乞食blog -2ページ目

リンチ

昨晩、いつもの自販機を見て公園に戻ろうとした時、
突然5,6人の同業者に囲まれた。
ただならぬ気配だったのでつい身構えると、
その中の一人が、

「おめぇが煽ったんだろが!」

と突然叫んだ。何の事だかさっぱり解らないので、
あっけにとられて無言のままでいると

「おめぇが煽ってやらせたんだろが!おう!」

と、物凄い勢いで詰め寄ってくる。
もしかして、アクマと親分の件だろうか?ハっとする。
しかし、無関係だ!と弁解する前に、また言いがかりか…
とガックリきてしまった。もう、どうにでもしてくれと。

「なんでもテメェが、カンカン入ればモチ食えるって
吹き込んでたらしいじゃねぇか!このクズ野郎が!
アノ野郎、引っ張られる時も笑ってたぜ!」

確かに、センさんの話題になった時、
面白おかしくそんな事を言ったかもしれない。
しかしそれとこれとは話が違うだろう。

「それは…」

と言いかけた時、後ろからドーンという衝撃。
飛び蹴りだろうか。
不意をつかれ、前のめりに地面に倒れた瞬間、
連中が一斉に襲い掛かってきた。袋叩きだ。

こういう時は早いうちに伸びたフリをするに限る。
乞食になりたての頃、酔っ払いに悪態をついて
リンチを受けた事があるが、その時は中途半端に抵抗したせいで、
こっぴどくやられてしまった。

背中を丸め必死に耐えるが脇腹に何回も蹴りが入る。
背中じゃ効かないので、あお向けにしようとしているのだ。
怖い。ひたすら怖い。もう勘弁してくれ。自然と涙が出てきた。

どれくらいの時間が経ったのか解らない。
気が済んだのか、

「おめぇみてぇなクズは乞食以下だ!くたばっちまえ!」

と罵倒の言葉と一緒に、背中に何か硬いものを叩きつけて
走って逃げていった。

リンチから開放された安心感と同時に、
アクマに対する怒り、リンチした連中に対する怒り、
そしてアクマのような人間に心を許しかけた自分が
ただただ情けなく、しばらく立ち上がれなかった。

その場にうずくまり一しきり泣いた後、
フラフラとハウスに戻り毛布に包まったら、また涙が出てきた。
体中が痛み出し、感情が荒れて寝付けない。
ちくしょう。

事件

アクマが親分を刺したらしい。
クリスマスだというのに
あいつ何をやっているんだ。
意味がわからない。

クロさん

今朝もアクマはこなかった。
もう飽きたのだろうか。
少しホっとしながら顔を洗いに水道へ行くと、
こうりゃん先生と全身黒ずくめの妙な男が何か話していた。

見た目のまま、クロさんと呼ばれる黒ずくめは、
最近公園にきた連中のリーダー的な存在らしく、
こうりゃん先生と新たな公園のルールや、
行政の状況なんかを相談しているようだ。

二人とも真剣な様子で議論しているので、
なんとなく話し掛けづらい雰囲気だ。
久々にこうりゃん先生とも話をしたかったので、
向こうから気付いて話し掛けてくれないかな、と
ベンチに腰掛けて新聞を読むふりや、
咳払いなんかをしてみたが、
どうもそれどころではないようだ。

少しガッカリしてハウスへ戻る。
なんだかなぁ。

女性

生活が生々しくつまったゴミを漁られたら、
気分が悪いだろう、という気遣いから
家庭ゴミの集積所は あまり漁らないようにしている。
単に実入りが少ない、という事もあるが。

しかし今朝、アクマが来る前に早起きをして
散歩をしていると、一般のゴミ集積場付近で
衣服のつまったゴミ袋を発見、
思わず失礼して確認させてもらう。

すこし流行に遅れているのだろうと思われる、
女性用の冬服が入っていた。
ゴミ袋の中だというのに、軽くたたんであって
元の持ち主の几帳面な性格がうかがえる。
週末にタンスの整理でもしたのだろうか。

カズ姉によさそうなものがあるかも、
いくつか広げてみるが、
すぐにカズ姉がもういない事を思い出し少し落ち込んだ。。
ふと広げてみたカーデガンを見ると、
ボタンが全てなくなっている。

私の母親も、着なくなった洋服のボタンを外し、
フイルムケースにためこんでいた。

「服はいたんでるけど、ボタンはまだ使えるからねぇ」

母の言葉を思い出して、胸がつまった。
今時分、そういう感覚をもった女性がいるのだなあ、
と思いながら、広げた服を同じように畳み、
全て元の袋に戻してから立ち去る。

母、妻、娘、いなくなったカズ姉、
そしてこの服の持ち主。
女性の事を考えると、なぜか涙が出そうになる。

アクマの折鶴

「鶴を折って下さ~い」
アクマと二人でブラブラしていると、
こんな声が聞こえた。
駅前でボランティアかなにかだろうか。

前にも見かけた事があるし、
別に珍しい事でもないので
そのまま通り過ぎようとしたら、
アクマがニヤリとわらってズンズンと
そちらへ近づいていくではないか。

内心おいおい、止めてくれよ…と思ったが、
声をかける間もなく、小さな折り紙を受け取って
鶴の折り方を教わっていた。
折り紙を渡した女性の顔は明らかに引きつっている。
我々が乞食だと気付いているのだ。

そんな事はお構いなしに半笑いで鶴を折るアクマ。
鶴を完成させ、腹の部分に息をプっと吹き込む。
さらに引きつる女性。

早く終わらせたいのか
「ありがとうございました」と早々に礼を言って
帰らせようとするのだが、鶴を折り終わった後も
ニヤニヤしてなかなかその場を離れようとしないアクマ。

だんだんと通行人や他のボランティアの連中の目が
自分にも向いてきたので、小声で「じゃ後で」とつぶやき
アクマを置いたまま逃げるように公園に戻る。
なんなんだあいつは。

明日の朝も来るのかなぁ、と思ったら
少し気が重くなった。付き合いにくい男だ。