ゆきしんの妄想AKB小説ブログ

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どーも、ゆきしんです。
AKBメンバーを題材に小説を書いてます。たまに雑談。

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水曜日の放課後。

今日は珍しく平和に終わった一日。
想定外なことが起きるわけでもなく、あるべきだった日常を満喫した。

そんな放課後にふらっと立ち寄った場所。
学校の最寄り駅から3駅離れた駅の近くにあるデパート。
その中のおもちゃ売り場に、切ない背中を見せながら立ち尽くしていた。

「やっぱ無理だ」

目の前に積み上げられたガンプラの数々。
その中のひとつを手に取り、張られた値段のシールを見ては憂鬱にふける。

とてもじゃないけど、今の俺のお財布事情では手が出せない。
もう一度部屋に飾りたいシャアザクを惜しみながら棚に戻し、壊れてしまったあの瞬間のことを重いため息をこぼす。

親父に買ってもらおうともしたのだが、自分で壊したとくだらない見栄を張った手前それをもう一度買ってくれとは言えずに、こうして満たされもしない物欲の逃げ道としてこんな場所まで来ているのだ。

「帰ろ」

ただ眺めているだけで俺の傷が癒えることはなく、ひたすらに空しくなるこの場所を速やかに去ることにした。

「本屋にでもいくか」

せっかくデパートに寄り道をしたということで、中に併設されている本屋さんによることにした。
このあたりでは一番大きな本屋さんなだけに、その敷地面積と品数はなかなかのもの。

本を好きでよく手に取る俺だが、そのジャンルは結構まちまち。
気になったら読んでみるスタイル。
その中でも歴史物が好きだったりする。

自分の好みとなるようなものがあると思われるコーナーへと足を運び、気になった題名の本を手にとっては裏表紙でその中身の大筋を確認する。


「だ~れだ?」

突然遮られた視界にあの忌まわしき声。
驚きよりも急激な寒気に襲われ身震いする。

「なんでいる」

「私も同じこと聞こうとしてた」

視界が戻ったと同時に軽く振り返ると、いつもの笑顔で待ち構えている転校生。

「ここ学校じゃないよな?」

「そうだけど?」

「ならなぜ同じ場所にいる?」

「偶然って怖いね」

「俺はあなたのその無邪気な笑顔のほうが怖いよ」

偶然なら偶然でいいが、出来すぎにもほどがある。
本当にたまたまここに寄ることにした俺の思考と時を同じくして、転校生も同じことを思ったなんて偶然そうそう起きないはずなのに。

「二人とも本好きなんだし、別に不思議なことじゃないのかもね」

「いや、不思議だよ。まったくもって腑に落ちないくらい」

「まぁまぁ、こんな偶然そうそうないわけだしね。いこ」

「え?」

手にとっていた本を抜き取って棚に戻すと、その目的も明かさずに俺の手をとって踵を返す転校生。

「おい!どこいくんだよ!」

「見たい映画があるの。いこ!」

握った手を再度力強く握りなおし、俺の返答を待つことなく駆け足になる転校生。
その勢いに引っ張られて無理に足を動かし始める。

「ちょ、はなせ!あぶない!」

制服のスカート揺らしながら俺の手を引くその速度が落ちることはなく、階段を駆け下りてデパートの外へと飛び出す。
やっと立ち止まり息を整えると、なにがそんなに面白いのか声に出して笑いだす転校生。

