ウェイトレスとなったY子は、自分でその選手と付き合っていたと言いふらしていたという。
本当のところは分からない。
わたしの耳に入ったのは、かなり後だった。
そのY子の告げ口を真に受けた彼は、もう口をきかない、と言い出した。
たぐいまれな、依怙地な人だった。
誤解を解こうという努力は、失敗に終わり、そして、見たくないものを目にしてしまうことになる。
プロスポーツ選手、しかもただのプロスポーツ選手ではない、日本を代表する選手を目指そうかという人がするべき行為ではないと、わたしは今でも思っている。
プライベートを追いかけたりはしていない。
たまたま練習場の隣の建物の、カーテンの影から見えてしまったのだ。
そんなことをしてさえいなければ、もっとよいプレイができるのは、分かりきったことなのに。
心底がっかりした。
やめて欲しい、という願いも当然ながら聞く耳もたず、やがて、わたしは彼を見捨てた。
練習場にも、試合にも一切行かなかった。
その後、怪我を繰り返し、精彩を欠いた彼は、チームを移籍していった。
ある日、友人に誘われて、久々に練習場に出かけた。
その友人も、一度はY子に盗られ、しかし、戻ってきてくれた友人である。
そこで、気軽に応援できそうな選手を見つけた。
先輩の車の助手席の彼に、声をかけた。
――明日、試合に出ますか?
――はい、たぶん。
握手の手を出すと、あわてて手を出してきて、はにかみながら、握手をしてくれた。
プレイも気に入った。
わたしの姿を見つけた途端にはしゃぎだすような人だった。
気まぐれで振り回されたが、しかし、楽しかった。
それからは、2軍を中心に見る日々。
ある日、練習場から出発するバスを、女子高生の友達と二人で見送った。
他の見学者は、練習場に気を取られて誰も見向きもしなかった。
わたしは、当然彼しか見ていなかったが、女子高生が言った。
――すごい、(選手の名前)、(わたしの名前)さんしかみてない!
そしてこうも言った。
――隣に座っていた(別の選手の名前)くんも、ずっと(わたしの名前)さん見てましたよ。
わたしは、隣にその選手が座っていたことさえ、気が付かなかった。
ファンサービスに並んでいると、他の人の相手をしながら、視線はこちらにとんでくる。
そうすると、わたしが誘惑した、わたしが悪い、ということになるらしい。
人間の心理とは怖ろしい。
自分が信じたくないものは、うまく捻じ曲げて理解するらしい。
わざわざわたしの耳に入れにくる人やネットで、そんなふうに理解されていることを知った。
むこうが勝手に振り返ってくるものを、一体どうしろというのだ?