実は、最初に応援していた選手が移籍した後、一度だけ、会いに行ったことがある。

そのチームの、ファンのためのイベントの日。

彼が移動するにつれ、多くの人が周りを取り巻き、ついて歩く。

その隙間を縫って、わたしは彼に手紙を差し出した。

彼は無言で受け取り、そして握手に応じた。

わたしが彼に書いた、膨大な量の手紙を、全部とってあると言っていた彼。

しかし、心がすれ違ってからは、手紙を受け取ろうともしなかったのに。

わたしはこの時、すべてを水に流した。

わたしを信じてくれようとしなかった恨みつらみをすべて。

さようなら、もう二度と逢うこともない。

このチームにも、再び来ることはない。

そのはずだった。

再び足を踏み入れることとなったそこは、魑魅魍魎が跋扈している、恐ろしいところだった…。

わたしがここで書いているようなことは、一般の、普通の人から見れば、些細なことで、妬みの対象にもならないようなことだろうと思う。

しかし、選手に狂った人たちにとっては、違うらしい。

選手がこちらを向いた、目が合ったと大騒ぎをする人たちだから。

わたしにとっては、異性が振り返るのは、普通のことだが、選手どころか、一般の男性にも振り返られることのない人は大勢存在するだろう。

実際、妬まれるに値するようなことは何もなかったというのに、そういった人たちはしつこく恨みをぶつけてくる。

練習場で、仲良くしていたお婆さんがいた。

お目当ての選手は、日本を代表する人で、純情な、可愛いお婆さんだった。

ある日、その人とふたりで佇んでいるところへ、彼が車で通りかかった。

いつものように、こちらを見ていく。

その人は、大喜び。

――(選手の名前)、こっち見ていったよ!

他の見学者の人たちにも、大喜びで言ってまわっていた。

数日後、練習場に行くと、その人の態度が一変していた。

仲良くするどころか、わたしが選手に話しかけるのを邪魔しにくるようになった。

そして、聞こえよがしに嫌味を言う。

誰にでも愛想よく接していた人なのに、わたしの他にも敵と見定めた人間を作り、敵対するようになった。

彼女の心の闇に何が巣くったのかはしらない。

しかし、彼が自分を見ていたのではないことに気づいたであろうことは、想像に難くない。

ある日、その彼が有名人と交際していることが、メディアで明らかになった。

写真を見たわたしは、こんなものでいいの?と正直笑えた。

不思議なくらい現実感がなく、嫉妬も湧かなかった。

しかし、気にはなる。

検索をかけて、調べてみると、有名店の売り子でもあるらしい。

どんな店なのか。

店をのぞいては見たが、もちろんいなかった。

他の売り子に何か聞こうとも思わず、のぞいただけである。

ずっと後に分かったことだが、すでにこの時、相当お腹が大きかったはずで、いるはずもなかったのだ。

そう、ずっと後になって、その彼の奥さんとなった人が嫌がらせをされたと噂が流されたとき、誰かそういうことをした人がいたのだろうかと、本人にたずねたことがある。

――奥さん嫌がらせされたんだって?

彼はキョトンとして、返ってきた答えが秀逸。

――誰の?


交際が明らかになってしばらくの後、結婚が発表された。

わたしの応援する気持ちは変わらなかった。

彼のプレイのよいところも悪いところも知っている。

2軍で終わる選手だとは思っていなかった。

選手として、すごくよいものも持っているのだ。

わたしに優しくしてさえくれれば、プライベートなんか気にしない。


結婚してすぐに、1軍の試合で初めてのブレイク。

初めて彼の力を、人々に見せつけた試合となった。

練習場で声をかけたわたしに、彼はじっくりと相手をしてくれた。

やっと、みんなに、わたしの応援している人がいい選手だと分かってもらえて、わたしは嬉しい――そういう内容の手紙を先に渡してあった。

――僕も嬉しかったです。

彼はまずそう言って話し始めた。

途中、奥さんから電話が入った。

――今、ファンの人にサインをしているから。

彼は、そう言って、奥さんからの電話を切ってくれた。

さて、以前はお気に入りの選手以外は石ころくらいにしか思っていなかったわたしだが、その反省もあり、思うところあって、新人の彼を育ててくれているチームスタッフや周りの人々を大切にしようと思うようになった。

