「ある国の惨事」


――サボテンの花は何をしている。






弟がこの国の女王と契約したと聞いた時、私は喜んだ。


立派な弟になったと思った。


思ったのかもしれない。





私には、善良の心があったようで、未完成の悪魔。


昔から、弟と比べられる。


なんでもっと悪いことができないんだ、とか、弟の方が賢い、とか。


ずっと言われ続けていた。




でもある日、弟が私を連れて、遠い国に移り住んだ。



「そんなことしたら、将来……」


「いいんだよ、別に。姉さんのこと、悪く言う奴嫌いだから」



そう言ってくれた。


上下関係が激しい悪魔の世界。私は好きではない。


なんで悪魔になったのかもわからない。


だから、色々不思議な世界だと、ずっと思っていた。





そんな時、ある話を黒猫から聞いた。




「お前の弟、ホントクズだな」


「そう?少なくとも、私よりはできる弟」


「こりゃまた、裏切られやすい性格をしている悪魔さんだ。


 あ、僕に触んないでよ。悪魔でも消えるから」


「どういうこと?」


「知らなくていい」


「はい」




やけに淡白という感じだけど、そういう猫もいるんだなぁ。学んだ。



次の日も、黒猫に会った。



「この国の滅亡は近いね。確信できるよ」


「どうしてそう言えるの?」


「お前のとこの弟悪魔が企んでるから。


 それにしても、弟悪魔に近づくのは大変だよ。穢れそう



「黒猫にもそういうのわかるの?」



「わかるよ。言っとくけど、僕は普通の猫じゃないから。


 ただ、言ってしまったら、人間は悪魔と同じ扱い方をする。さすがに嫌だね」


「ふーん?」


「よくわかってないでしょ」


「よくわかんないね」


「そう思った」





弟はしばらくして、大変な事をした。


契約相手の女王を裏切った。


そして、契約相手を警備員に変え、相手を同等と見た。



悪魔が人間を同等と見ると、人間に魔力が使えるようになり、


代わりに、片方が死ぬと、片方も死んでしまう。


そこらへんにいる悪魔が、「あんな人間を同等と見たくない」とか言っているが、


それは、人間よりも寿命の長い悪魔だからこその発言。


死にたくないんでしょ。悪魔だからね、欲張りなんだよ。



契約相手を、人間の了承を得ずに変えるのは、契約違反。


重いペナルティが下されるかもしれないし、


存在自体が消されるかもしれない。それほどの契約違反。





「弟が消えちゃう?」



「……言っとくけど、悪魔の言う事なんて普通なら聞かないから。


 この国ごと乗っ取られたら、僕住めないから



「え……」



「依存相手、なんて気持ち悪い。もっといい友好関係や兄弟関係を築けよ



「別にこのままでいいじゃん!気持ち悪い?気持ち悪くて結構!」



「ま、聞けよって。


 お前の弟が考えてること、教えてやるからさ。


 明日の午前六時。ここ








午前五時五十分。




「あ、あの……」


「誰。どこ」



普通の人間のようで、霊感がないのか、私が見えないらしい。



「あ、バイトくん、待った?あ、あと、そこにいる悪魔見える?」


「悪魔?」



あの黒猫、と同一人物だと思われる、この人間。


猫って人間になれるのか。


いや、なれないよな。何者。



「あ、ツノにシッポにハネ。本当に悪魔だ」


「もっといい反応しない?」


「どういう風?


「じゃあ、大丈夫」



話がかみ合わない気がしたけど、悪魔と人間の差だろうか。




「じゃあ、約束通り教えてあげるよ。


 バイトくんの味方、増やさないとね」




私はこの後、弟の秘密を知ることになる。


心のどこかで大きかった存在は、もういない。



裏切り者は、すぐそばに。


悲しみに浸る、情けない悪魔。





サボテンの花言葉は、偉大。

「ある国の惨事」


――フジは高く見えない。






「バイト。ちょっと店番頼むな」


「どこ行くんですか!?店長。


 昨日、城で惨劇があったって、聞いちゃったので、死なないでください!


