担当:しき
1 概要
1-1 対人関係における化粧
1-2 化粧操作とパーソナルスペースの変化
1-3 対人場面における化粧の社会的役割
1-4 化粧行動と対人恐怖心性の関連
1-5 魅力発揮メイクによる初対面の相手への興味・ 関心の喚起
1-6 ネイルとメンタルヘルスの関係性
1-7 まとめ
2 対人関係における化粧
2-1 コミュニケーションの定義
2-1-1 コミュニケーション:人間の間で行われる知覚・感情・思考の伝達
a 言語コミュニケーション:手紙などを含む、言語 を用いるもの
b 非言語コミュニケーション:表情・視線・姿勢・ しぐさなど、言語的情報以外を使って行われるもの
2-2 伝達手段の印象
2-2-1 伝達手段全体の印象を 100%とする場合
a 言語内容の占める割合 7%(言語コミュニケーショ ン)
b 音声と音質の占める割合 38%(非言語コミュニケ ーション)
c 表情としぐさの占める割合 55%(非言語コミュニ ケーション) →コミュニケーションの成立の可否について言語内容自体の影響はごくわずかで、その要因のほとんどが非言語分野
2-2-2 非言語分野である顔は多くの情報が表れてい る
a 性別や年齢といった生物的属性
b 口の動きが示す発言情報
c 情動・意図・関心等の心理的状態
2-3 化粧とコミュニケーション
2-3-1 表現的化粧による外見の修正や変更は本人がどのような人間であるかを発信するための情報を補強、強化するもの →コミュニケーションにおいて重要な役割を担っている
2-3-2 実際に表現的化粧を行う日本人女性の意識調査
a 10~20 代の女性 200 人を対象にアンケートを実施
b アンケートの質問に対し、当てはまる・少し当てはまる・どちらとも言えない・あまり当てはまらない・全く当てはまらない、の5つの選択肢から1つ を選択(インターネットを用いて調査)
2-3-3 調査結果
a 人と会う時に化粧をするという項目に、当てはま る・少し当てはまる、のどちらかの回答をした人は 全体の 80%を占める
b 外出する予定がないときに化粧をする人は全体の 11%しかいない →現代の若い女性の化粧行動の背景にはほとんどの 場合他者が介在し、他者に対して化粧行為をしてい る、と読み取れる
c コミュニケーションをとる際に身振り手振りに頼 る、空気を読む、顔や仕草から感情を察する(全て 非言語コミュニケーション)という項目に対して当 てはまる、少し当てはまる、のどちらかの回答をし た人は全体の 80%前後を占める
d 作り笑いをよくする、化粧が印象に及ぼす、と回 答した人は 80%以上 →ほとんどの人がコミュニケーション内の“顔”の 重要性について自覚しているという結果が出た 2-3-4 化粧は複層的である
a 相手に合わせる
b 流行に合わせる
c 個性をあえて消すような抑制的なもの、など →これらを意識的、無意識的に組み合わせ、コミュ ニケーションを円滑に進めようとする傾向が強い 2-3-5 化粧は他者のために社会的自己を構築するも の
2-4 対人関係の初期段階において、外見的魅力は重 要な規定因として用いられる
2-4-1 他者と知り合ったばかりの頃は二人の関係の間に十分な相互作用が生じておらず、相手の内面に 関する情報が乏しい →比較的入手しやすい相手の外見的魅力の評価をも とに表面的な印象の形成や内面的特徴の推測を行う 2-4-2 顔は構造が容易に変化しないため安定性が高 く、その人らしさを十分に映し出す部位として重要 視される
2-4-3 顔がそれだけ注目される部位であるために人 はより自分の魅力をアピールするために自分の顔に 人工的に手を加え、飾ろうとする →そのような手段として一般的に化粧が用いられる
2-5 対人相互作用場面における内的状態とコミュニ ケーション行動に与える影響についての実験
2-5-1 対象
a 日常的に化粧を行う女子大学生 20 名
2-5-2 方法
a 女子大学生に対し、すっぴんの状態で男性と会話 をさせる
b 肯定的・否定的なフィードバックを与えた後に化 粧を施して 2 回目の会話を行わせる
c 状態不安質問紙へ回答を、実験開始時、フィード バック後、化粧後に求める
2-5-3 結果
a 否定的な評価を受けた場合には化粧時間が長くな る ←相手から否定的な評価を受けた場合、化粧を入念 に行うことによって自分の魅力を高め、相手の持つ悪い印象を回復しようとしていることが示唆された
b肯定的なフィードバックを受けた場合は化粧後の コミュニケーション行動がより肯定的になり他者への働きかけが増加することが示唆された
2-5-4 考察
