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『嘘の気持ち』
二宮は、楓を送って自分のアパートへと戻った。
「翔ちゃん、ただいま」
櫻井は、ソファーに座ってテレビを見ていた。
「あ、おかえりカズ。」
「楓、無事に帰った?」
「うん。駅まで送ったよ。」
二宮は櫻井の座っているソファーに一緒に座った。
「そっか。」
「なんか変な感じ(笑)」
「えっ?」
「自分の部屋に翔ちゃんがいるのがさ。今まで泊まったことなんてなかったよね?」
「あー、なかったかもね。でも、俺んちに来て泊まったことはあったよね?」
「あー、あったあった!大学の時だっけ?」
「うん。楓は帰るって帰ったよな、確か。」
「そうそう、女の子だから男となんて泊まれない!とか怒ってさ(笑)」
「そうだった、そうだった」
「あったねー。懐かしいな。」
「本当だな。」
「ねぇ、翔ちゃん?」
「なに?」
「こっちにいる間に楓に気持ち伝えるんでしょ?」
二宮は櫻井の顔を見た。
「…分かってたか…」
「やっぱりな。うまくいくといいな。」
「カズ、本当にそう思ってる?」
「なんで?」
「いや…」
二人は黙ったまま付いていたテレビの画面を見ていた。
「あのさ…カズはどうなの?」
「なにが?」
「楓の事…好きなんじゃないの?」
「俺?」
「うん。」
「俺は楓のことは、そう思ったことはないよ。ずっと友達として。友達としての好きって気持ちはあっても…異性としての好きとは違う。」
俺は気持ちに嘘をついた。
本当は好きで堪らない。
「そうなの?」
「そうだよ。」
二宮は櫻井を見て笑った。
「だから安心して、楓に気持ち伝えなよ。ねっ。」
「カズ…本当にそうなの?本当にいいの?前にさまだもう少しって…言ってたことあったよね?」
「あの時はね、そう思ってたけど…何年経ってると思ってるの?楓もきっと待ってるよ。」
「そうかな…?待ってるかな?」
「うん。楓もきっとさ。翔ちゃんの事好きだよ。」
俺の言葉を聞いてなんとなく安心したように見えた。
でも、俺は嘘を付いた。
楓が待ってる、なんてさ。
俺が何度も「翔ちゃんに好きだって言われたらどうする?」って楓に聞いてきたのに楓の答えは「それ絶対ない」って。
いつも、そう言うんだ。
だから楓が待ってるなんて事はないと思う。
たぶん。きっと。
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櫻井が帰国してから1週間が過ぎた頃、櫻井は楓と会う約束をした。
「じゃあ、今度の土曜日。ランチしよう。」
「いいけど、カズくんも来るの?」
「うん。カズと三人でね。たまにはゆっくりランチもいいでしょ?行ってみたいお店もあるし。」
「うん、楽しみにしてるね。」
櫻井は、楓に「カズも来るのか」と聞かれて咄嗟に三人で会うと言ってしまった。
いつも、三人だから二人で会うと言うと不思議に思うかもしれない、そう思ったから咄嗟に嘘をついた。
そう言えば、昔、カズもタイムカプセルを三人で掘り起こすって言って俺に内緒で二人で会ってたことがあったな。
俺も同じ事をするとは思わなかったな…。
もうずいぶん前の話しだ。
ランチのあと、ちゃんと告白する。
今度はきちんと。
楓は、俺の告白になんて答えるだろうか…?
続く