担当:きあ
1.ジェンダー
1-1ジェンダーとは
1-1-1ジェンダー:社会的・文化的性差
←生物学的な性差に付加された社会的・文化的性差
a生物学的な性差:人間が誕生し、一週間以内に役所に提出した体の生物としての性別、生殖機能の違い
b社会的・文化的性差:「男性/女性だから」「こうあるべきだ」と社会や文化から規定・表現・体現されるもの
例)服装、髪型、言葉遣い、職業、家庭や職場での役割・責任、人の在り方、考え方、コミュニケーション方法
1-2 ジェンダーに関する用語
1-2-1ジェンダーレス
aジェンダー(社会的・文化的性差)をなくすこと
1-2-2ジェンダーフリー
a性によって社会的・文化的差別を受けないこと
1-2-3ジェンダーギャップ指数
aジェンダーフリーの度合いを測ることができる世界各国の男女格差を数値化したもの
1-2-4 2023年, ジェンダーギャップ指数, スイス非営利財団「世界経済フォーラム」
← 0が完全不平等、1が完全平等
a日本:0.647(125位/146か国)
←「教育(識字率・就学率)」は0.997、「健康(出生児・健康寿命)」は0.973で、世界上位である
⇔「政治(国会議員・官僚・行政府長の在任年数)」は0.057、「経済(労働参加率・同一労働における賃金・推定勤労所得・管理的職業従事者・専門技術者)」は0.561で低い
→総じた結果0.647である
1-2-5ジェンダー平等
a性別による社会的・文化的制限を受けず、平等に機会・権利・責任が発揮できるようにすること
b持続可能な開発目標(SDGs)の目標5である
2.人を悩ませるジェンダー意識とコンテンツの関係
2-1広告で炎上しやすいトピック
2-1-1多くの人々が関心を持つトピック
=自分の身体に関わること
例)ジェンダー・ルッキズム・人種・食品・化粧品関係
←人のコンプレックス・悩みに直結する話題
2-2広告は見たい人だけが見るものではない
2-2-1ふとした瞬間に否応なく視界・耳に入ってくる
a電車・道路・メディア・インターネット等で触れる
b数秒・数分で強烈な印象を与えることができるメリットがデメリットにもなり得る
←どの世代の、どんなバックボーンを持った人が、どんな状況で、誰と広告に触れるか分からない
c偏りがあり、コア層向けな広告は受け入れられにくい
2-2-2対して映画・ドラマ漫画・アニメ・本等の作品は比較的見たい人が見るものである
例)漫画の実写版を批判するのは、その漫画のファンに限定される
a偏った内容や、コア・マニア向けな内容でも芸術として、演出として受け入れられやすい
例)暴力描写・残酷描写・性描写を含む映画がPG付き・R指定付きで公開されている
2-3ジェンダーステレオタイプ、アンコンシャス・バイアスは我々の生活、習慣に深く浸透している
2-3-1ジェンダーステレオタイプ:社会的や文化的に浸透している性別に関する固定概念・思い込み
2-3-2アンコンシャス・バイアス:無意識の偏見のこと
2-3-3ジェンダーの壁の撤廃の仕方は解釈によって様々な方法がある
例)男女による差自体をなくす、男女の差から生まれる差別をなくす、性別を分類しない
←全ての概念を1つにすることが必ず良いとは限らない
2-3-4生物学的性差と社会的・文化的性差の両方を同時に撤廃すると問題が起こる
←男女の更衣室を一緒にできないように
a生物学的性差とジェンダーによって様々な法・システム・慣習・暗黙の認識ができている
例)男女別トイレ、婚姻、男子=くん・女子=さん、育児介護は女性の仕事
→ジェンダーの壁撤廃することと、生物学的性差上分けた方が良いとされることの板挟みが課題
2-3-5事例:ジェンダーレストイレ
aジェンダーレストイレ:男性・女性といった性別に関わらず使用できるトイレ
b新宿の東急歌舞伎町タワーに2023年に設置されたジェンダーレストイレが4カ月で廃止になった
c廃止の理由:「犯罪の温床になる」「安心して使用できない」「怖い」等の抗議が殺到したため
d男女別のトイレだけでなく、誰でも使えるトイレを求めるニーズがあったのは事実
