やめて。


もう、優貴を連れてかないで。



 ふぁーすときす++

              第6話+あのとき、わたしは。




トラックが、優貴に近づいて。


優貴をはねた。


〔優貴---!!!!〕


「…ッ」


気付いたら、自分の家のベッドの上だった。


足元が重いと思って、視線をやると


優貴とはるきが、寄りかかって寝ていた。


「…ッ?!」


驚いて、後ろにたじろく。


何の反応も無し。


あたしは、優貴の肩に手をやり、揺さぶった。


「優貴?優貴?」


「ん…」


しばらくして、優貴は起きた。


そして、ふぁ、とあくびをして時計を見。


あたしを、見。


「あれ?まことじゃん。


なんでココに?って、あれ?ココまことん家じゃん!!


何お邪魔しちゃってんの、あたし?!」


テンパッてる優貴をよそに、あたしは背筋にスーッと冷や汗が流れた。


〔何でって俺、優貴の許婚だから〕


はるきのこの言葉が、頭の中で何回も流れてる。


「う…あのさ、優貴。


はるき…くんと、許婚、てホント…?」


息が苦しくなって、ハア、ハアと荒い息になる。


途切れ途切れだけど、言う事ができた。


優貴は一瞬びっくりした顔をして。


「…知ってたんだ」


やけに暗い顔をして、優貴が言う。


あたしは、う…ん、と短く応える。


「あたし、誰でも良かったの。


うちの母親、借金背負っててさ。


高校なんて行けないし。


オヤジはオヤジで出張三昧だよ。


だから、うちん家がやり遂げれるようにするにはね。


あたしが結婚するの。


良家とね。


それが、はるきん家。


まっ、そういうわけ」


優貴が、ちょっと明るい声で言って。


うっうっうっ…と肩を揺らして泣き始めた。


「優貴…ごめん…」


あのとき、わたしは。


何で謝ったのかなんて、今更自分では分からないんだけど。


優貴の背中を撫でてやったことは、覚えてる。


綺麗な、シャンとした背中だったから。



+++


「じゃっ、まこと!!!ばいばい!!!」


麦わら帽子に、赤いキャミソール、ジーパンをいう奇妙な格好であたしにあいさつしに来た、優貴。


「北海道って、寒いんじゃないの?」


と言う、あたしの問いかけに、優貴は、


「寒かったら、上着はおればいいから」


とだけ応えた。


「ほんとに…ばいばいだけど…


3年くらいしたら、帰ってくるから…


待っててね」


優貴が、麦わら帽子で顔を隠しながら言った。


あたしは、もちろん、と笑顔で応えた。


「待ってる。いつまでも。ずっと」


そして、お互い抱き合って泣いた。


通りゆく人々は、あたし達のこと


変な目で見てたけど。


そんなの、今ではどうでもよくて。


ただ、優貴と触れ合っていたかった。


ずっとずっと。


これからもずっと。


++続く++





だから。


そんなに悲しい顔しないで。



   ふぁーすときす++

              第5話+自由な鳥





「私は、みなさんの相談役として、この学校にやってきました。


岩村美穂子、と言います。


みなさん、ツライことは、なんでも私に言ってくださいね」


そんなの、ただの戯言だ。


この先生は、昨日やって来たばっかりのスクールカウンセラーの先生。


若々しくて、話が面白いって、一瞬で校内に広まって


相談室はいつも、人が一杯だった。


こんなんじゃ、相談できるものもできない。


あたしは、いつも相談室の前まで来て、やめた。


言ったって、何もならない。


優貴の引越しは、変わらないんだ。


人との交流も、少なくなったあたしには、


優貴の厳しく優しい言葉も、耳に入ってこなかった。


そして、優貴との関係はだんだん崩れていった。


「えー。かなり残念ではあるが…


優貴が北海道に転校することになった」


先生から、このことを聞いたクラスメートは、口々に「いやだよー」と呟いた。


あたしは…アンタ達以上にいやなんだよ。


アンタ達は、優貴のこと…


何にもしらないくせに。


戯言ばっかり言うな。


ムカツクんだよ…。


ああ。


ごめんね、優貴。


あたしは、もうこんなにボロボロだよ。


「えっと、皆さん今まで良くしてくれてありがとう。


ホントは、卒業まで一緒に居たかったんだけど…


オヤジの仕事で…。


でも、絶対帰って来るから、皆待っていてください…。


じゃあ…さようなら」


優貴は、荷物と花束を持って教室から出ていった。


