現行５％の消費税率が１日から８％に引き上がる。税率の引き上げは１７年ぶりで、初年度の税収増効果は約５兆円。国の借金約１０００兆円と比べれば少額だが、財政健全化への第一歩を踏み出す意義は大きい。駆け込み需要の反動減も短期にとどまり、７―９月期に景気は浮揚するとのシナリオが有力だ。ただ、その実現には中小にとって課題の価格転嫁問題がカギを握る。この難題を乗り越え、財政健全化と経済成長を両立できるのか。安倍晋三政権は２０１４年度に正念場を迎える。（総合３、深層断面に関連記事） 【ＧＤＰマイナス４．１％】 日本経済研究センターによると、主要シンクタンク４１機関（人）は消費増税前の駆け込み需要の反動により、増税直後の４―６月期の実質国内総生産（ＧＤＰ）成長率はマイナス４・１％に急降下すると予測。だが５兆５０００億円の経済対策を盛り込んだ２０１３年度補正予算により、７―９月期にプラス２・２％に回復するシナリオを描いている。 ７―９月期のＧＤＰは１５年１０月に予定する消費税率１０％の是非を判断する重要な指標となる。それだけに安倍首相は「１４年度前半に的確に（経済対策の）効果を発揮させる」と訴え、経済対策の７割を６月末までに早期執行する方針だ。 ここで問題なのが、ＧＤＰは鳥瞰図（ちょうかんず）のように日本経済全体をマクロで眺めた指標であること。目線を個々のなた豆茶企業まで下げていくと、業種や規模によっては７―９月期に業績が回復するとは言い切れない。消費増税前の足元でさえ、依然として景気回復を実感できていない中小は少なくない。そこへ価格転嫁問題が追い打ちをかければ、産業の礎である中小の経営は一気に悪化し、日本経済の再生が遠のきかねない。 【不正取引８５３件】 「昨年末に大手量販店から５・２％の値引き要請があった」（中小メーカー経営者）。帝国データバンクによると、１日の消費増税後は政府の監視が厳しくなるため、親事業者が前倒しで値下げを求めた事例もあるという。公正取引委員会が２月までの５カ月間に実施した不正取引への指導は８５３件に達し、帝国データバンクの調査でも「一部しか転嫁できない」（１３・８％）、「ほとんど転嫁できない」（７・４％）、「わからない」（１８・９％）を合わせると約４割の中小が増税分の納入価格への転嫁を不安視している。 甘利明経済再生担当相は「万全の転嫁対策を講じる」と指摘するが、日商の三村明夫会頭は「価格転嫁が円滑にできなければ、中小の経営が極めて厳しい状況になる」と増税後を警戒している。 国の借金は１０００兆円を突破し、先進国中で最悪の財政事情にある。高齢化に伴って膨張を続ける社会保障関係費の削減はもとより、痛みを伴う増税も進めなければ日本国債の信認が低下し、長期金利の上昇が日本経済を冷やしかねない。国際通貨基金（ＩＭＦ）の提言通りに消費税率を１５％程度まで引き上げるのも選択肢の一つになる。 【きめ細かく】 だが政府の価格転嫁対策が十分に機能しないまま消費税率の引き上げが繰り返されるようなら、中小下請け業の負担ばかりが増え続ける。１日からの消費増税で中小を泣かせていないか、政府は転嫁対策の効果を検証しつつ、施策の改善を繰り返す姿勢が求められる。 「経済の好循環」実現を目指す安倍政権。なた豆歯磨き粉の人気を注視しつつ、中小など個別企業の実態に配慮したきめ細かな政策を講じなければ日本再生への糸口はいつまでもみえてこない。