例)ジェンダーを気にせず入れるトイレ、父と幼い娘が一緒に入れるトイレ、介護が必要な母と息子が一緒に入れるトイレが欲しい
dトイレが犯罪の温床であり、トイレで男女を混ぜるのは危険である、と懸念されているのも事実
←トイレは監視性が低く、個室内で何をしているか分からないため犯罪(性犯罪、盗撮、窃盗)が起こりやすい
eジェンダーレストイレが話題になる一方、トイレのゾーニングの重要性もたびたび話題になっている
fゾーニングされたトイレ:男女のトイレそれぞれの入り口が離れており、互いが入りにくい構造のトイレ
2-3-6 この事例が表すこと
a生物学的性差による制度と、ジェンダーによる性差の境目、線引きの難しさ
bみんなで使えることでのリスクを取るか、区分けしゾーニングすることでのリスク回避を取るか
←ジェンダー平等を目指すうえで重要な観点
2-4女性を悩ませるジェンダー意識
2-4-1「女性らしさ」
a女の子が産まれたらピンクのものを与える
b女子力
c女性らしい言葉遣い
←おしとやかで丁寧な言葉遣い(「お前」「旨い」等は使わない)
d女性らしい体
←この表現により、たびたび炎上が起こっている
2-4-2事例1:アツギ, 2020年11月2日(月), Twitterキャンペーンの炎上
←女性がターゲットのタイツメーカーが購買層へのアプローチの失敗により炎上
aタイツの日に合わせ、「#ラブタイツ」キャンペーンを行い、30人のイラストレーターに依頼
→製品着用イメージイラストを描いてもらう
→企業アカウントがTwitterでリツイートする形で訴求
bタイツをテーマにした萌え絵(短いスカート、スカートをめくる等の描写があった)が複数投稿される
cそれに対し企業アカウントが「かわいくて悶える」旨のコメントをし炎上
d萌え絵:日本の漫画・アニメ作品特有の質感で描かれた10代位の少女の絵で、特に見る者に萌え(強い愛着・欲望)を感じさせるような作品
2-4-3事例2:「月曜日のたわわ」, 2022年4月4日(月), 日本経済新聞朝刊の炎上
←新聞とマニア向けコンテンツ広告の相性の悪さで炎上
注) 広告が炎上したのであり作品が炎上したのではない
aコピー:「今週も、素敵な一週間になりますように。」
b「月曜日のたわわ」:月曜日の朝が憂鬱な社会人諸兄に向けて、豊満な体型をした女子によって癒しと活力を与える短編イラストアニメーション作品
c人によっては見たくない表現である可能性があるコンテンツの広告を新聞という堅く公式的なイメージのあるメディアが掲載したことに対し意見が集まった
2-4-4事例3:オタク向けマッチングアプリ「オタ恋」,
~2023年現在, X掲載広告
←AIが生成したと思われるオタクカップルのストリートスナップ風の画像・映像が使われた広告
体形描写に特徴があるが炎上せず面白いと受け取られた
2-4-5上記3つの事例が表すこと
aインターネット文化(萌え絵等)と広告表現、マニア・コアファン向け作品と広告媒体選定の難しさ
b見たくない権利を広告表現がどこまで尊重するか
2-4-6「女性なのに○○」
←「女性なのに」という枕詞が女性を悩ませる
a女性なのに仕事を頑張っている(キャリアウーマン)
b女性なのに理系(リケジョ)
c女性なのに少年野球チームにいる
2-4-7事例1:芝浦工業大学, 2022年3月8日(火), 朝日新聞 東京本社版朝刊掲載
a国際女性デーに、女性の理工系分野への進出増加を願う意見広告
bコピー:「男は理系。女は文系。お母さん、お父さん、そんな「思い込み」を持ってはいませんか。以下略」
2-4-8事例2:エイブル, 2021年1月21日(木), 朝日新聞朝刊掲載
aアメリカで女性初の副大統領(カマラ・ハリス氏)が誕生するのを受け、女性の社会進出の拡大を訴えた広告
bコピー:「「女性初」が、ニュースなんかじゃなくなる日まで。以下略」
2-4-9上記2つの事例が表すこと
a事例1の芝浦工業大学の広告を、日本のジェンダーギャップ指数(1-2-4)で考えると「教育」の分野に当たる
←日本は「教育」分野では平等に向けた活動の結果が既
