2008.2.15 産経新聞

 「本当に困っちゃう」

 東京都板橋区のスーパーで練馬区のパート従業員、山田京子さん(46)=仮名=は冷凍食品を陳列棚に戻しながら、ため息をついた。パッケージには「生産国・中国」と書かれていた。

 会社員の夫と高2の長男(17)、中1の長女(13)の4人家族。夫と長男は毎日弁当。長女も給食のない土曜日と部活動がある日曜日は弁当を持っていく。

 普段の朝はこうだ。午前6時すぎに起床。4人分の朝食と2人分の弁当を作り、午前8時前に夫と子供を送り出した後、生活費の足しにするためパート勤務に出かける。忙しいから弁当のおかずはほとんど冷凍食品だ。

 「レンジでチンするだけだったのに、いまは手間がかかってしようがない」。事件発覚以降、山田家の弁当や食卓から冷凍食品が消えた。朝がより忙しくなった。

 金銭面でも余裕がなくなった。たとえば、冷凍ギョーザは12個入りで198円に対し、出来合いの総菜は同数で298円と割高に。「息子の進学でお金がかかる。娘は2年後に受験でしょ。そのために食費を切りつめてきたのに…。大変なのよ」

 手軽さと安さが受けて消費が伸びた冷凍食品だが、事件は主婦の時間や家庭の財布も直撃している。

 文部科学省によると、問題の天洋食品(中国河北省)製の冷凍食品を提供していた国公私立の幼・小・中・高校は34道府県で578校に上り、全国で同社製の使用停止が相次いだ。健康被害はないが、学校現場の混乱は続いている。

 冷凍食品に詳しい食品流通研究所によると、冷凍食品が給食に使われ始めたのは、昭和30年代前半。大量調理などが求められる給食には冷凍食品が適していた。田井扶裟夫所長は「日本人が食べる冷凍食品は給食から始まったと言っても過言ではない」という。

 中国産の食品が使われるようになったのは約15年前。「国産食品だけで給食がまかなえるような食糧自給率ではない。コスト面からも中国を外したら、学校給食は成り立たない」(田井所長)

 中国製の冷凍食品すべてを使わないことを決めた愛知県一宮市教委。献立の変更は2品だけと影響は少ないが、担当者は「今後も中国製の冷凍食品を使わないとなると、値段的なこともあり、大きな影響は出てくるだろう」と心配している。

 日本の食糧自給率は39%と先進国では低く、不足分を海外からの輸入に頼っている。

 財務省の統計によると、金額ベースで輸入割合がもっとも多いのは米国で27.33%。次いで中国の15.29%。野菜に限ると、中国が51.80%と圧倒的シェアを誇っており、日本の台所が「中国頼み」なことは否定できない。

 冷凍食品の輸入高は伸び続けてきた。日本冷凍食品協会の調べでは、平成9年の8万5205トンが18年には3.7倍の31万5436トンに。18年の輸入高のうち中国製は63.60%に上り、中国への依存は顕著だ。

 今回の事件で、冷凍食品を含め中国産の買い控えが進んだ。

 大手スーパー、ダイエーでは冷凍食品の売り上げが3割減となった。一方、ギョーザの皮は6割増、国産の挽肉は5割増、国産のニンニクは8割増と反比例の伸びを示しており、冷凍から国産・手作りに回帰している。

 食の問題だけに、消費者はどうしても神経質にならざるをえない。今後、どう対応すればよいのか。

 「今までの消費者はあまりに簡便で安い食品に飛びついてきた。袋の表示ですべてが分かるわけではないが、そもそも『なぜこんなに安いのか』との疑問を持ち、品質をある程度識別できる能力を磨く必要がある。事件を教訓に、なるべく家で作るということも考えるべきだ」

 食生活などの調査研究をしている「食品科学広報センター」の正木英子代表はそう教えてくれた。







『台湾の声』  http://www.emaga.com/info/3407.html