私は翔ちゃんの背中を見つめたまま動けなかった。
「ごめん。今日は一人で帰るから。」
背中を向けたまま振り返る事なく翔ちゃんは行ってしまった。
私はしばらく背中を見つめていた。
振り向くといいのに、そう思ったけど...
いつの間にか人混みの中に消えて行った。
私はしばらく動けずにその場に立ち尽くした。
私の気持ちはどこにあるの?
仕方なくゆっくりと歩き出すと肩を叩かれた。
「見つけた。」
「えっ?」
振り返ると二宮くんの妹だった。
「ごめんなさい。」
彼女が私に謝る。
「どうして?」
「お兄ちゃん、強引でしょ?」
「あっ、うん...」
「ふふふ、お姉さん正直ですね。」
その子は小さく笑った。
「あ、そう言えば二宮くんは?」
「先に帰りました。私はどうしてもお姉さんと話しがしたくて。」
「えっ?私?」
「はい。そこの喫茶店入りましょ。」
彼女はすぐ近くの喫茶店に入ってしまった。
私も慌てて追いかけて喫茶店の中へと入った。
席に着くとコーヒーを注文した。
「で、私に用って...?」
「私、お兄ちゃんが好きなんです。」
「えっ?ちょっと待って。兄妹でしょ?」
「はい。でも好きなんです。分かります?」
「いや...ごめん、ちょっと分からない。」
その時注文していたコーヒーが来た。
「実は血は繋がってないんです。」
「えっ?」
「って言ったら信じます?」
「ちょっとからかわないで。」
「ごめんなさい。でも本当に。自分でも困ってます。どうしてもお兄ちゃんが好きなんです。だから、彼女には嫉妬もするしヤキモチも...」
「でも、私は違うよ。彼女じゃない。」
「分かってます。でも...お兄ちゃん本気ですよ。分かるんです。」
「あの...だから私にどうしろって?」
「なんか、お姉さんならいいかなって思えるんです。お兄ちゃんと幸せになって欲しいって。私もそろそろ自分の気持ちにちゃんと向き合って。ケリをつけたいんです。」
「そのために私を利用するの?」
「利用だなんて...違いますよ」
「見たでしょ?私、彼氏がいるんだよ。二宮くんのせいで怒らせちゃったし。」
「だからそれを謝りにも来たんです。本当にすいません。」
彼女は座ったまま頭を下げた。
「もう、いいよ。こっちこそごめん。」
何だかいろんな事がめんどくさくなった。
そもそも、妹なのにお兄ちゃんを好きだなんて。
私には全く理解出来なかった。
そして、自分の気持ちにもはっきりと気付いた。
「私...たぶん、二宮くんが好きだよ。」
私は窓の外を見ながらそう言った。