少年時代、都内や北関東を巡る。
俺の家族は転勤族だった。

悲しいが、俺には故郷なんて無い。

経験のある奴なら分かると思うが辛いのは、文化圏の違い【方言や行事】そして、人間関係だ。
当然だが運が悪いとなかなかの『いじめ』に遭う事も少なくない。

せっかく出来た友人達も俺にとっては生涯のマブダチになるはずもなく、ただの
『期間限定。一回分の友達』的な感覚である事が多かった。
やがて「今度は長くいる事になるから。」
親父が言った。

それから3年程、俺は埼玉県の某小学校へ通う事になる…。初恋もこの時だった
少年だった俺はやたらと活発で他人を笑わせる事に関して異常に気張っていた。それは今から思えば目立たないとやっていられない。
一秒でも早く人間関係作りたい。
いじめられたくない。
そして自らの淋しさの裏返しだった。


あの頃は時間が穏やかに流れ、全ての事象が新鮮で色鮮やかに胸に飛び込んできた。
また俺自身も恐れずに何にでも飛び込んで行った

それでもわりと無垢だった俺はやめときゃいいのに恋をした。
勝ち気で優しい娘だった。

あまりに夢中でうかつにも【期間限定】を忘れていた。
くだらない日常会話。
たまのイベント。
とにかく全てが満たされていた。

「引っ越しするから」
「家買うし、ばあちゃん家近くなるからよかっただろ?」
「…。ああ。」部屋にこもり朝まで泣いた。
なぜあの時逆らわなかったんだろう?無駄だと分かっていても反抗すればよかったのに。
いつからか大分我慢出来る物分かりの良い子供になっていた。
ドア越しに「オイ!明日先生にそう言ってこいよ!?」
「分かってるよ。」

翌日、引っ越しの日付を言った。
知らなかったが卒業式の3日前だった。
先生も哀れと思ったか親と掛け合ってくれたみたいで結局卒業式にはでれる事になる。
「今日の帰りのHRで皆の前で報告してくれる?」
「卒業したら皆バラバラになる。俺だけ話さなきゃいけないのは嫌です。」
「でも皆は〇中学か×中学に行くんだよ?2つしかないんだから分かるよ?」
「俺だけは3つ目に行くだけです」
「………。皆仲良くしてきた友達です。別れの挨拶はして下さい」…。
このやりとりは今、書いても気に入らねえ。
「僕は長野県の中学に進むので皆とは卒業式でお別れです。今までありがとうございました。楽しかったです…」
涙が止まらなかった。
『長くなる』あのセリフを聞いて俺は友を作ってしまった。
恋をしてしまった。
胸に思い出が焼き付いていた。
その晩、電話が数件鳴り、そのうち1つは好きになった娘からだった。
「私、家帰って泣いた…。」
素直過ぎる言葉がまた胸を締め付けた。
「なんでお前が泣くんだよ?」
声が震えた。
「ちょっとは淋しいと思ってあげたんだよ?」
「別に死ぬ分けじゃねえよ。」
人生終わったと思っていた。
「あと少しあるから楽しくやろうね!」
「うん。」

好きでも無理矢理、引き離される。
当人の努力が
気持ちが一切及ばない。
許されない。
不条理、無権利で絶対的な環境。
無力を痛感させられた。


『泣いているより笑顔で残りを過ごしたい』
俺は現実を受け入れた。
不思議と残り時間が少なくなる程、時は穏やかにゆっくりと流れてくれた。
大切な仲間達と遅くまで騒いだ。
帰りたくなかった。
好きな娘の手を握るだけで精一杯だった。
2人で泣きながら乗ったブランコ。
そこから見えた景色、細長く滲んだ夕陽。

堪らなかった…。

「最後の日、見送りに行ってあげるから。」
『タハハ汗最後に会いたいと思ってくれたんだ…』と思った複雑な気分だった。
ガキのくせに時間が無常に確実に過ぎて行く現実をよく理解していた。
強がらず、
格好もつけず、
照れもせずに
「うん。ありがと。絶対来てくれよな!」そう言った。