に出ており、高水準の男女平等が叶っている
→この高等教育以上の理系文系による男女差の偏見は取り組むハードルが高くはないのではないか
b事例2のエイブルの広告を、日本のジェンダーギャップ指数(1-2-4)で考えると「政治」「経済」の分野に当たる
←日本は「政治」「経済」分野において、男女平等が叶っているとはいえないギャップ指数が出ている
→ジェンダー平等に向けて、日本が今後さらなる取り組みが必要な分野である
2-4-10「女性としての役割」
a女性は職場の華
b女性は化粧をして常に綺麗にいるべきだ
c女性が家事をする
2-4-11「母親らしさ」
a三歳児神話
←子どもが3歳になるまで、母親は育児に専念すべきであり、そうしないと子どもの成長に悪影響を及ぼす
2-5男性を悩ませるジェンダー意識
2-5-1「男性らしさ」
a男の子が産まれたら青いものを与える
bマッチョイムズ
←身体的、精神的な男性らしさを重視すること
c男性は人前で泣かない
d男の子なのに人形遊びが好きなんて
2-5-2事例1:ジェンダーレスネームの流行
a「2023年生まれの子供の名前調査」,2023年12月4日, 明治安田生命
b名前の表記ベスト10(男の子)
c第1位:碧、第2位:陽翔・暖、第4位:律、第5位:蒼、第6位:颯真、第7位:蓮、第8位:凪・湊・湊斗
d名前の読み方ベスト10(男の子)
e第1位:はると、第2位:みなと、第3位:ゆいと、第4位:あおと・りく、第6位:そうた、第7位:そら、第8位:あおい、第9位:そう、第10位:はるき
f名前の流行は今、ジェンダーレスである
g昭和初期:「昭」の漢字が増加
h戦時中:「勇」「勝」さんの増加
i昭和:「博」「茂」「誠」「大輔」さんの増加
j平成:「翔太」「拓也」「健太」「大輝」「大翔」「蓮」「悠真」「蒼」さんの増加
2-5-3事例2:『ひろがるスカイ!プリキュア』
a作者:東映アニメーション, 放送期間:2023年
bシリーズ20年の歴史で男の子プリキュアのレギュラー出演は初めて
cプリキュア4人のうち1人が男の子キャラクターのキュアウィングが登場している
dプリキュア=女児の見るもの、戦隊もの・仮面ライダー=男児の見るものというイメージからの脱却
eプリキュアはダイバーシティやジェンダー観、個性の尊重等、新たな時代の価値観を積極的に取り入れている
f「プリキュアシリーズ」がジェンダー課題に取り組むことの意義・影響力は大きい
g「プリキュアシリーズ」は幼い子ども以外の視聴者層も厚く、大人も視聴しているため
例)子を持つ親、プリキュアファンの男女
h関東地区でプリキュアは何人が見ているか
i2019年,現代ビジネス
j 4~12歳の男女:240,804人
k 13~19歳の男女:15,462人
l 20歳~の男性:234,231人
m 20歳~の女性:335,870人
2-5-4上記2つの事例が表すこと
a産まれてきた子にジェンダーレスネームをつけたり、性別に関わらずプリキュアを見ることができる環境・価値観を提供したりするのは親である
→そのようなジェンダー平等の視点を持った親が増えれば、子どももジェンダーについてフラットな価値観を持ちやすいと考えられる
b「教育」分野でジェンダー平等の取り組みを行うことは、子どもの価値観形成の段階で偏見のない価値観を教えることができるため効果的である
2-5-5「男性としての役割」
a男性は女性に奢るべきだ
b男性は女性というか弱い存在を守らなければならない
2-5-6「父親らしさ」
a男性は結婚して家庭を持ってこそ一人前だ
2-5-7男性への偏見
aセクハラ・パワハラ・DV・ストーカー・痴漢・性犯罪等の加害者は男性で被害者は女性だという偏見、イメージが根強い
⇔男性の被害者は数値的には少数であるが、被害に遭うことは往々にしてある
b男性の被害者が少数であるために被害を周りに理解してもらえない悩みを抱える男性がいる
例)「被害に遭っても周りに信じてもらえない」、「カミングアウトが難しい」、「痴漢を相談したが触ってもらえて良かったじゃんといわれたことがある」
