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『雨の想い出』和side~
楓が行ってしまったのは紗栄子ちゃんから聞いた。
俺たちは居酒屋にいた。
「二宮くん、なんにも聞いてないの?」
「聞いてない。そもそもずっと会えてなかったし」
「もう、楓のやつ。せめて二宮くんにはお別れ言ってから行けば良かったのに。」
「紗栄子ちゃん、もういいよ。きっと、俺にはもう会いたくないんだよ。」
「なんで?そんなこと…だって楓は…」
「紗栄子ちゃん、もういいよ。いいんだよ。」
「二宮くん…」
俺は情けない。
紗栄子ちゃんの前で泣いた。
「本当にこれで良かったんだよ。これで…」
「友達のために自分の気持ちに嘘ついたの?」
「何やってんだかな…」
俺は自分でも飽きれるほど楓が好きだったんだと気付いた。
どうして手放してしまったのか。
やっぱりあの時、翔ちゃんの所に行け、なんて言わなければ良かった。
もう今更遅い。
まさか、楓が自分を好きだなんて思ってもみなかったんだ。
楓と翔ちゃんが向こうに行ってしまってから何だか心にポッカリ穴が空いたような気持ちがずっと続いていた。
3人で時々会って笑い合っていた時が懐かしい。
やっぱり寂しい。
時々、空を見ては思い出して紗栄子ちゃんと会ってもあの二人の話しをする。
いつもの居酒屋。
「二宮くん、あの二人のこと本当に好きだね。」
「えっ?そう?」
「そうだよ。私といてもあの二人のことばっかり(笑)私じゃ代わりになんない?」
「ごめん、そんなつもりはなかったんだけど…」
俺はたぶん情けない顔をしていたんだろう。
「ねぇ、私じゃ代わりにならない?」
紗栄子ちゃんが俺の顔をじっと見つめた。
「いや、紗栄子ちゃんでも大丈夫だよ。」
「ちょっと…さえこちゃんでも?大丈夫?って(笑)」
「あ、ごめん。変な意味で言ったんじゃないんだ。」
「もう、分かってるよ。二宮くん、もっと笑ってよ?私といる時もさ。私はどんな二宮くんも好きだよ。」
「へっ?」
「だからー!私といる時も笑ってって。」
「そうじゃなくて…なんか言ったよね?」
「ん?どんな二宮くんも好きって…」
「それ告白?」
「うぬぼれないで。友達として好きってこと!(笑)」
「あぁ、そうだよね(笑)」
俺は何を考えてるんだかな。
好きだと言われて楓を思い出していた。
どうして好きだと言われたのにあんな突き放すようなこと…
やっぱりダメだ。
いつまでウジウジしてるんだろ…。
居酒屋から出ると雨が降っていた。
「あ、雨…二宮くんどうする?」
「傘、ないね。」
「うん。それに雨のせいで余計に寒いねー。」
「どうしようか。」
「走って帰る(笑)」
「本当に?(笑)」
「うん。」
紗栄子ちゃんが雨の中を走り出した。
本当に走るのか…(笑)
しばらく走ると駅に着いた。
「だいぶ、濡れちゃったね」
「うん。大丈夫?電車乗れる?」
「平気だよ。」
「そう?」
「うん。またね。二宮くん。」
そう言って紗栄子ちゃんは改札口へと入って行った。
俺は思い出していた。
楓と雨宿りした時のことを。
あの日、やっぱり楓を抱きしめていれば良かった。
そしたら、何かが変わっていたかもしれない。
後悔しても遅かったんだ。
続く