皆は、「あーあ」「やだなー」とばっかり呟いている。


優貴は、しっかり者で、面倒な学級委員も努めてくれていた。


だから、皆は。


優貴が居なくなったから、面倒な学級委員決めが嫌なんだろう。


なんだ。


皆、優貴が居なくなるのが嫌なんじゃないんだ。


あたしは、こんなに嫌なのに。


皆…そうじゃないんだ。


なんて、ヒドイ人間。


「…優貴ッ」


あたしは、イスを鳴らして席を立った。


そして、教室のドアを開ける。


その先に座り込んで苦しそうに息をする、優貴がいた。


「優貴?!優貴、大丈夫なの?!」


あたしは、優貴の背中を撫でる。


ヒューヒュー、と苦しそうに息をしている、優貴。


あたしは、ただオロオロするばかり。


「“まこと”、優貴が起こしてるのは、発作だ。


薬を飲ませれば、治る」


突然、どこからともなく現れた、はるき。


「何で、そんなこと知ってるの?!」


「何でって、俺は優貴の許婚だからだ」


…?


はるきが優貴の許婚?


わけ…わかんないよ。


「ごめ…まこと…ッ。


隠し…てて…ウッ…」


苦しそうに顔を歪ます、優貴。


あたしは、「いいから」としか言えなくて。


こんな無力なあたしを


優貴は許してくれるのかな。


縛られて居きる、籠の中の鳥。


あたしは、自由な鳥なのに。


なんで優貴より悩んでるのかな。


++続く++




貴方との大切な時間なのに


笑顔が引きつるのは、あいつのせい?



ふぁーすときす++

            第4話+我が物顔




あたしのファーストキスは、キス魔に奪われた。


大切なファーストキスは、結婚までとっておこうって決めてたのに。


最悪だ。


あいつは、我が物顔であたしの唇を奪ったんだ。


許せない。


許したくない。


誰が何と言おうと、あたしはあいつを許さない!!


「最近さ、まこと人の話聞いてないよね」


「え?」


「なんかさー話してても聞いてないとか、めっちゃムカツクんですけど」


「え?」


「ほらーまた聞いてない。まじ、何回もとなるとウザイ。うざってえよ」


いつ、どういう展開になっていたのだろう。


あたしはあいつへの、怒りのあまり


周りが見えてなかった。


もちろん、声も聞こえていない。


まあ、別にこんなチッポケな友達キドリの奴とは、喧嘩したって痛くも痒くもない。


あたしに必要なのは、“優貴”という存在だけ。


「うざいんだ。ごめんねえ。気付かなくて」


「何その言い方。まじうざい!!!死ねよ!!!!」


今更だけど、すぐ“死ね”とか言う奴らは、大嫌い。


そう言って強がってるだけで、中身は“死ね”といわれると怯える弱虫だ。


だから、嫌い。


言われるのが嫌だったら、言わなきゃいい。


「“死ね”???あんたさー、それであたしが死んだらどうする??そこまで考えて物言ってるの??」


「考えてるわきゃねーだろ!!!めんどくせぇな!!!」


言ったな。


「じゃあ、今から飛び降り自殺してくる。理由は、あんたのせい。


みんな、聞いてたよね?この人が死ねって言ったからだよー」


あたしが、クラスの皆に問い掛けると、何人かの生徒が


「聞きましたー」


と答えた。


ほかの生徒は、うなずいている。


ふん、とあたしは鼻を鳴らす。


あいつは、うぜえ、と呟くと教室から出ていった。


クラスからは、すげえ、という声がポツリポツリと出ていた。


あたしは、得意げにニコリと笑うと、席を立った。


髪の毛が乱れてないか、チェックするためと、


あいつが、自殺してないか、チェックするため。


「………ッ!!!!!」


教室の出口に、はるきが立っていた。


「やあ。“まこと”。昨日はどーも」


あいつは、ニコッと笑い、あたしに近づいて髪の毛を手に取った。


「…やあ!!!やめてよっ」


あたしは、髪の毛を振りほどく。


あいつは、スルリと抜けた髪の毛を逃がすまいとギュ、と掴んだ。


「離してってば!!!!!」


「はなさない」


「やめて」


「やめない」


まるで矛盾していることを1人で言ってるような。


あいつは、気配さえも消して、息を潜めるライオンのような。


そんな奴だった。


「俺さ、キス、上手いでしょ?」


あいつがいきなり、問いかけてきた。


あたしは、髪の毛を諦め


「気持ち悪い」


と呟いた。


あいつは、眉をひそめて


「ハハ。笑わせてくれるね」


と言う。


“笑わせてくれる”?


