12月22日木曜日。

面会時間は14時から。


私は14時ジャストに彼の病室へ入る。
彼は24時から絶食。
14時から絶飲食だった。

病室へ入るともう飲めない。

と、悲しそうに嘆く彼。
そして、お腹空いたー。
って、愚痴をこぼす。

いよいよやってくる手術に、彼は
どんな思いで立ち向かおうとしていたのだろう。

彼の手をギュッと握る。

暫くして、彼の両親が到着した。

4人でデイルームで話をした。

16時になり、彼は手術着に着替えた。


そこから、彼の病室で再び私たちは2人きり。
彼の両親は、医師から手術の説明を受けていた。


私は彼に問うた。

両親を呼んでこようか?
私は席を外してるよ。

彼は首を振る。

お前がここにいろ。
その方が安心できる。


今はその言葉がどれほど嬉しかったことか。

結局のところ、彼は両親を選ぶと
ずっと思っていた。


いやしかし、彼のご両親はきっと
私よりはるかに彼の側にいたかったんではないか?

私が出る幕ではない。

そんな思いはずっとあった。


彼女である私の優先順位はとても下だ。

医師は、彼の両親が到着すれば
彼の両親へ病状のことなど相談する。


当たり前だ。

ごく当たり前だ。


しかし、感じる虚しさを拭いさることはできなかった。




彼は言ってくれた。


お前さえいいなら、治療のため
両親のそばへ戻るときはついてこい。


でも、彼のご両親はどう思っているのだろう。
大切な一人息子と同棲している彼女。

大切な息子を奪った私は、邪魔な存在なのだろうか。


ずっと一緒にいたのに、彼に言われるまで
異変に何も気付かなかった私は最低だ。

彼のご両親は、そんな私に
ごめんね。と、ありがとう。をくりかえす。


ごめんなさい。

は、私のセリフだ。

こんな私を許してくださって

感謝しているのも、
私の方だ。


私は、謝罪もお礼も述べてもらっていいほど
なにも、していない。


手術の待合室に入り、ただじっと彼を待つ。
ふとテレビを、見ると
テニスの王子様の再放送であった。

懐かしい作品だ。

彼はテニスをしており、良く2人でテニスをした。
また、テニプリの映画のDVDを借りて
2人で見たりもした。


そんな感慨にふけりながら、電子書籍を
読み時間をつぶした。

手術は2時間かかった。

19時少し前、彼を3人で、出迎える。


彼の目には不思議な光景だったろう。


だって、彼のご両親と私が並んで彼を見下ろしているのだから。


病室に戻り、医師から告げられる。




悪性の可能性が、極めて高いでしょう。


術後の経過を、見るために
1週間後に外来。
検査結果は、約2週間後。
つまり、年明けに分かる。

転移が、見られなければ
再発防止のため、定期的な受診のみとのこと。

転移していた場合も、化学療法が効きやすい種類のがんのため、完治率が高いとの説明。


とても転移の早いがんなので。


さらさらと述べられる医師の言葉は
まるで、現実味がない。

けれど、これが現実というものである。



彼の今後を案ずる自分。
そして、決定打が打たれた後、
彼の側に自分はいて良いのだろうか。

拒絶されるのだろうか。

一抹の不安がよぎる。



術後、彼を1人残し
彼の両親と3人で夕食をとった。

20時。

面会終了時間となり、私たちは帰宅する。


明日は、12時から面会時間だ。

彼の要望は
ヒートテックとりんごだ。






帰宅後、彼からLINEが届く。


やっと、お水飲めたー

何通かやり取りするも、彼は私に甘えなかった。
ご両親とも、やりとりしているのだろう。


私の両親や友人からは
彼の身を案ずると共に私を心配する内容のメッセージが届く。

こうして、人との繋がりを感じて
また前を向こうと思える。



彼が私を選んでくれるなら、
側にいることを受け入れてくれるなら。

全力で支えよう。

力の限り、彼を愛そう。
大切にしよう。

どんな時も側にいたい。


1人で苦しまないで。
悲しまないで。

私にも、彼の辛さを背負わせて。



弱さを見せない彼の
固く閉ざされた心のドアは
私のノックに答えてくれるだろうか。

精一杯、ノックするから
何度も何度も呼ぶから


答えてください、素直なあなたで。