ruin | わたしはあの時あなたに話しかけたかった...

わたしはあの時あなたに話しかけたかった...

真実の輝きも美しい嘘も語りつくせはしない ならば少しの間つぶやいてみようか この時間がずっと続くように



$わたしはあの時あなたに話しかけたかった...






高校2年の時だったか...

いま考えてみれば
ボードレールやランボーを唱え
ニーチェを抱えている
とってもかわいくないヤツだった

電車にのって
海が見える石畳の坂まで歩き
黄昏の海峡を眺めていた

本当はハイネが好きだったのだが
そいつはどこかに隠しておいた

たぶん一生の間で
いちばん華やかな時だったろう
しかしぼくは人生の秋を感じていた
ニーチェの永劫回帰を心のよりどころにして
冬に向かって行進しているようだった

ヴィターリのシャコンヌは
そのころよく聴いていた曲のひとつ
いまでは秀悦な若い人たちが
小学生のときにこの曲を演奏するという

この世紀末を思わせる調べを
彼らがどんな気持ちで奏でるのか
とても不思議な気持ちで興味を持っている
YOU TUBEでうかがうに
優秀なる彼らのパフォーマンスに敬意を覚える

さて このお話のオチであるが
生意気な高校生は長い冬の時代を
なんとか耐えぬき
やっと春を迎えたと...

迎えたはいいのだが
はっと気がついた時には
まわりの人はみな 
奇麗に年を取っているのに
自分だけがその風貌はともかくも
いつまでも青臭いままでいる姿にあきれているが
このごろは開きなおって
年を取るのをやめたんだ と嘯いているとな





今年の紫陽花がどうなっているのか
すこし遠くの公園にいってみた

今年の冬は雪が深く長かった
去年の花は雪の中で化石のように
水分をフリーズドライされ
新しい緑のなかで
過ぎ去った時間を
吊るすが如くに
じっと佇んでいた











Vitali Chaconne
Nathan Milstein







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