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タケルは不安だった。
えりにあけみの存在を知られたからだ。
あの時の事が思い出された。
でも、えりは俺を想ってやった事だ。
だからと言って許される事ではなかった。
『タケルの彼女、浮気してるよ。』
『はっ?何言ってんの?』
『私、見たの。この前他の男と腕組んで歩いてた。あれは相手社会人だよ。すごく派手な格好してて。』
『えり、おまえ適当な事言うなよ。アイツが派手な格好?』
その時の彼女は派手と言うより地味な大人しめの子だった。
『本当だって!タケル騙されてる!』えりは俺の腕を掴んでこれから出掛けようとしてる俺を止めた。
『おまえ、しつこい。』俺はえりの腕を振り払って玄関を出た。
『タケルっ!』
それから俺は待ち合わせの場所に行くと彼女は来なかった。
携帯に連絡入り体調が悪くなったからとメールが来た。
その日彼女は来る事はなかった。
仕方なくあてもなく歩いていると遠くに男と歩いている女が見えた。
よく見ると彼女だった。
俺は目を疑った。
学校では地味で大人しめだった彼女が派手な格好で男と歩いていた。
えりの言った通りだった。
楽しそうに歩いていた。
家に帰るとえりが待っていた。
『ごめん、えり。』
『タケル?彼女となんかあった?』
『おまえの言った通りだったよ。』俺は小さく微笑んだ。
『タケル?大丈夫?』
『大丈夫。ごめんな。ひとりにして。』
そばに来たえりを半ば追い払った。
次の日学校に行くとすでに事件は起きていた。
廊下で走って行くえりとすれ違った。
『えり?』
少し歩いて行くと何やら騒がしい声が聞こえて来た。
俺を見つけた友達が慌てて近寄って来た。
『タケル!おまえの妹、えりだっけ?』
『えり?えりならさっき・・・』
俺は何かを察して人だかりの出来ている所まで走った。
彼女が倒れていた。
『あ、タケル。今救急車呼んだ所だ。』
先生に肩を掴まれて人だかりから引っ張り出された。
『どう言う事ですか?!』
『えりだったな。あの子はタケルと一緒に住んでるんだっけな。両親の都合で。』
『まぁ、妹みたいなもんです。』
『そうか。』
『えりがどうかしたんですか?彼女は?』
『詳しい事は・・・』
『先生?』
『彼女、階段から落ちて・・・』
そこまで言うと救急車が到着して救急隊員がバタバタと来て応急処置をして救急車で運んで行った。
俺はそれをボーッと見ていた。
『タケル、一緒に行かなくていいのか?』
友達が俺に声を掛けたが俺の耳には届かなかった。