⒎
⑴
吉田と諸太郎、二人。
吉「お前のせいで、信濃が怪我してしもうたやないか」
諸「シャケが白い皿で運ばれて行きましたね」
吉「救急車や!」
⑵
諸「あいつがまた来たら、吉田の素性が安世さんにばれる」
吉「…そやねん」
諸「ほな、吉田が死ぬんはどうやろ?」
吉「死んだらあかんやん!」
諸「ほんまじゃなくて、死ぬ芝居」
諸「チンピラと喧嘩して、拳銃で撃たれて死ぬことにする」
諸「吉田が死んだのを見たら、信濃も諦めて、『川』に帰るから」
吉「そんなん言うても、拳銃、どこにあんねん?」
諸「あるやん」
諸太郎がオモチャの拳銃を取り出す。
諸「俺がチンピラの役するわ」
吉「顔がばれてるやないか!」
諸「ウジウジ言うな!絶交するぞ!」
吉「友達みたいに言うな!(苦笑)」
諸「変装するから!」
諸太郎は帽子を取り、店の忘れ物のサングラスを掛け、
口の周りにたこ焼きソースを塗り、口髭代わりにする。
吉「衣装は?」
諸「チンピラの服が要るな」
諸「あと、吉田を死んだように見せる医者の役も要る」
諸「どこかに、チンピラと医者の服を持ってて、医者の役をやってくれる人、おらんかな?」
⑶
そこに、啓之が通り掛かる。
啓「嫌ですよ、医者の役なんて」
啓之はクリーニングの配達で、医者の服とチンピラの服を持っていく途中で、
結局、芝居を手伝うことになる。
⑷
諸太郎が演技プランを練る。
①信濃が登場すると、演技スタート
②諸太郎「吉本組や!覚悟せえ!」と信濃を殴る
③吉田「俺の舎弟に何するんや!」と諸太郎を殴る
④諸太郎「くそーっ!」と、拳銃を取り出し、吉田に向けて撃つ
⑤啓之がスマホで拳銃の発射音を出す
⑥吉田が倒れる
⑦啓之が登場→啓之「私は医者です」
⑧啓之が吉田の脈を測る→啓之「ご臨終です」
⑨信濃が諦めて、去る
というもの。
⑸
諸太郎は自分でプランを練ったものの、
練習する中で、幾つか不安も生まれたよう。
諸「俺、小1やけど、シャケに殴り掛かって大丈夫かな?」
吉「あいつは威勢だけやから、その点は大丈夫や!」
諸「突然登場して、一言目に『私は医者です』もおかしない?」
諸「そんなシーン、見たことある?(苦笑)」
吉「大丈夫や!言わん方が怪しまれる」
と、吉田が啓之を見る。
吉「ほぼ何もしてへんのに、汗だくやな!(苦笑)」
⑹
諸太郎の視界に信濃が入る。
諸「シャケ、もんてきた!」
信濃はまだ治療中で、
頭を包帯で巻き、ネットで固定している。
それが、シャケの皮のように見え、
諸「自分から寄せに行ってるやん!(苦笑)」
⑺
演技、スタート。
諸「吉本組や!覚悟せえ!」
と、諸太郎が信濃を殴る。
信濃が吹っ飛ぶ。
信「痛ーっ!」
諸「弱っ!…言うてた通りや。(苦笑)」
吉「俺の舎弟に何するんや!」
と、諸太郎を殴る。
諸「くそーっ!」
諸太郎が拳銃を取り出す。
信「兄貴、危ない!」
諸太郎と信濃が拳銃を奪い合う。
諸太郎が誤って、上空に向けて発射したフリをしてしまう。
啓之がスマホをタップし、『バーンッ!』という拳銃の発射音を出す。
このままでは不味いため、
追加で『キーン!キーン!キーン!』と弾が弾かれる音を出す。
(公園であるにもかかわらず…)
諸太郎が弾道を追うフリをし、
吉田が弾を喰らい、倒れる。
啓之が現れ、
啓「私は医者です」
吉田の脈を測り、
啓「ご臨終です」
信「兄貴、まさか死ぬなんて…(泣)」
