仙腸関節における閉鎖力について、個人的に新たな知見が見つかったので、報告します。
仙腸関節は、閉鎖位と閉鎖力の2つの概念によって機能を果たしていると周知されていると思われます。
閉鎖位というのは、仙腸関節が骨性に安定していること。
閉鎖力というのは、筋によって安定していること。と認識しています。
関節が機能する上では筋の作用が不可欠であり、この、筋の作用によって関節運動が行われることによって体を動かすことが可能になります。仙腸関節も同様で、仙骨と腸骨で作られる関節ですので、それぞれが個別に筋の作用によって動くことが可能であり、仙腸関節の動きそのものが身体運動へと波及することを意味しています。
仙腸関節においては、閉鎖力というのが筋による制御になりますので、この閉鎖力というのがいかにして機能し合っているのか?が大切になるのだと考えています。
いつだかの記事にも記載させて頂きましたが、仙骨のカウンターニューテーションは肛門挙筋のガイドによって機能し、グランディングが促されます。その結果、下腿の前傾が誘起され、ヒラメ筋が制御を担います。仙骨のカウンターニューテーションによって伸長された多裂筋は遠心性収縮をすることで仙骨~腰椎の安定性を担い、腸骨は仙骨の動きに相対的に腸骨筋の作用によって前傾をすることでカウンターを取ることで、仙骨によって引き起こされる関節モーメントを相殺させる力となり、骨盤帯周囲の安定性が獲得されます。腸骨筋の働きは大腰筋の伸長を誘起することによって収縮しやすい環境をもたらし、仙骨のカウンターニューテーションによって起こる関節モーメントおよび、腰椎の屈曲に対して拮抗することによって腰椎の安定性を獲得することができます。
以上が、一連の、私の今のところの仙骨を中心とした仙腸関節周囲の機能的解説です。
仙骨を中心として考えると、上下と前後に対する身体運動の解説になっていると思います。
今のところ、私の考えているPhysical coordinate systemのバイオメカニクスから考えると、身体運動のベースとなる前後緩衝系に関わっている動きになりますが、さらに高次な運動を要求するためには、左右平衡系とを組み合わせ、回旋推進系へと波及・統合する必要があります。
臨床で感じていた所は、確かに、先ほど解説した連動性が当てはまるのですが、いまいち不十分というか、パンチが効いていないような印象を持っていたことです。
以上で解説した肛門挙筋によるカウンターニューテーションは、その付着部および、筋のボリュームから、尾骨および下部仙椎と恥骨との間の張力発揮と関節運動を起こすことに留まってしまいます。より強力な閉鎖力およびカウンターニューテーションを引き起こすためには、梨状筋が働くことが必要です。梨状筋と言えば、股関節を診る上では重要だと周知されている筋肉ではあると思われますが、この梨状筋は、仙骨側への付着は、仙骨の前面というか、内面に付いています。筋の作用を考える時には、停止が起始に近づくというだけでなく、滑走説を考えると、両側性に引き付ける作用だということを忘れてはいけません。どちらかが優位に固定されているのか?というだけの違いなので、リバースアクションも考慮して考えなければなりません。股関節側が固定された状態での梨状筋の張力発揮は、仙骨のカウンターニューテーションを引き起こします。肛門挙筋に比べ、付着部が上方なことと、筋のボリュームが大きいことから、より強力なカウンターニューテーションを起こすこととなります。梨状筋の機能不全は、仙骨が浮き上がったような現象を認めますが、この状態は、いわゆるニューテーションしている状態となっており、閉鎖力とグランディングの低下を示唆しています。加えて、一側性の梨状筋の張力の変化は、仙骨を回旋させる要因となりますので、梨状筋は、仙骨に対する前後緩衝系をメインとして、回旋推進系(および左右平衡系)へ関与することとなります。
梨状筋は深層外旋六筋の一つですが、他の深層外旋六筋はどこに付着しているのか?というと、仙骨ではなく、坐骨周囲に付着しています。つまり、リバースアクションを考えると、坐骨の外転に主に関与していることがわかります。坐骨の外転は、立脚する際には必要な動きであり、重心の左右への移動だけでなく、坐骨の外転に伴って、骨盤底筋の横方向の浅・深会陰横筋の線維を主体とした遠心性収縮をもたらし、骨盤の左右方向の安定性に関与します。つまり、左右平衡系を中心に、回旋推進系に関与することとなります。
いわゆるコアユニットや閉鎖力を考える上で股関節が外せないのは、深層外旋六筋の梨状筋による仙骨のカウンターニューテーションの誘起とそれに伴う骨盤底の前後系の繊維の収縮および、深層外旋六筋の他の筋肉による坐骨の外転に拮抗する形での骨盤底の横方向の繊維の収縮が促されるためだと考えられます。つまり、深層外旋六筋を一塊として考えるのではなく、それぞれの筋や繊維によってアプローチの目的が違えば、体に作用させる方向性が違います。
仙腸関節は荷重と反力を統合する部位であります。そのため、荷重関節としては非常に重要であり、荷重と反力を抜きにして考えるのは難しいと思われます。
この関節は、凹凸はあるものの、ほぼ平面関節です。
荷重と反力がもろにかかるのにも関わらず、関節の向きがそれと並行というのも、不思議じゃありませんか?ふつう、上下方向に負荷がかかるのであれば、平面関節であればそれと垂直にした方が安定するのですが、そのような形態をとっていません。
だからこそ、自由度が高く、同じ関節内だけでそれぞれが関節モーメントを相殺することが可能な関節であり、重心の制御にもってこいなのではないのでしょうか。そして、荷重と反力がかかる方向に並行な関節の脆弱さと安定性および支持機構として靭帯が密になっているのだと考えます。
仙骨は前後緩衝系がメインですが、腸骨はというと、前後傾に起因する前後緩衝系、外内転に関与する左右平衡系、そして、それらが複合して動いた場合と、イン・アウトフレアの回旋推進系の3方向に密に関与してきます。股関節は3軸ですので、言うまでもありませんね。
つまり、仙骨と連動している下腿は、蝶番関節の変形として、もともとは一軸性の関節形態が変形した足関節の螺旋関節によって、前後緩衝系をメインとしており、股関節を構成している大腿骨・腸骨は、前後緩衝系だけでなく、左右平衡系と回旋推進系に関与するということになります。