a 化粧はコミュニケーションの促進効果をもち、化 粧を行うことで他者に対して積極的に行動できるよ うになることが示唆された
b 化粧はその人のアイデンティティ及びそれに付随 して伝達される情報を補完するものであり、他者と の交流を促進し、コミュニケーションを活発化させる手段である
3 化粧操作とパーソナルスペースの変化
3-1 化粧をしないと他人との距離が離れる
3-1-1 化粧をしている自分が”公の自分”という認識 でいる人はすっぴんの状態は裸も同然で自分が損な われていると感じる
3-1-2 普段化粧をしている人ほど「化粧をしているときは、人に対して積極的になれる」という研究結果
→女性が効果を自覚して化粧している
4 対人場面における化粧の社会的役割
4-1 自己提示としての化粧
4-1-1 化粧の施し方、化粧の程度(濃淡)によりパー ソナリティを相手に提示する
a 人は化粧によって自己の情報を他者に対して提示 することが可能になる
b 情報の受け取り手である他者は、化粧を施した「その人らしさ」を読み取っている
4-2 化粧行為による立場の形成
4-2-1 個人が化粧をする際には、対峙する他者と自己の関係性や社会的状況において化粧の程度を調整し ている
a 何をするか(多動性)
b いつするか(時間性)
c どこでするか(場所性) →環境との関係を考え、TPO をわきまえた化粧を施 している
4-3 日本におけるナチュラルメイクの普及
4-3-1 ナチュラルメイク:日本独自の化粧法として文 化的に強く根付いている化粧法の一つ
a 目立つことや派手さを求めるのではなく、自分を平均に近づけるための化粧
4-3-2 ナチュラルメイクの普及の背景 ←社会・文化的制約が大きく関わっている
a 目立たない外見でないとバッシングされるという恐怖感
b 美しくないと生きづらい →文化的に横並び意識が強い日本人は、この二重条件の中で暮らしている
4-3-3 ナチュラルメイクは日本において最も適した 方法である
a 日本人は非言語コミュニケーションを好む ←非言語コミュニケーションに対して敏感であり、 視覚から得る情報の影響が大きい
b 横並び意識の強い文化の中で、化粧を対人関係の 媒体として自己を社会に提示する方法としてナチュ ラルメイクがふさわしい
4-4 化粧行為における「仮定された他者」
4-4-1「仮定された他者」:これまでの経験により形 成された自分自身を見ている自分
a 化粧をする際はこの「仮定された他者」を想定している
4-4-2「仮定された他者」と対峙する自己を作りあげ るために化粧を施す
a 実際に化粧によって「装う」ことで、他者に対峙する際の自己として新たな自己像を形成する
b 変容させた外見によって内面が変化するという化粧の持つ特殊な構造にも「仮定された他者」は大きな役割を果たす
5 化粧行動と対人恐怖心性の関連
5-1 対人恐怖心性とは
5-1-1 対人恐怖心性:社会不安障害とも言われ、対人 場面において耐え難い不安・緊張を抱くために、人 と関わることを恐れ、人の視線を気にする、動悸、 息切れといった症状が見られる
→化粧により、この症状を改善することが可能
5-2 対人恐怖傾向と化粧目的
5-2-1 対人恐怖傾向が低く、自己愛を有する者
a 化粧の効用を、自己をより魅力的に魅せるものと 積極的に捉えている
b 化粧することによって肯定的な気分が上昇すると 感じている
5-2-2 対人恐怖傾向が高い者
a 化粧の効用を、負の状態の自分を隠したり、目立 たなくしたりするためのものと捉えている
b 化粧をすることによって不安やイライラなどの否 定的気分が低下すると感じている →対人恐怖傾向の違いにより、化粧をする目的が異 なる
5-2-3 人により化粧目的が異なっていても、他者と のコミュニケーションを円滑にするための手段として化粧をしている、という点は共通している
6 魅力発揮メイクによる初対面の相手への興味・ 関心の喚起
6-1 魅力発揮メイク:その人の顔立ちや肌の色を活 かすアイテムやカラーを使用し、本人のなりたいイメージに近づけ魅力を引き出すメイク
6-1-1 今回の調査での魅力発揮メイク
a 肌の色ムラをなくす
b 血色を感じるフェイスカラーのしよう
c 眉は左右対称に描く →相手に不安感を与えないようなメイク
6-2 魅力発揮メイクは初対面の相手の興味・関心を
喚起し、ポジティブな効果を発生させやすい効果を 確認
6-3 調査方法
6-3-1 2 パターンのメイクによって初対面の相手が それぞれどのような感情の変化を起こすのかを調査
6-3-2評価対象者をX(魅力発揮メイク群)とY(自 己流メイク群)にわける
a メイクパターン1「自己流メイク」:普段自分自身 で行っているパターン化されたメイク