2-5-8 NHK“性暴力”実態調査アンケート
←2023年5月,「職場の関係者から性暴力被害に遭った」と回答した6,172件の声, 職場での性暴力被害
a加害者の性別 男性93%、女性0.3%、男女とも6.0%、分からない・覚えていない0.1%
b被害者の性別 女性91.7%、 Xジェンダー5.6%、男性0.7%、その他・答えたくない1.5%
←Xジェンダー:性自認が男性・女性にはっきり当てはまらない人
2-5-9事例:男性専用車両の運行
a都電荒川線の三ノ輪橋から早稲田区間で男性専用車両が期間限定運行されたイベント
b11月19日の国際男性デーを記念して11月18日にNPO日本弱者男性センターが行った
2-5-10通勤に関する意識調査, ビッグローブ, 男女400人ずつ, 2017年8月調査
aあなたは「男性専用車両」の導入を希望しますか、という質問に対して、希望する人の割合
b全体:53.8%、女性:57.8%、d男性:49.8%
2-5-11この事例が表すこと
a性に関する被害については女性が被害者になることが多いのは事実であるが、男性のみが加害者だという偏見に拍車をかけるような広告表現は避けるべきである
b被害者の少数派の性に光を当てることは重要である
c男性専用車両を望まない人は痴漢冤罪を容認しているわけではない
d女性専用車に乗らない女性は痴漢されても良いと思っているわけはない
eジェンダートイレと同じく、みんなで使えることのリスクを取るか、区分けしゾーニングすることによるリスク回避を取るか
←ジェンダー平等を目指すうえで重要な観点
2-5-12性別役割分業
←男は仕事、女は家庭
a結婚したら男性が一家の大黒柱として稼いでくるのが役割で、女性は家庭を守るのが役割
2-5-13共働き世帯の増加により、性別役割分業からの脱却が急がれている
←パートナーの2人が、2人で稼ぎ、家庭を守る
2-5-14 2012年, 子ども・子育てビジョンに係る点検・評価のための指標調査 世帯の就業状況
a共働き世帯:51.0%、専業主婦世帯:37.6%、夫婦とも就業していない世帯:3.1%、母子家庭:4.1%、父子家庭:2.2%、専業主夫世帯:1.8%、その他:0.1%
2-5-15男性の仕事
a男性保育士・介護士・キャビンアテンダント等の増加
b保母さん→保育士、スチュワーデス→キャビンアテンダントへの呼称変更
2-5-11事例1:漫画『家政夫のナギサさん』(ドラマ化もした)
a作者:四ツ原フリコ、発表期間:2016-2020年
bあらすじ:家事の苦手なOLと、その家政夫の男性がぶつかり合いながらも仲を深め、プロポーズをし、同棲生活を始める
c若いキャリアウーマンの女性を年上男性が支える構図を描いた
2-5-16家事使用人の実態把握のためのアンケート調査
←2023年,独立行政法人労働政策研究・研修機構
a家政婦(夫)の属性
b女性:98.8%
c男性:0.6%
2-5-12事例2:『逃げるは恥だが役に立つ』
a作者:海野なつみ, 発表期間:(漫画)2012-2017年、(ドラマ)2016年 スペシャル2021年
b家事代行女性と雇用主の男性契約結婚が、本当の愛に変わっていくまでを描いている
c全国平均視聴率がTBS同枠最高平均視聴率の14.5%
d最終回視聴率が火曜ドラマ史上初の20%超え
e「恋ダンス」「逃げ恥ロス」「ムズキュン」ブーム等ドラマが社会現象になった
f放送後の若い女性の家事代行サービスへの応募が前年の2倍になった
g家事代行スタッフという見えにくい職業に光が当たった
←ドラマのような家事代行スタッフと雇用主のロマンスが現実で起こるかどうかはさておき
2-5-13上記2つの事例が表すこと
a多数派ばかりが見えやすく、光が当たりにくく実態が分かりにくい人たちや、少数派な人たちをあえて描くことの意義は大きい
←主夫・男性の家政夫を描いたことにより、現代社会の少数派に対する認知・理解が広まることが期待できるため
←『逃げ恥』効果のように
bコンテンツがきっかけとなり、特定の職業やジェンダーに対する思い込み・先入観・偏見が緩和することが可能である