笑ってないじゃない。


何よ、その引きつった笑みは。


「よく言えるわね…そんな欠片も笑ってない顔で」


あたしが皮肉を込めて言うと、あいつも皮肉を込めて


「それは、お互い様」


と、答えた。


まったく、その通り。


あれから、いくら話ても話題が尽きなくて楽しかった優貴との会話が


全然弾まなくなった。


笑おうとしても、自然に笑えなくて。


口元を吊り上げただけの不自然な笑い方になってしまう。


笑い声も、何でか人口ロボットが言ってるような、そんな声だった。


そんなあたしを見て、優貴は何か言いかけて、やめた。


でも、優貴の前だけでは自然に笑いたかった。


最後の最後に、自分のせいだって塞ぎこんで欲しくなかったから。


たった1回でこんなにボロボロになってしまう。


そうだよ、あたしは弱い人間だよ。


優貴と、あたしの間に我が物顔で入ってきた“隙間”という悪魔。


それは、二度と消えることない傷を作って。



++続く++


そんなに威張ってどうするの。


もうすぐ、貴方は居なくなるのに。



ふぁーすときす++

            第3話+引越し



〔いつまでも、ずっと友達よ〕


〔当たり前よ。裏切ったりしない〕


貴方とは、そう約束したはず。


それが、今破られようとしているなんて。


考え様ともしなかった。


「まこと、今日部活行くの?」


優貴が、部活に向おうとしていたあたしを引き止めて言った。


あたしは、「うん?」と疑問系で答える。


「何なに?どうかした?」


優貴の綺麗な顔が暗く翳っていた。


びっくりして、問うと優貴は「放課後待っててね」とだけ言い残して去っていった。


3年生にまでなって、部活行くのはあたしぐらい。


でも、今の1・2年は「たるい」とかばっかり言ってて


はっきり言ってダメダメ。


あたしがビシッと言って直さないと。


あたしは、部室にカバンを置いた。


そして、ふと思う。


あたし、優貴と同じ学校に行けるのかな…。


優貴は、学校1.2を争う天才だけど、あたしは学校1.2を争う馬鹿だ。


どう見ても、遊びほうけてる馬鹿だから。


ホントに馬鹿だから。


今、ようやく現実に気付いた。


無理、だってこと。


「どーしたの」


優しい声。


「はる…きくん?」


部室の前に、はるきが立っていた。


あれ?はるきって、バド部じゃなかったよね。


「何で?普通3年生は帰るんだよ。


しかもはるきくん、バド部じゃないし」


あたしが、不思議そうに言うと、はるきはニコッと笑って。


「俺は、“まこと”に会いにきたの」


あれ…呼び捨て?


「あたし…に?何で」


皆の言ってたことが、頭の中をグルグル回った。


春樹ってキス魔らしいけんね。王様ゲームして、負けるのを嬉しがってるらしいよ。


それで、いっつもバツゲームがキス、らしいよ


自然に手に力が入って、ラケットを握り締めた。


1歩1歩近づいてくる、はるき。


いや…来ないでよ…。


あたしは、1歩2歩後退りした。


はるきが、一気に走ってあたしの両腕を掴んで身動きを取れないようにした。


「いや…!!」


振りほどこうとしても、振りほどけない。


中学3年生の男子と女子とでは、やっぱり腕力が違った。


悔しい。


はるきの顔が、一気に目の前に接近して。





+++




抵抗できないあたしが憎かった。


ちくしょー


ちくしょー


ちくしょー


キス魔だってわかってて。


なんで逃げなかったの?