「はぁはぁ……なにすんだよ!あぶねえだろ!そもそも映画って
「いくよ!」

「って話を聞けって!!!!!」

俺の話を一切聞こうともせずに、再び手を引き走り出す。
信号の少ない道を止まることなく駆け抜けて、目的地と思われる映画館の前にやってきた。

「はぁはぁ………面白いね!」

「はぁ……なにが、はぁ、はぁ、面白いんだよ……」

運動神経のかけらもない俺を引きずりまわしてなにが楽しいのか。
転校生以上に荒くなった息を必死に整えていると、俺にはかまうことはせずにそそくさと映画館の受付へ。

急激に乾いた喉をなにかで潤そうと鞄から水筒を取り出すと、それを飲み始める前に転校生が映画のチケット二枚を手に戻ってくる。

「ぎりぎり間に合ったよ!ほら、いくよ!」

「俺まだ見るともなんともいってないんだけど」

「いいから!はじまっちゃうよ!」

水筒を飲む暇さえも与えてくれず、映画館の中へと引っ張られていった。
そのあまりの元気とみなぎるパワーに、抵抗する気力すらも奪われていく。

館内に入って誘導に従いスクリーンへと向かう。

「はい、これ」

入場直前のチケット確認の前に手にある一枚を手渡される。

「『薔薇色のブー子』?」

そこに書かれた作品名を声に出して読み上げてみても、聞いたこともない映画だということしかわからなかった。
転校生の言われるがままに指定の席に着き、まもなく始まった映画とともに、あたりの照明が落とされていった。













「面白かったね」

映画館を出ると、転校生は満足そうにおの内容を振り返り始めた。

「聞いてる?」

それに一切反応を示さない俺の顔を覗き込んでくる転校生。

「面白くなかった?」

「いや、そういうことがいいたいわけじゃなくてね」

「じゃあ、どうしたの?」

依然俺の言いたいことを理解してくれていないみたいで、やっとまわってきた自分のターンに必要以上に声を荒げる。

「どうしたのじゃねえよ!!上映中は静かにしてなきゃダメだったから黙ってたけどな、話のひとつも聞かずに無理やり映画館つれてきて映画を見せられる俺の気持ちになれ!!最初の10分くらい喉の渇きと汗のせいで全然内容はいってこなかったわ!!」

「最初の10分くらいはね、主人公の
「説明求めてるわけじゃないんだよ!!」

「でも、面白かったでしょ?」

何を言っても俺が求める焦点での議論にはならず、我が道を突き進む彼女に反論する気力もなくなってくる。

「もういいよ。ほら」

別れる前に映画の御代にと2000円ほど取り出すと、それをくすねるようにすばやく奪い取ってから俺のポケットにねじ込んできた。

「なんで戻すんだよ」

「私が誘ったんだから、お金なんていらない」

「そういうわけにはいかねえだろ」

「いくの!絶対もらわないから」

「いいから受け取っとけって。それこそ俺に迷惑だ。こういう貸し借りはなしにしときたいんだよ」

「だから………これで貸し借りなしでしょ?」

すぐにはなんのことを言っているのかわからなかった。

「ね?」

少し落ち着いた表情になった彼女が、ポケットに入ったお札を取り綺麗に二つに折りたたむと、優しく俺の右手の上に乗せた。

「壊しちゃったから、そのお詫び」

最近やたらと俺に対して静かだと思ったら、なんだかんだ気にしていたのか。
お詫びなんていうならもうちょっと俺の意見をとりいれてもらいたくもあったが、その気持ちが痛いほど伝わってきてしまったから強く言い返せなかった。

「別に気にしてないって」

「嘘だ。さっきおもちゃコーナーで落ち込んでたし」

さりげなく自分がそのころから俺のあとをつけていたことを明かした転校生。

「まさか学校からつけてきたのか?」

偶然なんていってたけど、やっぱりそんなことなかったんだ。
俺にどうにかしてお詫びをしたくて、下校時からこっそり後をおってきたんだ。

「落ち込みはしたけど、気にはしてないって」

「祐希が気にしてなくても、私は気にしてるの!」

なぜか少し怒ったように頬を膨らませる。

「そういうことだから。さ、帰ろ」

もう満足したのか立ち止まる俺に帰宅を促す。
最後に見せられたそのふくれっつらが、俺にまた余計な一言を吐き出させる。

「映画、面白かったよ」

背中に向けて放った言葉。
驚いた表情で振り返った転校生。

「うん!」

少し恥ずかしくてまっすぐ顔を見れなかった俺に、いつもの笑顔を見せて返事をした。