+ + ツキヨノデキゴト + +
Amebaでブログを始めよう!

それならわたしは 「妻」を 降りましょう。

私と彼が一緒に暮らし始めたのは、1995年の春でした。
 
そして 
2001年の春に、彼は夫になりました。

  
でも、結婚なんて
わたしには何の意味もありませんでした。
 
彼と私は、それまで6年間も ずっと一緒に暮らしていたから
結婚をして変わったことといえば
 
・私の苗字と
・左手に指輪が一本増えたこと
・ケイタイ電話の家族割引がきくことになったことと
 
だけでした。
 
 
何も変わるはずがありません。
彼は、彼です。ただの「好きな人」。
 
戸籍の上で「夫」になったとしても。
 
 
同じように
わたしも、「妻」になんてなりたいとは思いませんでした。

「妻」なんて何の意味もない。
 
 
「妻」なんて、
戸籍で縛られた家族だったり
子供がいれば、その母親だったり
○○家の嫁としての存在だったり

そんな風にしか思えなかった。
 
 
保険や車のコマーシャルや
ファミリーレストラン。
みんな「家族」のものばかり。
 
世の中がふたりに恋を認めてくれるのは「結婚式」のその日まで。
その後は、夫と妻としての生活がはじまります。
 
 
 
わたしと彼の結婚指輪は
ブルガリで買いました。 
大好きなブルガリで結婚指輪を買うなんて
私にはとても幸せなことのはずだったのに、
買った指輪は
きつかったり ゆるかったり ちっともしっくりしませんでした。
 
結婚指輪は、私には自分を縛る窮屈な存在でした。
そしてきっと「結婚」も。
 
 
「妻」なんてキライ。
愛されていない響きがするから。

私はいつまでも、彼のコイビトでいたかった。
世の中はそれを許さないのかもしれないけれど
一生、コイビトでいたかった。
 
 
なのに、「妻」になってしまいました。
 
 
 
そして「夫」にはコイビトができました。
 
 
 
夫のコイビトは、
夫へのメールに
「簡単に奥さんと別れたりしちゃダメです。
 彼氏彼女じゃなくて、結婚していて『妻』なんですからっ。」
そんな風に書いていました。
 

それじゃぁ、
私が「妻」でなく、ただの「彼女」だったら?
 
 
彼が私と別れないのは
わたしが「妻」だから?
 
 
ほんとうは、新しくできたコイビトの方がすきなのに
戸籍が、世間体が、倫理が、
それにストップをかけているのですか?
 
 
 

 

それなら私は
「妻」を降りましょう。
 

 
 
「妻」をやめたら
あなたの目に、わたしはどう映りますか?
 
 


夫がコイビトを持つ前の たぶん最後の思い出は…

今朝、満員の地下鉄の中
中吊り広告に「軽井沢特集」の雑誌を見つけました。


……

軽井沢には、去年の9月に
夫と出かけました


夫がコイビトを持っていることを知らなかったころのわたし
いいえ、夫がコイビトをもつ前のわたしたちでした


軽井沢旅行は、夫からわたしへのバースディプレゼントでした


チケットから宿泊先、すべて夫が手配しました
夫は そういう実務的なことは得意では ないはずなのに。


新幹線は、「グリーン席」にしてくれました


うっすらと霧のかかった9月の軽井沢には
もう夏の余韻は ありません


駅の近くで
ナビゲーションのついていない、小さなレンタカーを借りました。
いつも わたしが“わたしの役割がなくなっちゃう!”と、ナビゲーションシステムを嫌がるから。


予約しているホテルへ向かう途中
少しだけ夫は道に迷いました

わたしは、眠ってしまっていたようです


目を覚ますと、深い霧に覆われた森の小路を走っていました
 
「もう着くの?」と聞くと
「うーん。この辺りのはずなんだけど…
ごめんね由乃。もうすぐ着くからね」 と 夫は優しく答えました

わたしは地図を手にとって
ナビゲーションを手伝うことにしました


深い深い霧でした。
ほんの少し先さえも見えないくらい。


少し進むと、森が開け
薄緑色のカーペットみたいなものが一面に敷き詰められている場所に出ました


目を凝らして よく見ると
それは

大きな大きなキャベツ畑でした。
日本中のみんなで食べても食べきれないほどのキャベツ。

「うわーっ! ねぇ。キャベツだよ。すごいよっ。 見てっ!見てっ! いっぱいだよ!全部だよ!」


あんまりわたしが喜ぶので
夫はキャベツ畑の横に車をとめてくれました

わたしは、キャベツ畑の写真を
何枚も何枚も撮りました。

夫があきれて笑うほど


その夜は
森の中にある、小さなリゾートホテルに泊まりました。



夫が用意してくれた
わたしのための旅行。
それは、不器用な夫らしく、不手際に満ち溢れていたけれど。



おそらくこれが
夫がコイビトをもつ前の


夫とわたしの最後の楽しい思い出です。


……


地下鉄の中、
あのときの軽井沢が
本当のデキゴトだったのか分からなくなって
思わず目をつぶると

一面のキャベツ畑が くっきりと瞼の裏に見えました

キスも遊園地も夫とコイビトがしたことは なにもかも

夫にコイビトのことを
聞きました。
 
 
どんなコ?
 
