担当:さな
1.聖地巡礼
1-1 聖地巡礼とは
1-1-1 アニメやゲーム、漫画、ライトノベル等、オタク系文化のコンテンツ作品の背景として描かれた場所を訪ねる行為
a 実写映画やドラマとは全く別物として受け止められており、実写ではロケ地訪問等の用語で表される
←実写であればロケ地は実在するという推定が働くのに対し、アニメや漫画は架空の世界であるという前提が働くことが大きな違い
b コンテンツのファンにとって思い入れの強い場所を聖地とし、そこを訪ねるという行動様式から聖地巡礼と呼ばれている
c 宗教的な用語が当てられるものの、特定の宗教とは関係がない
聖地:特定の宗教における本山・本拠地・拠点となる寺院・教会・神社のある場所
←自身のアイデンティティに強く関係している人にとっては自分の精神的な中心に関わり、宗教にも劣らない聖地となっている場合もある
Ex)ガールズ&パンツァー
← 茨城県東茨城郡大洗町が聖地
1-2 舞台探訪アーカイブ
1-2-1 マンガ、アニメ、ゲーム等に登場する舞台を実際に訪問する記事を収集したデータベース
a 場所を特定することが可能な背景描写があるものが収載対象
b 1937の作品の聖地が集められている(2021年12月5日現在)
1-3 現在、聖地のある作品が多い理由
1-3-1 視聴者が日常生活で過ごしている風景を描く方が、受け入れられやすい
1-3-2 アニメの制作に関する事情
a 日常的な風景が登場する作品が増えた
b 現実の風景を元に背景を制作することが効率的な手法となる
→アニメの制作のペースが早まっている
→ 日常的な風景が登場するアニメが数多く放映され、番組改変のペースが早いと背景画が多数必要
2.アニメの非現実性から現実性への転換
2-1 アニメの非現実性
2-1-1 初期の頃のアニメは非現実的な内容ばかりで、現実とは乖離しており、聖地ができる余地はなかった
2-1-2 モグラのアバンチュール(1958)
a 日本最古のテレビアニメ
b 原作:鷲角博
c アニメーション制作:日本テレビ放送網
d モグラが火星に行って火星人と戦い、その後に地球へと墜落してしまうという夢を見ていたというストーリー
2-1-3 白蛇伝(1958)
a 日本における初のカラー長編アニメ映画
b アニメーション制作:東映動画
c 中国の有名な昔話を素材にしたフィクション
2-1-4 鉄腕アトム(1963)
a 日本で最初のテレビアニメシリーズ
b 原作:手塚治虫
c アニメーション制作:虫プロダクション
d 近未来を舞台にしたSF作品
→現実の場所とは無関係
2-1-5 高畑勲の作品、スタジオジブリの作品に焦点を絞る
2-1-6 太陽の王子ホルスの冒険(1968)
a アニメーション制作:東映動画
b 監督:高畑勲(初監督作品)
c 場面設定、美術設定:宮崎駿
d さむい北国のとおいむかしの物語で、現実世界との接続は弱い
2-1-7 パンダコパンダ(1972)
a アニメーション制作:Aプロダクション
b 監督:高畑勲、
c 脚本、原案:宮崎駿
d 一人で暮らすことになった少女と話すことができるパンダの父子が一緒に暮らし始める
→動物という登場人物からして、虚構性が強い
2-1-8 制作者にとって、アニメは虚構の世界を描き出すものという認識が強く、実際の場所を参照することは行われていない
2-2 アニメの現実性
2-2-1 アルプスの少女ハイジ(1974)
a アニメーション制作:ズイヨー映像
b 原作:ヨハンナ・スピリ
c 演出:高畑勲
d 場面設定、画面構成:宮崎駿
e 両親を亡くしたハイジが偏屈な祖父に預けられながらも、雄大な自然や優しい人々と触れ合う中で様々なことを学び、成長していく
f 朝日新聞(2011)
高畑:『ハイジ』にはアニメでしか描けないような飛躍も誇張もないと思った。プロデューサーと初めて顔合わせした席で、実写でできる作品をなぜアニメでやるのかとしつこく問いつめたんです。
→現実的な空間をアニメで描くことは、必要のないことだと思われていた
g テレビ映えするアクションはない物語で、視聴者を飽きさせないために、日常生活を丁寧に綿密に描くことにする
→ 当時アニメーション制作では画期的であった現地ロケハンを行い、実際の風景をアニメに取り込むことにより「ハイジ」は写実性を帯びることになる
h アキバ総研(2019)
→ 杉山佳寿子(ハイジの声優)が後年、スイスへ行った時の話
← 現地の運転手がハイジはスイスで作られたものだと譲らなかった
← 杉山が日本で作られたと反論した時の運転手の言葉
そんなはずはない。なぜなら作品中に出てくる家々の紋章が実在のものだからだ。あれが描けるのはスイスの人だけだ。
2-2-2 アニメの空間を現実世界に近づける試みはその後も他の作品へと引き継がれ、その営みは広まっていくことになる
