編集長の見解と私の意見が食い違い、
説得と説明と疑問と反論。
その繰り返しで、へとへとになって帰ってきた。
実にささいな・・トリミングの差・・これで・・
ああ、まあ・・もういいや。
とにかく、私が一歩もゆずらず、印刷所にGOしたわけだ・・し・・
あれ?
私の部屋・・ブラインドが開いてる?
と、いうことは・・・・・。
また、あいつだ。
大急ぎで部屋の鍵・・・。
いや、待てよ・・・。
ドアノブをまわしてみる。
案の定・・・。
ドアに鍵もかけずに・・。
あがりこんで・・・。
あっ?あああああ・・・。
大事な事をおもいだした。
先週、上物のアウスレーゼをかいこんで・・
ヤバイ!!
玄関を開けた途端、
なに?この臭い。
どぶ川だって、こんな奇妙な臭いをさせてやしない・・。
犯人はあいつの・・この靴・・。
いやいや、こんなものにかまってるわけにはいかない・・。
部屋の中にはいってみると、あいつの姿がない。
「ちょっとお」
呼んで見たけど返事がない・・・?
え?
が~~~?
げ?
まさか・・。
今のは、いびき?
って・・・?
私はあわてて、ベッドルームにとびこんでいった・・。
きちゃない靴下がぬぎちらかされてて・・
なんか・・部屋にも異臭・・
え?
わ!!
わ・・・・・わたしのベッドに・・・
あいつがねてる~~~~~~~~~~~。
だのに、私も馬鹿だ。
きもちよくいびきをかいてる奴をおこすのも気の毒・・。
は~~~~。
くさ!!
あ!
ワイン・・・。
あわてて・・・キッチンにとんでいった私がみたものは、
ワインラックの中の空間。
げ?
それもまちがいなく、この間かったばかりの・・
涙がこぼれそう・・。
こうなったら、いじましさも手伝う。
奴はリビングのソファーで・・のんだに違いない。
まだ、残ってるだろう。
かすかな期待をもちながら、リビングのソファーのむこうの
ローテーブル・・・・。
あったよ・・。
空瓶が・・。
一人で一本そうなめにして、気分よく、
私のベッドにもぐりこんだ?
え?
上等じゃない・・・。
さっきのかわいらしい気使いなんかどっかにふっとんで、
ベッドルームにもどると、
きちゃない靴下の端をつまんで
奴の顔をはたいてやった。
「やめろよ・・あとでな・・ん・・」
なに?それ?
少々じゃおきないのは、わかってるけど、
今の科白、女?
おもしろいからたしかめてみた。
靴下でそっと奴の顔をなでまわす・・。
「俺・・・疲れてるんだ・・って」
はい?
さらに首筋・・あたりに靴下をすべらす・・。
「判ったよ・・ほら・・来いよ・・」
って、まだ、寝ぼけ半分で手をのばしてくる。
あんたの恋人もあんたに負けずおとらずくさいんだね。
そうつぶやいて、靴下を鼻のうえにのせてやった。
「チサト・・ほら・・」
げ?
なに?あたし?
あたしが、あんたの恋人?
あたしがくさい?
いや、くさいなんか、問題じゃない。
なんで、あたしの名前なんか呼ぶのよ・・。
かんべんしてよ~~~~~~。
「チサト・・ほら・・ここで・・しろよ」
へ?
なにを?
寝言に返事しちゃいけないってきくけど、このさい・・いいか・・。
「なにをするのよ」
「うんこ」
へ?
「うんこ?」
「はやくしないともらすぞ・・さっきから、おまえくさい・・」
ば・・・・ばかっ!!
くさいのはあんたの靴下のせい・・・。
なんの夢みてんのか・・。
キャラバンくんで、野営地に撮影しにいったゆめかな?
あそこは男ばっかりでトイレの囲いもなくって、
こまったもんね・・。
あたしは、奴をそのまま、ほったらかすことにして、
シャワーでもあびて・・・。
ソファーで寝るしかないか・・。
あいつをベッドからたたきだしたってくさくてねむれないし・・。
布団はクリーニングだな・・。
なんで、せめて、シャワーを先にあびてくんないかなあ・・・。
シャワーをあびて、冷蔵庫の中からビールをとりだして・・
はあ・・・・。
カマンベールの箱がない・・。
サラミソーセージも・・。
・・・。
ナッツ缶はソファーテーブル・・。
ないだろうな・・。多分。
しかたなく、ビールだけ・・。
くいっと一本あけて、着替えようとおもったら、
奴がおきてきた。
「うわ!!」
驚きたいのはこっちだ。
「うわ・・そんな恰好してても、色気ひとつねえ!!驚嘆すべき事実だ」
ご挨拶だねえ・・・。
「あんた・・頼むから、シャワーくらいあびてよ」
「うん・・今から行く・・」
はあ・・・って大きなため息をもらしてやった。
とたん、
「どうしたん?なんかあった?」
お見事。このずうずうしさととふてぶてしさ・・。
「別に」
「あ、そう?」
って、そのまま、シャワーあびにいってしまった。
心配する気さえないんだから・・と、
文句もでてこないのは、あてにしてないからだけど・・。
奴のことだ、また、弟ですって、管理人に鍵をあけさせたんだ。
いろいろ、カメラのことで、借りがあるから、
大目にみてるけど、ずうずうしいのも程がある。
でも、まあ、微妙なところではあるけど、姉さん気分にひたれるのは悪くはない。
それに奴の撮影技術もセンスも群ぬくものだし、
なによりも情熱がある。
正直言うと、そこだけは、手放しで尊敬している。
奴がシャワーをあびてる間にパジャマにきがえて、
もう一本ビールをあける。
頭の中で夕焼けのモスクと右端の子犬を連れた小さな女の子の
トリミングが浮かぶ。
編集長は小さすぎるから、カットしたほうが、いいという。
モスクの夕映えで充分すぎるほど冗舌だという。
点描になってしまうほどの女の子が、犬を連れて歩いてるのが味噌だというのに、引き下がらない。
生活のない風景は嫌いだ。と、いえば、
そんなものが理由になるか。って、いいかえされた。
ーモスク自体が生活の象徴であろう。
夕日という大自然の中、人間の作ったものにも平等に光をなげかけていく。
太陽信仰こそが、人類の歴史であり、今も変わらず、人々の営み、自然、人工物、すべてを包み込む。ー
だからこそ、犬を可愛がる余裕のある「ひととき・瞬間」を対比させたいんじゃないか。主張しすぎず、風景の中にとけこむ・・
あれ?
