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『渡したくない』翔Side~
耳元で楓が「会いたい」と言ってくれるのを待った。
―翔くん?
―なに?
―いつ…日本に帰って来たの?
―あぁ、ごめん。連絡もしないで。
電話の向こうから聞こえたのは思ってもみない言葉だった。
そうだった。
ずっと、連絡もしなかったんだ。
当たり前か…
―翔くん、本当に久しぶりだね。
―うん…カズ…と偶然会ったんだって?
―うん。そうなの。本当に偶然なんだけどね。びっくりしたよ。
―俺も今日久しぶりにカズに会ったんだ。楓とも会いたいな、なんてさ。
―うん。翔くんとも会ってないもんね。
―そうだな。
楓の口からは俺に会いたい、と言う言葉は聞けなかった。
―楓?
―なに?
―ずっと連絡しなくてごめんな。
―ううん。翔くん?
―ん?
―うん。また、いつか会える?
やっと、楓の口から「会える?」と言う言葉を聞けた。
―うん。会おうよ。久しぶりに。
俺は楓と近いうちに会おうと約束した。
それから電話を切ってソファへとまた横になった。
楓と久しぶりに会える。
会えると言う喜びと同時にカズへの罪悪感も湧いてきた。
楓と幸せになって欲しい、なんて言っておいてやっぱり楓を渡したくない。
そんな思いも湧いてくる。
なんか、もう分かんねぇな…
どうしたいかなんて。
ただ、こんなに何年も経ってるのにずっと楓を好きだと言う気持ちだけは変わらないんだな。
そんな自分が可笑しかった。
カズと楓と俺と。
三人でずっとずっと同じ未来を歩いていけたらいいのに。
なんてな。綺麗事だよな。
俺はそのままソファで眠りについた。
続く。