a 母をたずねて三千里(1976)
→ アニメーション制作:フジテレビ・日本アニメーション
→ 原作:エドモンド・デ・アミースチ
→ 監督:高畑勲
→ 場面設定:宮崎駿
→ イタリアのジェノヴァに住んでいる主人公が、アルゼンチンへと出稼ぎに行ったまま音信不通となった母を探す旅に出る
← ジェノヴァの街並みにある店舗の看板が現実感を漂わせる
b じゃりん子チエ(1981)
→アニメーション制作:東京ムービー新社
→原作:はるき悦巳
→総監督:高畑勲
→仕事をしない父に代わり、自分でホルモン焼き屋を切り盛りする少女と、彼女を取り巻く個性豊かな人々の様子を描く
→大阪市頓馬区西萩が舞台
←実際に存在する地名ではないが、作中に南海電車や通天閣が頻繁に描写されている
c 火垂るの墓(1988)
→アニメーション制作:スタジオジブリ
→原作:野坂昭如
→監督、脚本:高畑勲
→ 戦争孤児となった少年と幼い少女が懸命に生きようとする姿を描く
→兵庫県神戸市と西宮市近郊が舞台
2-2-3 非現実から現実への流れは物語の舞台だけではなく、宮崎駿作品のヒロインにも表れている
2-2-4 風の谷のナウシカ(1984)
a ナウシカ
→ 勇敢な族長の娘
b クシャナ
→ 王女様
2-2-5 天空の城ラピュタ(1986)
a シータ
→ 王族の末裔
2-2-6 となりのトトロ(1988)
a サツキ
b メイ
→ 引っ越してきた姉妹
2-2-7 魔女の宅急便(1989)
a キキ
→ 独り立ちをして知らない街で奮闘する新米魔女
2-2-8 主観的な話になるが、現実的で親しみやすくなっているのではないか
2-2-9 耳をすませば(1995)
a アニメーション制作:スタジオジブリ
b 監督:近藤喜文
c 脚本:宮崎駿
d 主人公の少女は特殊能力を有しているわけではなく、団地暮らしの平凡な家庭に育っている
e 公式の設定で、舞台は聖蹟桜ヶ丘となっており、時間軸も当時のもの
f 雑誌「アニメージュ」(1995)、大石玄(2020)から孫引き
『天空の城ラピュタ』『魔女の宅急便』は架空の世界を舞台にした等身大の少年少女の物語だった。一方、『紅の豚』や『平成狸合戦ぽんぽこ』は現実に即した世界を舞台にしながらも主人公は空想の存在だった。そして、95年夏。ジブリの最新作『耳をすませば』では現在(いま)を生きるボクらの物語が紡がれようとしている――。
3.聖地巡礼の開始
3-1 聖地巡礼の正確な始まりはわからない
3-1-1 少なくともアルプスの少女ハイジの時代には、聖地巡礼ができる作品はあったと推測できるが、実際に行ったのかを確認することは不可能
a 確認できるものを探っていく
3-2 究極超人あ〜る(1991)
3-2-1 アニメーション制作:スタジオこあ
a 原作:ゆうきまさみ
b 高校を舞台に光画部(写真部)に属する生徒、OBたちとその周辺で起こる珍妙な出来事を描いた学園コメディ
3-2-2 OVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)で制作
OVA:家庭用ビデオ市場に向けて制作・販売されるアニメーション作品の総称
3-2-3 長野県飯島町田切駅が聖地
a 2018年7月「アニメ聖地巡礼発祥の地 記念碑」が建てられる
→実際に発祥の地かは定かではないが、聖地巡礼をしていた人がいたという確認にはなる
3-3 美少女戦士セーラームーン(1992)
3-3-1 アニメーション制作:東映動画
a 原作:竹内直子
b 星の守護を受けたセーラー戦士たちが、攻めてくる敵たちから地球を守り抜く様子を描く
c 麻布十番(東京都港区)が聖地
→ 作中に登場する「火川神社」は、実在する「氷川神社」をモデルとしている
3-4 天地無用!魎皇鬼(1992)
3-4-1 アニメーション制作:AIC
a 原作:梶島正樹、林宏樹
3-4-2 OVAで制作
a ひょんなきっかけから主人公が様々な事情で地球にやってきた宇宙人たちの騒動に巻き込まれていく様子を描く
3-4-3 岡山県浅口市が聖地
a 主人公の生家である「柾木神社」は実在する「太老神社」がモデル
3-5 聖地巡礼の語源
3-5-1 1990年代初頭には相当な数のアニメファンが舞台探訪を行っていたことが確認できる
3-5-2 「美少女戦士セーラームーン」と「天地無用!魎皇鬼」において神社が頻繁に登場する
a 元々聖地である神社を訪れるために、聖地巡礼と呼ばれるようになったと考えるのは妥当
3-6 パソコン通信が普及
パソコン通信:専用ソフトを使い、パソコンとホスト局のサーバとの間で、通信回路によりデータ通信を行う手法及びそれによるサービス
→インターネットが開かれたネットワークであるのに対して、参加会員の限られた閉じたネットワークである
