝いに行ってから、まだ戻ってこない。
特に用事があるわけでもないのに、シンは##NAME1##がなかなか部屋に戻ってこない事に苛々していた。

いつもなら厨房へ出向いて適当に仕事を言い付け##NAME1##を連れ戻すところだが、今日はそんなことをするのも腹立たしくてならない。


何より##NAME1##のような小娘に心乱されている自分が気にいらない。


いてもたってもいられず、シンは立ち上がり自室を後にした。





甲板に出ると、冷たい空気がシンを迎えた。結局厨房に行くことも出来ず、甲板へ上がってきた。

海は静かに穏やかだ。
大きな夕日がゆっくりと海に沈んでゆくところだった。


(そんなにナギといるのが楽しいなら、いっそナギの部屋に移動すりゃいいんだよ)


そもそも俺の部屋なんて選ぶから。


あまりに無防備な姿を見せるから。


屈託ない笑顔を見せるから。


気がつくといつも自分の後ろをついて歩いていたから。


自分が面倒見てやらなきゃいけないと思ってた。


(…………なんだろうな、この気持ちは)



シンは苦々しい思いで、海を見つめていた。




その日の夕飯には##NAME1##の料理も並んだ。
ナギに料理を教わっていたという。


皆、美味しいと褒めていたが、シンは手をつけなかった。






(シンさん、私が作ったもの一口も食べてくれなかったな…)


夜、##NAME1##は眠れずにいた。

床に目をやるとシンの背中が見えた。
(寝てるよね…)
最近、彼が苛々していることが多い。
機嫌良く話していることも勿論ある。
が、突然不機嫌になりそっけなくなる。

##NAME1##は自分が何かしでかしたのかと思い巡らすが、皆目見当がつかない。

先程、ベッドに入る前もシンに話しかけようとしたが、彼の身に纏うオーラに萎縮してしまった。


(明日、一緒にお買い物出来るかな…)


##NAME1##は再び床に眠るシンに目をやった。
寝返り一つせず、静かに眠っている。

(遠いなぁ)

こんなに近くにいるのに、とっても遠い。

シリウスに乗り始めて間もない頃に比べたら、だいぶ彼に近づくことが出来たけれど、やはりまだまだ遠いのだ。

(シンさんにもっと近づきたいな…)

彼の心に寄り添える存在になりたい。
そんなことを考えながら##NAME1##は眠りについた。


翌朝、予定通りシリウス号は港街へとたどり着いた。

宿がどこも押さえられず、滞在期間の三日間、夜は船に戻ることになった。

「よし!俺は娼館に行くが、誰か一緒に来るか?」

リュウガが陸に降りるなり船員達に声をかけた。
(娼館かぁ…船長は本当に女の人が好きだなあ…。それより…)
##NAME1##はちらちらとシンを盗み見る。
(シンさんと全然話し出来てないんだよね。お買い物に付き合ってくれるのかな…)
シンに話しかけるのを躊躇していると、トワに話しかけられた。

「##NAME1##さんはシンさんと一緒に行動するんですか?」

「う、えっと…」
答えに詰まっていると
「船長、たまには付き合いますよ」
シンが##NAME1##の目の前を素通りしてリュウガの後についていく。

##NAME1##は慌てて声をかけた。

「シンさんっ!」

シンは立ち止まり、鋭い視線を##NAME1##に向ける。

「…買い物ならナギに付き合ってもらえよ」

静かに怒りを含んだ声で突き放すように言うと踵を返して行ってしまった。

なぜ、あんなにシンが苛々しているのか、いきなりナギの名前が出てくるのか、##NAME1##には全くわけがわからない。

ただならぬ様子のシンを見て、トワも驚いてしまった。

「##NAME1##さん、シンさんと喧嘩でもしたんですか?シンさん、めちゃめちゃ機嫌悪いです…」


「……私、何かやらかしちゃったのかなあ……でも全然わかんないよ~」


##NAME1##はただ頭を抱えるしかなかった。








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