今日はこんな夢を見ました。

未来に行った少女から、メッセージが届くという物語です。



◆どういうわけか未来に飛ばされてしまった少女は、

夜、行くあてもなくさ迷っていました。

住宅街であるのにけっして開きそうもない扉。

少女が居た現代でさえ、

見知らぬ者を泊めてくれる家などなかなか存在してはいませんでした。

どんどん人が冷たくなっていたからです。

そしてそれが加速したであろう未来、

きっと誰も泊めてはくれないと思ったからです。

家の中にはきっと食糧や温かい寝床もあるでしょう。

しかし住宅街に居ながら、少女は遭難者でした。

このまま死ぬかもしれない。

そう思いながら一軒の家のドアの前を通り過ぎようといた時、

温かい光が差し込みました。

開かれたドア。

どうしたのと尋ねる、笑顔を湛えたふくよかな女性。

事情を説明すると、快くその人は家の中へ入れてくれました。

でも、その人にとっては事情なんてたいした意味は持っていませんでした。

幼い少女が帰る場所もなく、こんな夜中に困っている。

それは助けられなければならない存在だ。

ただ、それだけの話だったのです。


家の中はけっして綺麗でも裕福でもありませんでした。

せまい部屋に、雑貨をむりやりどかして作られたスペースに、

押し入れからひっぱり出してきた布団を並べた寝床。

けれど少女はそれでも幸せでした。

その人と布団の上で沢山話をしました。名前も聞きました。

とてもとても、幸せで楽しい時間だったそうです。


その少女がその後どうなったのかは誰にもわかりません。

現代へ帰れたのかもしれないし、

帰る事はできずに未来に居続けたのかもしれない。

しかし、未来の道具を使って、

過去にメッセージを送る事は出来たようです。


謎の物体が不時着したとの報告を受け、

その物体は研究所に届けられました。

中に入っていたのは1本のカセットテープ。

未来に行った少女からのメッセージだと言う。

科学者達は興奮しました。

何か未来に起こる重大発表でも聞かされると思ったからです。

たとえば、未来が何かのきっかけで滅亡するなんて事になるとしたら、

その鍵を今教えてくれるのかもしれない。

そしてその原因を回避する事が我々の使命。


「未来で起こった事をお話します」

その言葉に高ぶる興味。

しかし、科学者達の期待は肩透かしを食らう事になりました。

まだこの世には存在していないであろう、

○○さんという人に、

自分は助けてもらったのだという事だけだったからです。

それが嬉しかったから伝えたのだと、

ただそれだけの内容だったからです。

どこかの誰かのささやかな身に起こった幸せなどどうでもいい。

もっと大きな事件はなかったのか。

わざわざ未知の科学技術を駆使して送られてきた重大メッセージなのだから。

そんな事の為になんと人騒がせな。

これはむしろ犯罪に近い。

それともその人物がいつどこで生まれるのか、

未来予想でもしてみろとでも言うのか。

科学者達は憤慨しあきれました。

しかし科学者達の憤慨など知らずに、少女は続けます。



「今は気持ちや感覚よりも、論理や証拠が勝つ時代。

それを突き詰めて行ったら、

もう誰も、証拠のない生身の人間の言葉なんて信じてもらえなくなる。

何か理由や物証や利益がなければ、誰も何も動こうとしなくなる。

そんなのおかしいよ。

そういうのは必要なものだけども、

だからって完全に優先されるべき事じゃない。

だからね、そんなものが無くても、

もっと人を信じてあげて欲しいよ。

証拠のない、気持ちや感覚を信じてあげて欲しいよ。」



未来にもまだ奇跡的に存在する、

人間としての普通の感覚。

それを持っている人に出会えた。

それは本当に本当に嬉しい事だった。

できる事ならば、過去のみんなにもその重要性を知ってもらいたい。


少女の気持ちは届いたのか届かなかったのか、

唖然としている科学者達の前で少女は話の終わりを告げます。

そして最後に。

この話が終わると、この機材は消滅すると言う。

科学者達がまたもや驚いている間に、

未来から来たであろう全ての物証は、

跡形も無く消え失せてしまいました。


静まり返った部屋の中に漂うは、

“証拠がなくとも人の感覚を信じて欲しい”という少女の思念。

何も無い、電波としても検出できないであろうそれが、

部屋の中に充満し、それぞれの脳に絡みつきました。

論理や証拠がなければ納得できない彼らにとっては、

これはとても驚いた事でした。

証明ができないあやふやなものを信じろというのか。

これがもし、普通の生活を送る一般の者が聞く事となったならば、

そのお願いはさして難しい事ではなかったでしょう。

しかし意図したものか偶然か、

それが最も難しい者達に聞かれる事となりました。

物証が欲しい彼らに物証は与えられず。

しかしたしかに聞いたというあやふやな記憶は残った。

記憶を取り出して再生する装置はまだ存在せず。

証拠がないから発表もできず、

この摩訶不思議な話は、

世間一般に伝わる事はありませんでした。


しかし困惑の中、

科学者達の中に新たな何かが芽生えたか。

怒って忘れてしまったのかもしれないし、

証明できないものを信じるという、

人間の可能性を信じたのかもしれないし、

その出来事ですら計算式にできるかもしれないと、

奮起しているのかもしれない。


だから何も変わらなかったのかもしれないし、

何か1つでも、どこかで変わったのかもしれない。

しかしいずれにせよ、

それは未来を大きく変えるような事ではなく、

人間として当たり前の感覚が

未来にも残っているというそれだけだったのだ。

人間が人間であれば本来何も変わらない事実。

それを忘れてはならない。失ってはならない。

ただそれだけを、

少女は未来からそっと、伝えてきたのだった―――







◆あとがき◆

たしかにこれは綺麗すぎた話かもしれません。

しかしどこか、真にせまるお話でした。

自分自身もどんどん冷たくなっていますが、

それに釘をさされたような気持ちです。

もう少し頑張ってみよう。そんな気にさせてくれました。

少女よ、確かにあなたは脳が作り出した産物でしかなかったが、

それでもそのメッセージは伝わったよ。


でも思うんです。

“夢”だって、この証拠の残らない装置と同じようなものなんじゃないだろうかと。

もしかしたら夢というものは、

証拠を残さないようにしながらも、

本当に未来から送られてくるメッセージものなのかもしれない。

しかしそれはほんのちょっとしたアドバイス。

たった1度で何もかもが劇的に変わるなんて事はそうそう無いもの。

あるのはちょっとづつ背中を押し続ける力。

そしてそれがやがては、

大きな結果へと繋がるのだ。

それが未来。

未来はただ、声援を送るだけ―――









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