信「一生、忘れません!(泣)」
信濃が去っていった。
吉田は起き上がり、信濃の去った方向を見て、
吉「何で上手く行ったんや?」
⑻
諸太郎が衣装を脱ぎ、小学一年生に戻る。
芝居に協力し終えた啓之は、クリーニングの配達に向かった。
⑴
吉田と諸太郎が二人で居ると、安世が悲鳴を上げながら現れる。
安「キャーッ!!」
吉「どうしたんですか!?」
安「ストーカーに追われてるんです!」
⑵
髪を七三分けにし、テカらせた、ストーカーの瀧見(瀧見信行)が現れる。
瀧「安世ちゃーん!」
吉「ストーカー行為は止めろ!」
瀧「違う!」
瀧「安世ちゃんの後を追ったり、」
瀧「安世ちゃんの出したゴミを漁ったり、」
瀧「安世ちゃんの郵便物を見ただけや!」
吉「それをストーカー行為って言うんや!」
⑶
吉田が瀧見に、
吉「安世さん、嫌がってるやろ!」
瀧「お前、誰や!?」
吉「…」
吉「安世さんの彼氏やっ!」
安「えっ?」
吉田が、瀧見に聞こえないように、諸太郎に対し、
吉「相手を騙す作戦やから!」
⑷
瀧見は勘が鋭いのか、吉田の行動を怪しく感じたのか、
瀧「嘘ついてるやろ!?」
瀧「それに、安世ちゃんの彼氏は僕や」
瀧「お前の方が僕より強かったら、安世ちゃんの彼氏と認めてやろう!」
瀧見が運動神経が鈍そうな動きで吉田を殴る。
吉田は殴り返さず、その場に倒れ、我慢する。
誰にも聞こえないような、小さな声で、
吉「俺は二度と手を出さんて、決めたんや!」
諸太郎は歯痒いようで、吉田に対して、
諸「やり返せよ、暴力王っ!」
※
補足。
瀧見さんが殴る場面について。
瀧見さんはヤクザ役の時は鋭いパンチを放っていて、
役柄上、運動神経の悪い動きをオーバーに演じていると思われます。
⑸
一方的に殴られる吉田を見ていられない諸太郎は、
ポケットから小さな器を取り出し、蓋を開け、瀧見に振り掛ける。
瀧「うわっ!、なんや!?」
諸「検尿」
瀧「汚っ!」
⑹
瀧見が安世を連れて行こうとすると、吉田が瀧見にしがみ付き、
瀧見が吉田を殴り倒す。
何度か繰り返すうち、瀧見が根負けする。
瀧「ここまでやられても、立ち向かってくる…ほんまの彼氏のようやな」
瀧「安世さんは諦める」
瀧「安世さん、幸せになってね」
瀧見が去っていった。
⑺
安「吉田さん、私のために…」
安世が吉田に抱きつく。
二人は良い雰囲気になるが、
ここで、諸太郎が二人の間に入り、吉田に抱きつく。
諸「吉田…」
吉「邪魔や!入ってくな!」
吉「めちゃくちゃ、ええとこやのに!」
諸「吉田、エッローッ!」
諸「エッチ、スケッチ、イブラヒモビッチ!」
吉「ワンタッチや!」
諸「吉田、古ーっ!」
諸「今は、イブラヒモビッチって言うんや」
吉「聞いたことないぞ!」
⑻
安世が吉田に感謝する。
安「吉田さん、ありがとうございます!」
安「あの、『彼氏』って…」
吉「あっ、あれは安世ちゃんを守るために、ストーカーを騙したんや」
安「本当に彼氏でも良かったのに…」
安「…えっ、私、何言うてんやろ?」
諸『本当に彼氏でも良かったのに…』
吉田が諸太郎に、
吉「そういう時だけ、子供になるなあ」
⑼
諸太郎が、安世に聞こえないように小声で、吉田に対し、
諸「吉田、告白した方がいい」
諸「今の感じやったら、行ける」
諸「告白や!」
吉「分かった!」
吉田が安世に告白しようとする。