「お前は馬鹿か。確かに城に呼ばれたが、警備のため。


 頼まれるくらいなんだから、私は簡単に死なねーよ」



最初は確かに大丈夫そうだと思った。


だって、店長だから!かなり強いから!


この前だって、強盗相手に、力技で倒してたから!



で、のんきに常連のお客さんと話してたけど……。



「店長さん、散歩?」


「いや、それが、城の警備につけって言われたらしくてね


「城の警備?あ、あの昨日の、血まみれパーティーでか。


 物騒な王国になっちゃったね。引っ越そうかな」


「引っ越しちゃうの!?えぇ……」


「冗談だってばー。でも、警察だけじゃ犯人見つからないと思うからさ。


 僕らが死にたくないでしょ。もしもの話」



ちょっと意味わからなかったけど、こういうお客さんである。


お客さんのはずだが、基本駄弁りに来るだけで、何も買わない。


営業妨害の気もするが、この人が来ると、店が繁盛する。



「ていか、最近人殺し増えてるのと、これ。関係ありそうだなぁ。


 無差別殺人?店長さん、殺されちゃわないかな?」


「えぇ!?いきなり!?だ、大丈夫じゃ、じゃないかなぁ?」


「城の方まで行ってみよーっと。


 バイトくん、来る?店休んじゃえよー!」



散々なこと言うな!この客!


名前あとで聞いて、変な噂流してやろうかなー。



結局ついていきますけどね、何か?





「ここに猫来るから、そいつ連れて行ってくれない?


 僕みたいに、頭良いからさ。


 勝手に、庶民が城に入って、犯罪者扱いとか気が知れるじゃん?ね」



自信かなのかなんなのかだな、この人。



そのあと、本当に猫が来た。


黒猫。気品がありそうで、あの人が飼い主だと思うと……。



まあ、あの人が招き猫みたいに、


商売繁盛の神みたいなところあるから、あの人は諦めよう。




「どっち行くの、ちょっとこの猫!?」



道なき道を行く、この猫。


森なんだから、もうちょっと考えないのだろうか……。



「え、ここ」



城の裏側だった。やけに早くこれた気がする。



猫は進んでいく。



思わず足が止まる。





「店長……」




城の窓から見える。それは、店長だ。






「なに、私に犯罪者になれって?


「言い方が悪いなぁ。別に嫌いじゃないでしょ?


 また一緒に相棒しよって言ってるだけだよー。相棒と強盗。楽しくない?


「いいけど?何を盗む気だよ」


「この国全部いただいちゃう気」


「……」


「夢は大きい方が、小さい夢も叶いやすいの!


 もちろん、仲間はいるよー。既に二人。最高すぎ」






話してることがおかしい。


犯罪者?強盗?相棒?


聞いてないよ、てんちょー!!!




「仲間を裏切った二人。僕も王様を裏切る。


 武器屋も裏切ったら?


 バイトくん、なかなか店のこと好きなんでしょ?


