昨日は大阪の枚岡(ひらおか)神社で粥占(かゆうら)神事をみてきました。

粥占神事は枚岡神社で1月11日に行われる神事であり、
おかゆを用いて1年の農作物の吉凶を占うものです。
本来は1月15日の小正月に行われていましたが、
今では占い結果を印刷する関係上1月11日だそうです。


■粥占いの方法

大きな釜に米と小豆を入れたものを炊きます。
おかゆの中には15cmくらいの竹筒(占竹)が53本括られて入れられます。
この筒の中に入ったおかゆの量で吉凶を占うのです。
53本あるのは、占う農作物が53種類だからです。
農作物は以下の通りです。

米 あげの山田 「わせ」「なか」「おくて」
  あげの中田 「わせ」「なか」「おくて」
  下のふけ田 「わせ」「なか」「おくて」
粳 あげの山田 「わせ」「なか」「おくて」
  あげの中田 「わせ」「なか」「おくて」
  下のふけ田 「わせ」「なか」「おくて」
麦 「はやむぎ」「なかむぎ」「おそむぎ」「大麦」「小麦」
あげの畑 「大豆」「小豆」「ささげ」「そら豆」
     「粟」「黍」「蕎麦」「大根」「胡麻」「芋」
     「サツマイモ」「瓜類」「菜種」「青綿」赤綿」
下の畑  「大豆」「小豆」「ささげ」「そら豆」
     「粟」「黍」「蕎麦」「大根」「胡麻」「芋」
     「サツマイモ」「瓜類」「菜種」「青綿」赤綿」

以上が占う農作物53種です。
炊き具合は粥掻棒と呼ばれる棒で混ぜながら確認します。
煮え立ち始めると神職により大祓詞(おおはらいし)が奏上されます
粥が炊き上がると、筒は引き上げられます。
そして、三方に乗せられ、奉安されます。
この後の粥は参拝者にふるまわれます。
結果は「おきあげ」として1月15日の粥占祭賽祭で示されます。


(画像は去年の占記)


また、同時に黒樫(占木)を竈に入れ、その焦げ具合で晴雨強風を占います。
黒樫は月の数だけ入れられます。本年は12本。うるう年なら13本です。
各々の木が月を表すものとして占われるのです。
これは「置炭の占」と呼ばれます。


■各地の粥占い

粥占いは珍しいものです。
というと、人によっては疑問に持つかもしれません。
なぜなら、かの諏訪大社にも粥占いは伝わっており、
各地で散見される神事だからです。

諏訪大社のものは「筒粥神事」と呼ばれます。
これは大凡、枚岡の粥占神事と同じものですが微妙に違います。
師岡熊野神社の筒粥神事でもそうですが、竹ではなく葦を用います。

師岡熊野神社は神奈川の神社であります。
また、千葉の安房神社でも粥占は行われています。
九州でも行われる行事であり、珍しいか疑問に感じるところです。

佐賀の大詫間の松枝神社、早津江の志賀神社などの粥占神事では、
2月15日に粥を炊き、3月15日までの1ヵ月間、その粥を神殿などに保管し、
カビの付着具合によってその年の吉凶を占うものだそうです。
ちなみにいっぱいカビが生えると豊作だそうで。

枚岡と近い所では恩智神社で粥占があります。
こちらは天暦年間(945~956)村上天皇の発願にて行われました。
女竹15cm位のもの、先端をハスに切り80本を細かい縄で束ね、
小豆5合米2升を洗い清め、大きな鉄鍋にて煮きます。
煮きながら竹筒の中に粥を流し込み、1本ずつ帳簿に合わせて占竹を割り、
その年の豊作物の吉凶を占います。神事終了後、境内にて占いを公示します。
遠い昔に、枚岡神社のお粥占いに、恩智神社より立会いに行ったそうです。

どちらが先なのでしょうか。

調べてみると粥占は意外と各地に残っているのですね。


■小豆粥

昔から、小正月の1月15日に小豆粥を食べる風習があります。
この15日は望の日なので、望粥(もちがゆ)とも呼ばれます。
由来は中国で冬至に小豆粥を食べられたことからだそうです。
色々と様々な風習が混ざって、小正月に小豆粥なのだそうです。

枕草子には
「15日は望粥の節供参る。粥の木引隠して家のごたち、
 女房などのうかがうを、打たれじと用意して、常に後
 を心つかいしたるけるもおかしきに」
とあります。
朝廷でも小正月に粥を炊く行事が行われました。
その時粥のかき回しに使われた粥杖(=粥掻棒)で女の尻を打つと、
男児が生まれるという俗信があったようです。
しかし女房は粥杖で尻を打たれはしないかと一日中、
後ろに迫る貴紳の影に大いに用心しなければならなかったわけです。


■季節と粥占

粥占は新年の季語としても存在します。
中でも「枚岡の粥占神事」はこれだけで歳時記に載っているのだそうです。
枚岡は特別なものなのでしょうか。
12音の季語なので、のこり5音しかありません…。

傍題としては「御粥祭/卜田(うらた)祭/管粥祭」があります。
小豆粥を季語として使う場合は粥節句なども傍題となります。

今では農作物の吉凶など当てにならないですが
昔の伝統を残した良い行事だと思っています。

「農業なんて暗峠(くらがりとうげ)の周りのちょっとくらいやろ」
と神事を見に来たオジサンが話しかけてきました。


■雑感

「枚岡の粥占神事」という季語で俳句を作ろう!
という主旨で友達と集まったわけですが、中々楽しかったです。
私は少し遅れたので最初から神事を見れませんでしたが、大体見ました。
神社というのは厳かな雰囲気がしていて好きです。
神事中は喋るのがいけないものとして押し黙ってしまいますね。

初めて枚岡神社に行ったのですが、階段にビビりましたね。
予想以上に大きな神社でビックリしました(笑)
遅れていったので到着した時に神事は始まっていたのですが、
とりあえず、神様に挨拶をしてから、神事を見ていました。

中でも驚いたのは、カメラの多さです。
粥占神事は本来「秘密神事」なのですが、
今では観光用にということで、御竈殿(おかまでん)の戸が開いています。
一眼レフやデジタルカメラなどは音が出ないですが、
携帯はシャッター音が激しいですからね。
あれにはびっくりしました。

神事を見ている人は、多く地元の人のようで、
会うたびに「明けましておめでとう」と言い合っているのに季節を感じました。
J:COMのスタッフの人も取材映像を取っていましたし、
観光客のような人々もいました。

粥が炊き始めるとあたりは煙で大変なことになります。
美味しい匂いがするのですが、そのうち「焦げ臭く」なります。
焦げているのです(笑)

神事が終わると、枚岡神社の敬神婦人会の方々が粥をふるまってくれます。
神事で使った小豆粥と普通の白米の粥の二種類があります。
小豆粥の方が、焦げが入っているので苦いのです。
知っている人は「白いのをください」と言っていました。
私達客人は迷わず「赤いのをください」です。

そのあと、境内の参集所の一室で句会をやりました。
私にとっては初句会です。
みなさんの句に触れてとても楽しい一日でした。

詳しい様子は、こちらのblog「枚岡神社だより」をどうぞ
http://blog.goo.ne.jp/shinkimichimichi



幾歳の竈の記憶小豆粥 嘯閑