微かなプライドが【最後の時】を受け入れられなかった。出発時間は濁して告げなかった。
もう涙の別れを耐える事。
絶対に出来ないってわかってたから…。

明らかにそんな環境に置いてくれた両親を憎み拒絶してしまう事になる。
そんな気持ちが芽生えているのも感じていたから。

卒業式が終わり俺は長野県へ。

数年後、電話で「やっぱり好きだから付き合ってくれ遠距離だけどさ?」
「うん。いいよ遠距離だけどね」俺の初恋は数年経て実ったチョキ

生涯、色褪せない3年間。

【完】

最後まで読んでくれた人へ。
ありがとう。
「オメーよ~。付いてくんじゃねえよ。気持ちワリーなー。」

夕暮れの帰り道。
アイツは病気だった……。
俺は、知ってたんだ。

ガキの頃。
足に若干、障害のあるヤツがいた。
同じクラスで普通に生活をしてた。
仲間も多かった。
厭味も無く皆がソイツに対して協力的だった。
いじめのかけらもなかった。
でもそれは、ひたすらに俺達の主観だった。

「将来何になりたいか?」
「マラソンランナー」
なんだそりゃ?
皆が静まり返った。
先公まで絶句した。
治らない事は皆が知ってた。
誰かが叫んだ。「スゲーじゃん。」「なれるよ!」「カッコいい!」「ヒューヒュー!」
その刹那のアイツの顔が今でも脳裏に焼き付いて離れねえ。
完璧な無表情。
ポーカーフェイス?は?何それ?笑わせんなってぐれーの比べモンにならないものだった。
はっきり言って怖かった。『コイツなにすねてんだ?何が気に入らなかったんだ?』
帰り道。無神経にも興味をもった俺は屈託なく「オメー、アン時なんでマラソンランナーっつったの?」
「別に…。」
「マジ?なりてえの?」
「別に…。」
「??だソレ?」
「走ってはみたい…。」
「は?」
「皆の顔が見たかった。」
「は?」
「本当はどう思われてんのか?って知りたかった。」
「オメー何言ってんだ?」
「俺、誰にも助けてもらいたくねえ。」
なんとなくわかった気がした俺は話題を変えようと、
「俺は社長になりてえ。」「なんで?」
「何にもしなくて金もらえんだろ?いいじゃん。偉いし。」
「俺は俺でも何に成れるのか知りてえ。何があるか分かんねえしよ。」
「夢は?」
「お前をブッ飛ばす事。ハハハ」
「やってみろ。テメーが俺にかなうわけねえだろ?馬鹿野郎が!」バシッ!頭をひっぱたいてやった。
ムナクソ悪くなった。

俺は走った…全速力で…。
休まず、振り返らず、家迄の道のり約1キロを。
ソイツの家は俺ん家よかまだちょい先だった。だから俺は自宅前の道端でソイツを待った。
暫らく経って…。
「ハア…ハア…」
ソイツは汗だくで補助器具?を掴みながら現れた。
俺「おせえん…」ガツン!
だよ!を言い終わる前に殴られた。
「馬鹿はテメーだ!コラァ!」ソイツは補助器具を俺に投げつけ叫んだ。
マジで喧嘩した。ガタガタ震える足を踏ん張って立ってる奴と…。
やがて、疲れ果て、座り込み、ムカつくけど仕方がないので補助器具を座ってるソイツにぶつけ返した。
俺「テメー謝れよ。」
ソイツ「………。ありがとよ。」
俺「……。んだソレ!?」
ソイツ「アハハハハ!」
鼻血を垂れ流しながら笑ってた。
俺「オメーよ~。付いてくんじゃねえよ。気持ちワリーなー。」

今でもふと思い出す笑顔で、ソイツは俺にこう言った
「うるせえ。俺の方がつえー」


バシッパー


複雑な心境だったけど、おそらく生涯覚えてる。
夕暮れの帰り道。