「じゃあ、結婚する?」
唐突に彼の口から出てきたその言葉に、いまいちピンとこなかった。
だってそういうのをプロポーズと言うのだと思っていたし、そういう言葉はしかるべき場所でしかるべきシチュエーションで言われるものだろう。今、私たちが向かい合っているのは居酒屋で、しかも2人して度数30の酒を飲んでいる。
これでもか、と言うほど絶対に違うシチュエーションだ。
「え、今?」
その気持ちが素直に声に出た。彼も笑っていた。
「じゃあ、とか言っちゃった。軽いな、俺」
軽いとかそういう問題でもない気がしたが、彼が楽しそうなのでどうでも良くなった。
「ちゃんと言ってよ、そういうのは。プロポーズじゃん」
私も笑いながら言うと、それもそうだなと彼がまた笑った。あぁ、好きだな、と思う。
「いつか、そうなるかな」
「どうだろうな」
「私、左手の薬指のサイズ11号だから。たぶん今右にしてるのが11号だから一緒のはず」
「じゃあ9号くらいの買うわ」
「人の話聞いてた?」
時々こうやって、天然のような発言をする。本当に天然なのか、狙っているのかは分からない。ただいつも私は、その一言一言にドキドキさせられて悔しい。
「どこならいいんだよ」
「え、何が」
「プロポーズ」
「んー、そうだなぁ。神保町の喫茶店とかなら嬉しいかな。2人が付き合う前に行った喫茶店、覚えてる?」
「あー、何となく。コーヒー飲んだ気がする」
「そうそう、そこ」
「来週クリスマスだな」
「何よ、唐突に」
「空いてる?」
「午前中は仕事だけど、夜食事とかなら行ける」
「じゃあ、神保町行こうよ」
「あ、うん......え」
顔を上げると、大好きな人がいたずらを思いついた子どもみたいな顔で私を見ていた。
愛しさが込み上げてきて思わず泣きそうになる。
「楽しみにしてるね、クリスマス」
彼とこれからどんな人生を歩むのかまだ分からないけれど、楽しいのは間違いない気がした。
愛しいいたずらっ子の目は今日も私を見てくれている。大好きだな、と思った。
-Fin.-