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『再会』和Side~
俺は…
考えても答えは出なかった。
結局、翔ちゃんの想いも無駄にしてしまった。
これじゃ…
ダメだな。
楓に気持ちを伝えるだけ。
それだけの事がいつまで経っても出来ずにいる。
月日は流れてまた一年が過ぎようとしていた。
その日、仕事が終わって会社を出ると眩しいくらいの太陽だった。
夕方になってもこんなに暑いのか。
今年の夏は更に暑い。
楓と翔ちゃんと3人で行った花火大会を思い出していた。
あの頃は本当に楽しかったのに。
ただ好きだと言う思いだけだった。
大人になるに連れ複雑な状況になりすれ違うことも多かったり誤解されたり。
どんどん難しくなっていく。
少し歩いた所で小さな子供と手を繋いで歩いている女の人が見えた。
暑さのせいで視界も悪い気がした。
その女の人が近付いて来て、それが初めて楓だと分かった。
俺も恐らく楓もお互いに気付いていたのに声も掛けることさえ出来ずにすれ違った。
しかも楓は小さな女の子を連れていた。
結婚したのか…?
ふふ
俺は笑ってしまった。
こんなに悩んでいたのに、結局 楓は結婚したのか。
もう何もかもが遅かったんだ。
そう思った時、「カズくん!」聞き覚えのある声が俺を呼んだ。
振り向くと楓だった。
「楓…?」
「カズくんだって一瞬分からなくて…すれ違ってから、あっ!って思って。何度か呼んだのに?気付かないんだもん(笑)」
「ごめん…考え事してて…」
「仕事の帰り?」
「あぁ、うん。」
楓があまりにも普通なんで俺はなんだか拍子抜けしてしまった。
「カズくん、時間ある?」
「えっ?」
「ごめん、忙しいか…」
楓からの誘いに思わず戸惑いをみせてしまった。
「あ、いや…いいよ。大丈夫。」
「ふふ、良かった。じゃあちょっとお茶でもしようか?」
「うん…」
俺たちは近くのファミレスへと入った。
席に着いてすぐに気になっていることを聞いた。
「あの…その子は?楓の?」
「ふふ、似てる?可愛いでしょ?」
「えっ?あ、うん。似てるかな?」
俺は引きつった笑顔をしていたに違いない。
やっぱり楓の子なんだ。
「似てるって。ねっ?」
楓はその女の子に話しかけた。
まだ2歳とかそのくらいか。
あれ?でも2歳なら。
ん?
俺が楓を見ると楓は俺を見て笑った。
「カズくん、勘違いした?」
「…したよ、本当にびっくりした。」
「私の子じゃないよ。紗栄子の子だよ。カズくんにソックリだよね?」
楓はイタズラっぽく笑った。
「えっ?」
「カズくん、ちゃんと責任取ってよ?」
「へっ?嘘でしょ?だって、そんなに…何歳?その子?」
俺は一瞬慌てて頭の中がパニックになった。
「カズくん、大丈夫?冗談だったんだけど、ちょっと刺激が強すぎたか…」
そう言って「ふふ」と笑った。
「もう、楓ー、やめてくれよ。冗談にもならい冗談だし。」
「でも、一瞬慌てたでしょ?」
「だってさ。」
「カズくんが、あまりにも硬い顔してるから。私と会って緊張した?」
「まぁ、そりゃ。ねっ…」
「この子は友達の子。ちょっと預かってるんだ。美容院に行ってる間だけね。」
「そっか。びっくりした、本当にっ(笑)」
「カズくん、元気だった?」
楓は時々小さな女の子を見ながら俺と話しを続けた。
「うん。まぁ、見ての通り。元気だったよ。」
「そっか。良かった。」
「うん。」
「ねぇ?翔くんから…届いたでしょ?」
タイムカプセルのことか?
もしかして、俺のは楓に送ったのか。
「タイムカプセル?」
「そう。」
「俺のは楓のところに行ってたんだ?」
「うん…翔くんから電話がきてね。カズに送ったって。カズくんのは私のところにあるの。」
「そっか。読んだ?」
「読んだ。」
「カズくんの気持ち…」
そこまで言って女の子がジュースを零してしまった。
俺は楓の次の言葉をゆっくりと待った。
続く