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『迷い』
紗栄子は楓が帰って来る日、空港まで迎えに行った。
「ただいま。」楓は紗栄子を見つけてニコッと、笑った。
「おかえり、楓」
紗栄子は楓に抱きついた。
「紗栄子、元気だった?」
「うん。楓がいなくて寂しかった。」
「本当に?」
「本当。」
紗栄子はニコッと笑った。
二人は空港からタクシーに乗って楓のアパートへと向かった。
「今日は、二宮くんは?呼ばなかったの?」
「うん。帰って来ること連絡してないんだ。」
「そっか。」
「紗栄子、カズくんとはどうなの?」
「えっ、二宮くんと?」
「あれ?だって、紗栄子、好きだって言ってたよね?」
「うん。好きだよ。でもね。友達のまま(笑)」
「そうなの?」
「うん。いいんだ。友達のままでも。」
「そうなんだ。」
「うん。それより、楓はどうなの?その彼とは。」
「うん…なんかね。よく分かんなくて…」
「分かんない?」
紗栄子は楓を見た。
「好きって気持ちは友達としてなのかなって…ずっと友達だったから…」
「でも、一緒に暮らしてたんでしょ?一年も。」
「うん…でもね。翔くん、抱いてくれなかったんだ。」
「そうなの?!一年も一緒に暮らしてて?」
「うん。本当に好きなのか好きでいてくれたのか分かんなくて。私…最初の夜に泣いちゃって、それが原因かなって。」
「泣いたの?どうして?」
「キスしてくれて、そしたらなんか…」
「楓?」
「なに?」
「本当は二宮くんの所に行きたかったんじゃない?」
「えっ?」
「楓、本当は二宮くんを選びたかったんじゃない?」
「紗栄子、私は…」
「分かってるよ、二宮くんにフラたこと。でもね、二宮くん、ずっと悩んでた。私それを見てきたの。」
「紗栄子…なんかごめん。紗栄子だってカズくんが好きなのにね。」
「もう、バカだな、楓は。そんな事気にしなくてもいいんだよ。二宮くんは本当に楓のことが好きだよ。見てれば分かる。」
「紗栄子、私…どうしたらいい?」
楓は紗栄子を見て泣き出した。
「楓…」
紗栄子は楓の頭を撫でながら抱きしめた。
「私もう、分かんない。」
「自分の気持ちに正直になりな。楓。彼にはきちんと話した方がいい。翔くんだっけ?彼もさ迷ってたんじゃない?だから楓を抱かなかったんだよ。」
「…翔くん優しかったんだよ。ずっと…泣いた理由も…あんまり聞かなかった。ずっと笑ってくれてるの。」
「裏切りたくない?フリたくない?傷付けたくない?」
紗栄子は楓の顔を覗き込んだ。
「…カズくんに会いたい…」
楓は紗栄子を見た。
「楓、答えになってないよ?彼はどうするの?」
「…少し考えたい…私、ずっと後悔してたのかもしれない。」
楓は、紗栄子を見つめた。
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櫻井は楓が日本に、帰ったあと二宮に久しぶりにLINEをした。
«カズ、久しぶり。»
«翔ちゃん、久しぶり。どうしたの?»
«今日、楓、そっちに帰ったよ。»
«そうなの?なんかあった?»
«仕事が1年間だけの休暇だったし、そろそろ1年経つしね。»
«そっか。そうなんだ。»
«なぁ、カズ?»
«なに?»
«楓、こっちに来て笑わなくなったんだ。»
«楓が?あんなによく、笑う子なのに?»
«うん。どうしたらいいのか分かんなくて。»
«そっか…»
«俺、来週そっちに帰るよ。休暇もらえそうなんだ。»
«うん。分かった。待ってるから。»
櫻井はスマホをテーブルに置くとベランダに出た。
楓と見たベランダからの景色。
なんであの時泣いたんだろうか?
俺といても笑わなくなった。
やっぱり…諦める?
せっかく手に入れたのに自ら手放さなくちゃならない。
でも、その前にもう一度。
俺は帰国の準備をした。
来週、会いに行く。
楓、やっぱり会いたい。
諦めたくない。
俺は迷いの中にいた。
続く