3-6-1 PC-VAN(1986)
3-6-2 NIFTY-Serve(1987)
a 電子掲示板や電子メール、チャットが主なサービス
← 中でもSIGが目玉となっている
SIG(Special Interest Group):特定のテーマについて興味・関心のある人々の集まり、パソコン通信のネットワーク内のもの
← 聖地巡礼のコミュニティが形成
→ 聖地巡礼の出現と重なっており、パソコン通信の発達が大きな影響を与えていることがわかる
3-7 アニメ聖地の情報源
3-7-1 アニメ聖地巡礼の旅行情報源は、大きく分けて二種類ある
a 企業や自治体などが提供する情報
→旅行会社や宿泊施設、コンテンツを所有している企業、マスメディア・出版社等
b 巡礼者や当該地域の住人などの個人が発信する情報
→聖地巡礼者によるSNSやブログ、ホームページ
c パソコン通信が発達したことによって、bによって情報を得ることができるようになった
4.聖地巡礼の盛り上がり
4-1 全国紙調査
4-1-1 全国紙でアニメ等の舞台を訪ねるという意味での「聖地巡礼」が初出したものを探す
a 出てくるアニメの名前を調べる
4-1-2 日経プラスワン:2005年10月8日「『あの場所』巡り――熱烈ファン舞台を実感、アニメ・TV番組でも(はやりを読む)」
a お願い☆ティーチャー(2002年)と お願い☆ツインズ(2003年)
→アニメーション制作:バンダイビジュアル
→ 原作:Please!
→ 長野県大町市木崎湖が聖地
b 朝霧の巫女(2002年)
→ アニメーション制作:カオスプロジェクト、ガンジス
→原作:宇河弘樹
→ 広島県三次市が聖地
4-1-3 朝日新聞:2008年7月26日「(土曜フォーカス)アニメの聖地、巡礼中 埼玉・鷲宮、富山・城端」
a らき☆すた(2007)
→アニメーション制作:京都アニメーション
→原作:美水かがみ
→埼玉県久喜市鷲宮町が聖地
b true tears(2008)
→アニメーション制作:P.A.WORKS
→原作:La’cryma(コンピューターゲームメーカー)
→富山県南砺市が聖地
c 朝霧の巫女(2002年)
4-1-4 毎日新聞:2008年9月4日「大糸線:入場券、人気です アニメファン、聖地巡礼——大町・木崎湖周辺/長野」
a お願い☆ティーチャー(2002年)とお願い☆ツインズ(2003年)
4-1-5 読売新聞:2008年11月13日「[ひと紀行]木崎湖アニメのままに美しく=長野」
a お願い☆ティーチャー(2002年)とお願い☆ツインズ(2003年)
4-2 調査からわかること
4-2-1 全国紙では2005年〜2008年に聖地巡礼が初出している
a 2008年を境に聖地巡礼という言葉が世の中に出回った
→2008年には聖地巡礼が確かな人気を得ている
b 各紙で初出して以降、継続的に聖地巡礼が記事になっている
→聖地巡礼が定着している
c 「お願い☆ティーチャー」「朝霧の巫女」が放送された2002年が、聖地巡礼盛り上がりの区切りとなる
4-3 写真撮影媒体の普及
4-3-1 デジタルカメラ
a 6万円台であれば安いと言われていたが、2000年代になって5万円を切る新製品が登場
b 普及率
→ 2002年、22.7%
→ 2004年、51.8%
4-3-2 カメラ付きケータイ電話
a 2000年J-フォン(現ソフトバンク)からJ-SH04が販売
→ カメラ付きケータイ電話の先駆け
b 同年auからパシャパが発売
→ ケータイの端子に接続して使う外付けカメラ
c 2001年ドコモから初のカメラ付きケータイが登場
5.聖地巡礼者
5-1 三種類の聖地巡礼者
5-1-1 開拓的聖地巡礼者
a アニメを視聴し、様々な証拠から推論を働かせて、聖地を発見する巡礼者
→ 背景に描きこまれたランドマークや地形、アニメ作品の原作での描写、原作者の出生地、地名や駅名を頼りに探す
5-1-2 追随型アニメ聖地巡礼者
a 開拓的聖地巡礼者が発見し、インターネット上に公開された情報を元に聖地巡礼を行う
5-1-3 2次的アニメ聖地巡礼者
a 情報をテレビやネットのニュースなどで知り、訪れる巡礼者
5-1-4 初期の頃は開拓的聖地巡礼者のみであったが、パソコン通信の発達で追随型アニメ聖地巡礼者が現れ、写真撮影媒体の普及、そして全国紙で取り上げられることで2次的アニメ聖地巡礼者が現れた
6.まとめ
6-1 現在、聖地のある作品が数多く存在している
6-2 初期のアニメは非現実的な作品がほとんどであったが、時代が経つにつれて現実性を帯びてきている
6-3 パソコン通信が発達するとともに、聖地巡礼が確認できる
6-4 写真撮影媒体が発達することで、聖地巡礼が盛り上がった