自然に涙が溢れた。


誰にも言えないよ。


キス魔にキスされた、なんて。


「あ、まこと。早かったね。部活しなかったの?」


玄関に行くと、優貴が居て、あたしに駆け寄ってきた。


そして泣いてるあたしに気付くと、あたしを抱き寄せた。


「大丈夫?なんかあったら、言っていいから」


言えないよ。


だって、優貴ははるきが、好きだって…


前言ってたから。


こんなこと言ったら、喧嘩になっちゃう。


あたしは、それが怖くて言い出せなかった。


優貴の優しい匂いに包まれながら、ずっと泣いてた。


多分、泣き声は2・3階にも響いて聞こえただろう。


でも、そんなことどうでもよかった。


ただ、心がズタズタになってて。


もう、苦しい。


たった1回のことで、こうなるなんて。


あたしは、なんて弱い心の持ち主なんだろうって思う。


「まこと、もう時間がないや。泣いてるまことに、言いたくなかったけど…言うね。


あたし、引っ越すの」


それを聞いた瞬間、あたしは泣き止んだ。


悲しくなくなったんじゃない。


悲しすぎて涙が出なくなった。


「ここから、めっちゃ離れてるけど、北海道。


オヤジの仕事なんだ。ごめん…」


優貴が、あたしの肩に顔をうずめた。


優貴は、あたしより30㎝くらい背が高かった。


スラリとしてて、顔は綺麗に整ってて。


優しい優貴は、可愛い、じゃなくて綺麗、だった。


いわいる、あたしとはまったく別のジャンルの人だった。


その優貴が、あたしと親友だったことが、誇りにもてる。


「泣かないでね、まこと。電話やメール、毎日するし。


文通もして、プリ交換とかもしようよ。


まことが泣いてると、あたし北海道行けないよ」


優貴が、顔をうずめたまま言う。


あたしは、「大丈夫」と小さく呟いた。


「北海道行くまえに、2人でお出かけしようよ。


そこで、本格的にお別れしよう。


それまでは、何にもなかったことにしよう」


優貴が、震える声で言う。


あたしは、小さくうなずいた。


優貴の優しく厳しい言葉が聞けなくなるなんて。


あたしには、もう。


絶望と暗闇しか見えてない。



++続く++



キス魔だかなんだか、知らないけどさあ。


うざったいんだよね。


消えて。



ふぁーすときす++

            第2話+うざい




「キス魔とか、馬路怖くな~い?」


今日の昼休憩は、そういう話で盛り上がった。


皆、「キモイ」「キスされたくない」とか言ってるけど、


どうせ本心では、「キスされたい」がホントだ。


それくらい、見ぬけないとでも思っているのか。


「ねえ、まこと。あっち、行かない?」


優貴が、あたしに声をかける。


あたしは、短く「うん」と答えて、教室から出た。


誰も、あたしを引き止めるひとはいない。


話に夢中だから。


あたし達は、屋上に来た。


ホントは、生徒立ち入り禁止なんだけど


あたしと優貴だけ、合い鍵を持ってる。


「なんかさー。皆、はるきにキスされたいんだよ。だって、口調がそうだもん」


あたしが床に寝転がって言うと、優貴も寝転がって


「だよね。気をつけろ、なんてお前のその言葉に、保証なんかないじゃんって」


優貴のその言葉に、あたしは笑ってしまった。


空に、あたし達だけの笑い声が響く。


「きれーな青空だねー」


あたしが呟くように言うと、優貴は、空を見上げて。


「でも、少し濁ってるところもあるね。やっぱり、完璧になるってことは、無理だってことだね」


と言った。


あたしは、優貴のそういう所が好き。


なんでも、人間平等だよって言ってくれてるような、そんな言葉が。


「もっとさー。こんな時間が続けばいいね」


「そうだね。疲れない世の中をつくってみたいよ」


簡単な雑談をして、ふー、とため息をつく。


空を見上げても、人生の答えなんて、無いのだけれど。


なんか信じたくなるような。


それはやっぱり、空に神様がいるから?


「あ、そろそろ5限始まるよ。いこっか。はい」


優貴が、あたしに手を差し伸べる。


あたしは、その手を掴んで起きあがる。


「行きたくないよ」


あたしがポソッと漏らした。


優貴は、クスッと笑って。


「まことは、我侭だね。ま、いいけど。そんなまことを、知ってるのはこのあたしだけだもんね。


でもね、勉強は大切だよ。あたしだって、まことと同じ学校に行きたいもん。


だから、勉強しに行こうよ。離れ離れになっちゃうよ」


と言った。


やっぱり好きだ、優貴のこういう所。


人のことを考えながらも、自分の意見も取り入れる。


あたしは、前々からそういう優貴に、憧れてた。


「じゃあ、行こうかあ」


よいしょ、と腰を浮かす。


とん、と優貴の肩に頭を当てる。


優貴の、優しい言葉で、あたしの気持ちのモヤモヤは消えていった。


うざい。


消えてしまえば、いい。


そんな自己中心的な人間は。


「叫んでも、いい?」


あたしが問うと、優貴は笑って。


「あたしの鼓膜が破れない程度でね」


と答えた。


「うぜェんだよ---------!!!!!!!!!!!!」


腹の底から、叫んだ。


多分、職員室まで届いてたと思う。


良い。


これが、あたしの思いだから。


伝われ。


骨の隋まで。


優貴は、クスッと笑って。


「良い声だね」


と言った。


もっともっと、優しい言葉をちょうだい。


あたしが、傷付くくらい。



++続く++