「まあ、そうだね。


 あー、裏切られた顔がみたいって?いいよ、全然




なんだこの店長。僕の知らない人。


あとで帰ってきたら問い詰めよう。うん。





店に帰ると、猫はどこかへ消えて、代わりにお客さんが出てきた。



「今回聞いたこと、誰にも言わないが勝ち


「?なんで知ってるの?」


「僕とあの猫は一心同心だからねー、なんでもわかっちゃうの」


「へぇ、不思議なんだねー」


「一心同体なのには気づかないわけね。ちょっと寂しいわ」



「じゃあねー、売上落ちたって、店長に殺されないようにね」



物騒な事言うなぁ、まあ、そういう人だと思っておこう。


うん、そういう人だから。





そのあと、僕はこのお客さんを頼る事になります。


そして、非現実世界を見るはめになります。



ただ、一言で片づけられるような、簡単な状況ではないのは、


馬鹿が見てもわかります。






フジの花言葉は、「優しさ」。

「ある国の惨事」


――マリーゴールドの花は。





ある日の出来事です。


女王は、私を呼びました。


いつものワガママだろう、と思い、何も気にせず向かいました。


女王の後ろに居たのは、たまに話す悪魔でした。


その時気付きました。


女王が、ほとんどの国民から慕われている理由を。


どんなワガママを言っても、国民は喜んで成し遂げる理由を。


女王は、悪魔と契約したようで、


見えない、お揃いのブレスレットがそう物語っていました。



女王は狂ったように笑っているので、


私が口を開くタイミングが見つかりません。


悪魔が、口パクで久しぶり、と言っているので、


こちらこそ、と口をパクパクさせて伝えました。


女王は、そんな行動に気付かず、ずっと笑っているので、話しかけました。



「どうされましたか」


「面白いの。国民が逆らわないって。ものすごーく面白いの。


 ねぇ、秘書。明日の晩、パーティーを開きたいわ。良いでしょ?」


「了解しました」


「あなたには、この力、必要ないみたいね」



ずっと口元がにやけている女王を、少々冷めた目で、部屋を出ました。


キツイ香水が、私の服についていないか確認します。



王様に、明日の晩、パーティーを開くことを伝えます。


またかぁ、みたいな、呆れた顔をしていましたが、


これも、あの悪魔の力だと思うと、寒気がしてきました。






「よっ、警備員」


「あ、秘書。どうせなら、食事も持ってこればいいのに」


「食べる気満々だな」



明日の晩、になり、城は賑わっています。


うるさいのが苦手なので、


城外にいる、仲のいい、警備員に話しかけています。


仕事もそつなくこなす私は、王様や女王に全くと言っていいほど、怒られません。



「そういえば、最近、また見るようになったんだけど」


「私以外に?」


「ああ、うん、そう。悪魔見るようになった」



この警備員は、霊感を持っています。


誰にも言わなかった、私が死神ということを、


初対面にも関わらず、見破ったのです。あの時は、本当に驚きました。



「悪魔なんてここら辺に出るんだね。面白そう」


「面白い?人間なら、普通は嫌だろ」


「いや、まあ、人間っぽくないから、俺



あの時は言っている意味が理解できませんでした。


なぜなら、ただ霊感の強い、極普通の人間だと思っていたからです。



午後十時になった頃です。


城の電気が消えたのが、城外から確認できました。


電気が復旧するまで、約三十秒かかるようでしたので、


私は、懐中電灯を持って、パーティー会場に向かいました。



着くころには、電気は復旧しており、会場は困惑していました。


私は、直ちに原因を調べましたが、故障もしていないので、


会場の皆様には、原因不明というしかありませんでした。



一部のお客様は、帰る支度をしていましたが、そこで悲劇が起きたのです。



また電気が消え、何回か銃声が響きました。


そして、すぐに電気がつくと、会場は殺戮としていました。


先ほどまでの明るい会場は、血まみれ。


叫び声がうるさく聞こえないほど、私の頭はいっぱいいっぱいでした。


先ほど死んだ者の魂が、会場をさまよっています。


お客様を別室に移し、私は、身近にいる死神に、代わりを求めました。


秘書として、この状況を王様と女王に伝える仕事があったからです。




「ドンマイ」


「なんだよ、悪魔。女王と契約とか、お前も趣味が悪いな」


「そうー?そんな態度だったら、伝言教えてやらねーよ」


「誰からだ」



少し落ち着いた時、私は悪魔に話しかけられました。


伝言、は丁寧に封筒の中の便箋に書いてあり、その場でじっくり読みました。



その内容は、私に追い打ちをかけるような内容でありましたが、


私は、その内容を承諾しました。




マリーゴールドの花言葉は、「悲しみ」。