b メイクパターン2「魅力発揮メイク」:その人の 顔立ちや肌の色を活かしながら自身のなりたいイメ ージに近づけるメイク
6-3-3 2 パターンのメイクの差は伏せたまま評価者 にランダムに対面し自己紹介を実施
6-3-4 X、Y が実験室に入室してから評価者の対面に 着席するまでの評価者の表情に着目 ←自己紹介の内容による感情変化の影響を極力排除 するため
6-3-5 評価者が X、Y と対面した際の様子を表情解 析技術で解析
a 表情解析技術:顔の筋肉の動きから、その人がど のような感情を抱いているのかを分類する学問がベ ースになっている評価方法
6-3-6 評価者が X、Y1名ごとにどのような印象を受 け、どんな感情が生まれたかを主観的感情評価(VAS 法)にて解析
a 主観的感情評価:ある感情について、100mm の線 の左端を「全くない」、右端を「これ以上ないレベ ル」とした場合」、その瞬間における自身の該当感 情の程度を表すところに印をつけてもらう評価方法
6-4 評価対象者と評価者
6-4-1 どちらも週に 5 日以上メイクをしている女性 8名
6-5 結果
6-5-1 表情解析では、自己流メイクに比べ、魅力発揮 メイクは入室・着席フェーズの中で評価者に覚醒レ ベルが高まる傾向が認められた →魅力発揮メイクは初対面の相手に対して「自身へ の興味・関心を喚起する一助となっている」可能性 が指摘できる
6-5-2 魅力発揮メイク群と自己流メイク群との間で 評価者の感情の発生に差が認められた →魅力発揮メイクは初対面の相手にポジティブな感 情を抱かせるだけでなく、ネガティブな感情の発生 を抑制する効果があることを確認
6-6 考察
6-6-1 メイクは初対面のコミュニケーションで相手 に自身への興味を持たせ、さらにポジティブな感情 を想起させる →より円滑な対人コミュニケーションが図れる可能 性を新たに見出した
7 ネイルとメンタルヘルスの関係性
7-1 化粧などの美容を通じてメンタルヘルスの予防 的なケアが可能
7-1-1 化粧の心理的効果の特徴
a スキンケア:自分への関心(私的自意識)を高め る・リラックス
b メイク:他者への関心(公的自意識)を高める・ 気分を高揚させる作用
7-1-2 スキンケア→メイクのステップ
a 自分に対する関心を高めなければ、他者への関心 も高まらないことを示唆する
b ネイルをする前に爪を綺麗にファイリングするこ とも同様
7-2 セルフネイル特有の動きによる脳の活性化 7-2-1 非利き手を使う行為
a メイクは利き手だけで成り立つが、ネイルは両手 を塗るために非利き手を使用する →普段使われていない部分の脳の血流が活性化
b 脳の健康は心のケアである →セルフネイルはメンタルヘルス向上に効果あり
7-3 サロンで施術を受けるネイル
7-3-1 ネイリストに手元にケアしてもらう行為は緊 張状態をリラックスへ導く手段として高い効果があ る
a 脱感作:顔を触られることに抵抗のある人に対して、手→腕→肩→首→顔の順に触れていくことで緊張を和らげる方法
b ちょうど良い距離感が保たれつつ緊張感がほぐれてリラックスできる
7-4 ネイルの効果
a セルフネイルはメンタルヘルス向上に効果があり、 認知症などの予防にも繋がる
b サロンでのネイルは緊張状態をリラックスへ導く →ネイルによるメンタルヘルス向上やリラックス効果は病気の予防やコミュニケーション能力の向上に繋がる
8 まとめ
8-1 化粧は他者のために社会的自己を構築するもの
8-1-1 化粧はその人のアイデンティティ及びそれに 付随して伝達される情報を補完するもの
8-1-2 初対面の相手には、比較的入手しやすい相手の 外見的魅力の評価をもとに表面的な印象の形成や内 面的特徴の推測を行う
8-1-3 化粧をする際は「仮定された他者」(=これま での経験により形成された自分自身を見ている自分 )を想定している →他者との交流を促進し、コミュニケーションを活 発化させる手段である
8-2 普段化粧をしている人ほど「化粧をしていると きは、人に対して積極的になれる」という研究結果 →化粧をしないと他人との距離が離れる
8-3 環境との関係による TPO をわきまえた化粧 →日本人によく用いられるナチュラルメイクは、横 並び意識の強い文化の日本において最も適した方法
8-4 化粧により円滑な対人コミュニケーションが可 能
8-4-1 メイクは初対面のコミュニケーションで相手 に自身への興味を持たせ、さらにポジティブな感情 を想起させる
8-4-2 ネイルによるメンタルヘルス向上やリラック ス効果は病気の予防やコミュニケーション能力の向 上に繋がる