洗濯機の音?
げ?
あたしの・・・もの・・
乾燥までしていたはず・・。
あわてて、バスルームにはいっていったけど・・。
最悪・・・・。
奴は中も確かめず、こぎちゃないジャケットやパンツや・・なにもか、
つっこんだにちがいない。
「なんだ?覗きか」
バスタオルをまといつけていた奴があたしに言う科白がこれ。
あげく・・。
「お、遠慮なくみせてやろう。おまえ、男みたことないだろ」
馬鹿にした科白をはかれて、
「みあきてるわよ」
と、いいかえしてやったら、じゃあ、平気だな・・・って・・。
バスタオルをさ~~と、たくり上げだす。
まじ?
からかってるだけよね?
そこらへんがわからない奴だから、私は
バスタオルが奴の腰から消え去る前に
むきを変えようとした。
途端、
「あ?おまえ、本当は、こわいんだ?」
ば・・・ばかたれ!
あんたのものなんざ、怖いじゃなくて、きちゃない!!だけ。
「みたら、眼がくさる」
いいかえしてやったら、すこし、しゅんとした。
いやいや、こいつのことだ、だまされちゃいけない。
「そうかあ・・・。女の子はみんな・・うっとりするんだけどなあ・・」
それが、「シュン」の理由?
「あ、そっか、チサトはまだ、女じゃないんだな。やっぱし!!」
事実を言い当てられて、ひるみをみせちゃあ、そこにくらいつかれる。
「は?どれだけのもので、えらそういってんのよ。ぼうや!!」
とたんに奴はバスタオルをとりはらった。
「こ~~~~~んなの」
と、言ったあとの奴の馬鹿笑い。
「チサト、目ぇ、つむってちゃ見えないよ」
しっかり、未経験を暴露してしまったようなものだった。
ここは、女の武器で、反撃用意。
「そうよ・・あたしなんか・・・」
めそめそとうつむいて、しょぼしょぼと口の中で、つぶやいておく。
「あ・・・」
口ではえらそうを言ってるけど、こいつも実は女に慣れていない。
「あ・・チサト・・ごめん」
「いいの・・どうせ・・私・・魅力ない・・も・・の」
我ながら、迫真の演技。
「そ・・そんなこと・・ないよ・・。チサト、けっこう、いろっぽいし・・」
必死の慰めもどこか安っぽい。
「おっぱいなんか、小さいくせに、なんか、いろっぽいよ」
はい?
「やさ男みたいにみえるくらいなのに、変に色気あるし・・」
なぬ?
「後ろから、見たときなんか、ふるいつきたくなるし・・」
前からは見えんってかあ!!
むかっ腹たって、奴をなぐってやろうと我をわすれた。
うつむけた顔をあげると・・。
やられた!!
奴は最初から、きっちし、パンツはいてた。
まじ、おちょくられてる。
顔をあげて、パンツをみてる私ににたにた、笑いかけると
「残念でした~~~~~」
どうも、私の迫真の名演技もみやぶっていたようだ。
ん?
つ~~ことは、さっきの科白は、わざとか~~~~~~~!!
「チサト・・」
リビングに行ったあいつが呼ぶ。
「なによ」
「こっち来て、のまないか?」
は?あんた、まだ・・・・。
キチンのワインラックをながめる。
大丈夫、減ってない。
と、いうことは、また、取材旅行のお土産のウィスキーかなんか?
リビングにいくと、奴はリュックから、ウィスキー瓶をひっぱりだしてきていた。
お?
バルモア?
グラスをとりにいくと、早速、ストレートでいただく。
旨い物に弱いのはいいことかもしれない。
こいつの悪ふざけも、しっかり、水にながしてしまえる。
奴がまた、リュックの中をあさる。
だしてきたのが、ジャーキー。
自分のつまみもってるなら、ひとんちのものをあさる前にそっちをさきにくえ、と思いつつ、奴が袋の口をあけるのをおとなしく待ってるんだから
あたしもつくづく、犬の性分だと想う。
おあずけにおとなしく服従する犬のごとく、まちうける。
ジャーキーを齧りながら・・・ん?
なんだ、このジャーキー・・。
奴はまだ、リュックの中をあさっている。
「あ、今食ってるのがワニ。こっちが、カンガルーだな・・」
ん・・・。
目の前におかれたジャーキーの袋には、確かにカンガルーの絵がかいてある。
口をあけた袋では、ワニがちょんぎれていた。
はあ・・・。
「あんた、変わったものに目がないんだよね。忘れてた」
蝙蝠の木乃伊のブローチとか、渡された事があったっけ・・。
「あ?ああ・・。じゃなきゃ、チサトのとこにきやしないよ」
さらりといいのけたので、しばらく、気がつかなかった。
え?
変わったものに目がないから、チサトのところにくる・・。
つまり、私はげてもので、
こいつは、物好きか・・・。
ま、いいか・・・。そこそこにおいしいし・・。