1年間一緒に働いた年下の男性がいた。
30歳前半。
目上の人の懐に入ることがとても上手く、
会社で可愛がられていた。
陽気気質な彼を私は苦手だった。
仕事をきちんとせず、要領で場をやり過ごすので、なるべく関わりたくなかった。
しかし、夜間に2人で勤務することも多く、
彼のプライベートな生活の話に付き合うことが多かった。



ある時、珍しく重々しい雰囲気を醸し出して、
「これは、まだ誰にも言ってないんですけど。。。。僕、実は精神的に患ってた時があって」と、過去の辛かった話を話してくれた。
多忙な介護職で精神を壊し、人間不信にもなり、長い間入院もしていたそう。
この話を夜間に聞いたこともあり、ズーンときた。
若くて遊び盛りの時期に、大変な思いをされていたんだなと。


いつもの彼からは全く想像できない内容だった。
こんなにいつもノリノリで仕事場にいるのに、
彼にもこんな大変だった時期があったなんて。
実際私も働き詰めで倒れたことがあったので、
共感できた。



彼が本当に辛かった時に、支えてくれた音楽があったとのことで、youtubeで検索して見せてくれた。
「この人達がいなかったら、僕、立ち直らなかったんすよ」と、声をつまらせながら教えてくれた。





彼はこの映像を私に見せ、朗らかになった顔でこちらを見た。

……私…‼️頑張れ‼️‼️🤢 
絶対に、笑ってはならぬ‼️‼️🤢
今だけは、絶対に絶対に、何があっても笑ってはいけないのだ‼️‼️‼️
私‼️踏ん張れ‼️頑張れ‼️
死ぬ気で笑うのを制御せよ‼️
今日イチの大仕事はこれだ‼️



私は、必死だった。
なるべく息をしないように、腹にグッと力をいれた。
顔を下に向け、笑いを堪えるために震える肩。
どうか、泣くのを我慢している姿に見えてくれ‼️と、必死で願った。
もう、これは、何があっても絶対に笑ってはいけないので、立ち直った彼を傷つけるわけにはいかないので、全細胞の理性を総動員して全力で笑うことを防御した。
「そっ……そっか。そ…そ…それは…た…た…た…たいへんだったね」
なんとか振り絞って言えた。



そう。
人は、もちろんそれぞれの価値観だ。
彼が好きなもの、私が好きなもの、全く違う。
そんなことは、重々承知だ。
映像を見せようとされた時に、どんなMVを見せられても許容範囲内だと思っていた。



彼の風貌から、j-pop、ハードコア、ロック、メタル、パンク、アニソン何でも受け止めてやる‼️と思っていた。
許容範囲内に、ハイパー系全面ウキウキPOPミュージックを含めていなかったがために、息をもできぬ危機的な状況に陥り、彼を悲しませる事故になるところだった。


音楽の許容範囲。これだけは人以上に広いと自負していた。
慢心からの油断だった。
まだまだ範囲を広げておかなければ。