そのおかげで、今でも、そのチームには、顔を見ると挨拶や気さくに話をしてくれるスタッフが何人もいる。

また、同じ彼を応援していた人たちの何人かは、今は大事な友人たちとなっている。

わたしは、プライドの高い人間である。

最初に応援していた選手も、その次の選手も、その気があれば、相手の方からプライベートの領域まで入れてくれるものだと思っていた。

だから、自分の方から、プライベートまで踏み込むことは、一切しなかった。

自分から追いかけるなど、プライドが許さない。

プライドに触ることは、もうひとつ。

このわたしが、試合にも出られない選手を応援している、ということ。

これは耐え難く恥ずかしかった。

ウェイトレスとなったY子は、自分でその選手と付き合っていたと言いふらしていたという。

本当のところは分からない。

わたしの耳に入ったのは、かなり後だった。

そのY子の告げ口を真に受けた彼は、もう口をきかない、と言い出した。

たぐいまれな、依怙地な人だった。

誤解を解こうという努力は、失敗に終わり、そして、見たくないものを目にしてしまうことになる。

プロスポーツ選手、しかもただのプロスポーツ選手ではない、日本を代表する選手を目指そうかという人がするべき行為ではないと、わたしは今でも思っている。

プライベートを追いかけたりはしていない。

たまたま練習場の隣の建物の、カーテンの影から見えてしまったのだ。

そんなことをしてさえいなければ、もっとよいプレイができるのは、分かりきったことなのに。

心底がっかりした。

やめて欲しい、という願いも当然ながら聞く耳もたず、やがて、わたしは彼を見捨てた。

練習場にも、試合にも一切行かなかった。

その後、怪我を繰り返し、精彩を欠いた彼は、チームを移籍していった。

ある日、友人に誘われて、久々に練習場に出かけた。

その友人も、一度はY子に盗られ、しかし、戻ってきてくれた友人である。

そこで、気軽に応援できそうな選手を見つけた。

先輩の車の助手席の彼に、声をかけた。

――明日、試合に出ますか?

――はい、たぶん。

握手の手を出すと、あわてて手を出してきて、はにかみながら、握手をしてくれた。

プレイも気に入った。

わたしの姿を見つけた途端にはしゃぎだすような人だった。

気まぐれで振り回されたが、しかし、楽しかった。

それからは、2軍を中心に見る日々。

ある日、練習場から出発するバスを、女子高生の友達と二人で見送った。

他の見学者は、練習場に気を取られて誰も見向きもしなかった。

わたしは、当然彼しか見ていなかったが、女子高生が言った。

――すごい、(選手の名前)、(わたしの名前)さんしかみてない!

そしてこうも言った。

――隣に座っていた(別の選手の名前)くんも、ずっと(わたしの名前)さん見てましたよ。

わたしは、隣にその選手が座っていたことさえ、気が付かなかった。

ファンサービスに並んでいると、他の人の相手をしながら、視線はこちらにとんでくる。

そうすると、わたしが誘惑した、わたしが悪い、ということになるらしい。

人間の心理とは怖ろしい。

自分が信じたくないものは、うまく捻じ曲げて理解するらしい。

わざわざわたしの耳に入れにくる人やネットで、そんなふうに理解されていることを知った。

むこうが勝手に振り返ってくるものを、一体どうしろというのだ?

やっと訪問者が増えそうですね。

嬉しいです。

これから自分がされた仕打ちをぶちまけますよ。

こちらは、ストレス発散ブログという面もありますので、何かあるごとに書き連ねていこうと思います。

徐々に徐々に現在に近づいていきますよ(笑)。

過ぎ去りし日々について書いてみる。



上京した当時、応援している選手がいた。

地方在住でも、イベント参加と手紙で、わたしの存在はしっかりと認識されていた。

練習場や試合に通いだして、すぐに特別扱いされるようになった。

練習場で彼の帰りを待っていると、車で出てきた彼は、他のファンにはゴメンナサイ、ゴメンナサイと手を挙げて、わたしのところですっと止まる。


わたしはそれを当然だと思っていた。

自分は他のファンとは違う、と。

なぜなら、世界で一番彼のことを応援している人間だと思っていたから。


しかし、彼は当時人気絶頂だった選手。

そんなことをしていて、妬まれないわけがない。

今なら分かるが、当時の自分にはそれが分からなかった。

他のファンには、妬む値打ちすらないと思っていたのだ。

今でも、彼女らの顔ぶれは全然知らない。

直接嫌がらせをしてきて初めて、こんな人が存在したんだ、という感じで。


その中に、彼を本気で狙っている人がいた。

計算ずくで、わたしの友達と仲良くなり、わたしの情報を入手し、彼にはわたしの悪口を吹き込み、まわりにもわたしの悪評をたて、自分は彼の行きつけのレストランのウェイトレスとなり、近づいたらしい。

ことがかなり進むまで、愚かにも、わたしは何も気づかなかった。


今日はここまで。