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『揺れる心』和Side~
翔ちゃんと約束した週末になった。
待ち合わせていた居酒屋へと向かった。
本当に久しぶりに会う。
昔は毎日のように一緒にいたのに。
不思議な感覚だった。
あんなに毎日会っていたのに急に会わなくなって月日だけが流れた。
月日は流れたのに自分だけはずっと、同じ場所にいる感覚だ。
先に店に着いたのは俺だった。
まだ時間が早いせいか人は少なく空いていた。
席に案内されて座ったと同時に翔ちゃんがやって来た。
「久しぶり」と言ってニコッと笑いながら席に着いた。
席に着くとすぐにビールを注文した。
「うん。久しぶりだね。」
「何年ぶり?」翔ちゃんは俺を見て聞いた。
「んー、何年ぶりだろ?」
「カズ、何歳だっけ?」
「34、、って翔ちゃんと同級生でしょ?」
「まぁ、そうなんだけど(笑)ちょっと聞いてみた。」
「ははは。それより翔ちゃん、いつから日本にいたの?」
「うん…少し前にね。」
「少し前?」
「いや、3年くらい経つかな…ごめん、ずっと連絡しなくて…」
「うん。どうしてるのかな?とは思ってたんだ。」
「そうだよね、ごめん。」
「翔ちゃん、聞いていい?」
俺がそう言うと翔ちゃんは急に真面目な顔になった。
「…うん…楓のことだよな…?」
「まぁ…うん。」
「俺さ…自信なくて…いつかフラるんじゃないって。楓優しいからさ。」
そう言ってビールを一気に飲むと店員に「すいません、ビールもう一つ」と注文した。
翔ちゃんは、何か言いたそうに俺を見た。
「なに?なんか言いたそうだよ?」
「いや…さ…楓、俺が日本から向こうに帰る時、ものすごく…うん…」
翔ちゃんはそこまで言って話すのをやめた。
「なに?気になるじゃん(笑)」
「あ、うん。」
「ん?」
「あの日、三人で久しぶりに会った帰り道、楓さ、本当はカズが好きだって…そう言いたかったのかもって。何か言いたそうにしてたんだ。でも…怖くて…言われたらどうしようって…言わせないようにしてたかも…」
「…うん…そっか…でも俺が好きって?」
「楓、本当はカズが好きなんじゃないかって。ずっと、そう思ってたんだ。」
「翔ちゃん。その話し、前にも聞いた…」
「うん。あの時、楓をよろしく頼むってお願いしたんだ。でもカズはさ。断っただろ?逃げてるだけだって…」
「翔ちゃん、ごめん。俺…嘘…付いてた。」
俺はドキドキしていた。
翔ちゃんに自分の気持ちを話すのは初めてだった。
楓への想いはずっと隠してきたんだ。
「嘘…?」
「楓のこと、好きだよ。今でも。今までも。」
「やっぱ、そうだよな…」
「えっ…?」
「気付いてたよ、それくらい。毎日一緒にいたんだ。」
「ふふふ、そうだよな。気付かれてないなんてさ。そんなふうに思ってたけど…」
「俺だってそのくらい分かる。」
翔ちゃんはニッと笑った。
「あー、そうだよな。なんかバカみたいだな(笑)ずっと、隠してきたつもりだったのに。」
「バカだな。俺がそんなに鈍感だと思った?」
「ハハ、まぁ。翔ちゃん鈍いとこあるし。」
「マジかよ、俺だってさ分かることぐらいあるって。で、楓のこと。どうしたい?」
なんだか意味ありげに聞いてくる。
「どうしたいって…」
俺が戸惑っていると翔ちゃんは真面目な顔で「楓のこと、幸せにしてあげてよ?」そう言った。
「幸せに…って言われても…」
「楓はさ、さっきも言ったけどカズのこと好きだよ。」
「でも…楓が、今更、俺を受け入れるかどうか…」
「今更…?」
「あ…」
翔ちゃんは俺をふざけて睨んだように見た。
「楓に好きだって言われた事…あるんだな?」
「あ、いや…うん。」
「やっぱりな…でもそれは知りたくなかった。」
「ごめん…」
「もう、いいよ。俺は二人が上手くいって欲しい」
翔ちゃんは、そう言って笑った。
それから二人でいろんな話しをした。
タイムカプセルのことも。
昔、掘り起こそうって話したこと。
いつかまたってそんな約束もした。
俺は居酒屋からの帰り道。
ずっと、考えていた。
楓のこと。
迎えに行くべきなのか。
すでに気持ちも変わっているかもしれないのに。
いつまでも俺が好きだなんて…自惚れもいいところだ。
楓…どうしたらいい?
帰り道、空を見上げた。
星は見えない。
曇っているからなのか。
都会の空だからなのか。
俺の心みたいだ。
今は曇ってる。
気持ちを伝えるだけでもいいのかな。
俺の気持ちは揺れていた。
続く