②本の装丁


夢二が人から頼まれた数多くの装丁の中でも、この「新訳絵入伊勢物語」(大正6年5月15日発行)は群を抜いて素晴らしい本です。


題名の「新訳絵入」というところにぜひ注目をして頂きたい。有名な古典の「伊勢物語」を吉井勇が解釈し、そこに夢二が絵を添えたことによって古典がもう一度新しく甦ったような思いがします。


まず函の装丁が素晴らしいのです。富士山の噴火、雲、山、海、そこに浮かぶ5艘の舟、そして松の木。




本文には「絵入」の文字に違うことなく色のついた木版が5葉、白黒のものが16添えられています。すべてと言うわけにはいきませんが、木版と白黒のもを一部ご紹介しましょう。



口絵


名にし負はば
いざ言問はん
都鳥
わが思ふ人は
ありやなしやと


筒井筒
井づつに懸けし
まろがたけ
生ひにけらしな
相見ざる間に


荒れにけり
あはれ幾世の
宿なれや
住みけむひとの
訪れもせぬ


大原や
をしほの松も
今日こそは
神代のことを
思ひ出づらめ



おきのいて
身を焼くよりも
悲しきは
都島辺の
別れなりけり



この本の奥付にはきちんと著者吉井勇と連名で夢二の名が明記されています。装丁は軽く見られることが多く、装丁家の名前が全く載っていない本もありますが、徐々に装丁家として評価されるようになってきたことが伺えます。

館長 木暮 享