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大野が海を眺めていると、サーッと風が吹いて大野は思わず目を瞑った。
すごい、風だな。
そして、そっと目を開けるとそこに二宮が立っていた。
「カズっ!」
「大野さん。」そう言って微笑んでいる。
「どこ行ってたんだよ。探したんだぞ」
大野が抱きつこうとすると体に触れることが出来ない。
あれ?
カズ?
「大野さん、なにしてるの?」
「えっ?カズ?」
大野はハッと顔を上げた。
いつの間にか座ったまま眠っていた。
なんだ…夢か…
なんだ…
大野は夢だったことにちょっと笑った。
なんだ…(笑)
夢か…
カズ…
なんだ…
気付くと大野の頬に涙が流れていた。
なんで、夢なんだよ。
大野はベンチから立ち上がり海沿いを歩いた。
カズを探しているのに、えりかと来たことを思い出していた。
流星…見たっけな…
綺麗だったよな。
今度はカズと見たいな。
流れ星。
まだ、昼間だ。
星は見えない。
暖かい空気が流れる。
海からの風が心地よかった。
こんなに晴れて気持ちのいい天気なのに隣にカズがいないことが不満だった。
もう、戻らないつもりで俺の前からいなくなったんだ。
パン屋に戻ろうかな。
きっとカズもそれを望んでる。
それに…
パン屋に戻ればカズが帰って来るような気がした。
少し歩いたところで、大野はポケットからスマホを出すとえりかに電話した。
『あ、えりか?』
『智くん…久しぶりだね。』
『うん。』
『どうしたの?』
『俺…パン屋戻ってもいいかな?』
『えっ?』
『勝手言ってるのは分かってる』
『うん。勝手だと思う。自分から勝手に辞めて、私に店を譲る…なんて言っておいて…』
『そうだよな…ごめん』
『でも、もういいよ。許す』
『えっ?でも、いいの?』
『いいよ。許す。だから戻って来て。』
『うん…ありがと。』
『うん…』
大野は、電話を切るとそのままパン屋へと向かった。
カズが、望んでるなら。
みわちゃんからも電話があった時に言ってたもんな。
「大野さんをお願いします」って言ってたって。
それって…
やっぱりそういう事なんだよな。
パン屋に戻って欲しいって。
前にもそんな事を言っていた。
だから。
カズの望むようにパン屋に戻ろう。
大野は、少し歩く速度を速めた。
続く