キレイ?
 
やさしい?
 
 
夫は少し困って
 
「うーん。普通かな。中くらい。
 由乃とは、比べたこともないし、比べられないくらい由乃はキレイだよ。
 由乃は、優しいし、アタマだってかしこい。」
 
といいました。
 
 
そのコトバが
なんだかとても悔しくて
 

「あなたとあなたのコイビトが行った場所や 食べたものや したこと。
 そういうの、ぜんぶ、なにもかも。
 わたしは今後いっさい、あなたと一緒には しないから」
 
と宣言しました。 
 
 
夫は後悔すればいい。 
コイビトを得たかわりに 失ってしまったものを。
 
そんな風に思ったから。
 
 
 
その後
ひとりでゆっくりと考えてみたら
 
わたしは
今後いっさい
 
だいすきな遊園地にも
冬のイチバンのお楽しみのかに料理屋さんにも
夫とは行くことができず、
 
夫の会社の話題にふれることもできません。
 
バッティングセンターで、夫がほかのみんなよりもかっこよく見えて、ちょっと自慢だったりすることもできなくなるし
少しずつじょうずになっているわたしのバッティングの練習も、もうおしまい。
 
夫とコンビニエンスストアで500mlのジュースを買うことも
居酒屋さんでたのしくビールを飲むことも
銀座のティファニーで“あれが欲しいよ”と甘えることも
 
キス も
好き という言葉を聞くことも
 
 
なにもかも
 
なくしてしまうことに気がつきました。
 
 
 
 
 
 
今度はそれが哀しくなって
 
どうして わたしが全部なくさなければ いけないんだろう と
 
アタマにもきてしまって
 
 
 
やっぱり、どこもかしこも
好きもキスも なにもかも
わたしのほうが先だったんだから
 
ぜんぶ私のもの。
 
 
なんて、変な理屈で
自分を納得させようとしたのですが
 
 
 
それじゃぁ
本当に
遊園地に出かけることになったときや
かに料理屋さんへ連れて行ってもらえることになったときや
キスの時に
わたしは一体、どんな顔をすればいいのか 
 
今度はそれが、わからなくなってしまいました。
 
 
 
どこへ出かけても
どんなことをしていていも
今までと同じ「うれしい」が 
もう二度と ふたりの間に訪れることがないと知って
 
 
 

失ってしまったものの大きさに 気がついたのは
夫ではなく、わたしのほうでした。
 
 
 

夫のコイビトの声 #2

「おはようございます。(会社の名前)、担当野田です」
 
「あ、あのっ。おはようございます。◇◇といいます。主人がいつもおせわに…」
 
 
 
 
 
  あれっ? 今、担当野田 って?
 
 
  落ち着いて もう一度、アタマの中で彼女の声をリプレイします。
   <おはようございます。(会社の名前)、担当野田です>
   <担当野田です>
   <野田です>

    野田です… 
 
 
出たのは夫のコイビトでした。 
 
 
 
 
「えっと。あのっ。いつも、主人がお世話になっています。
 主人は、もう そちらに着いていますか?」
 
「あ。 お世話になっています。
 うーんっと。(ちょっと背伸びする感じの音がして) まだみたいですよ」
 
  
 
 
「えっと。 主人がケイタイを忘れてしまって
 届けてあげたほうがいいのかな と思って」
 
「そうですか。いつもなら、もうそろそろ来る頃なんですけど」
 
 
 
 
「うーん。じゃぁ、いいです。ケイタイ、置いていっちゃいます。
 わたしも会社行かなくちゃだから」
 
「そうですか。わかりました。
 そう、お伝えしますね」
 

 カチャン。
 
受話器を置き
深呼吸。
 
 
息をするのを忘れていました。
 
 
……
 
 
 
覗かなければよかった。
 
 
私の知らない
夫の世界。
 
夫のコイビトは
少し背伸びすると見える位置に夫の席があって
毎朝、何時ごろ来るのかと夫のことを待っていて
 
そんなことがわかりました。
 
 

 
夫とコイビトが共有する空気。
 
それは
苦しくて苦しくて 
わたしには入り込めないような
そんなチカラを持っていて。
 
 
わたしはそこで息をすることすら許されていないみたいでした。
 
 
 
夫のコイビトは
 
想像していたより
ゆっくり話す人でした
 
 
 
 
そして、想像していたより
柔らかな声でした
 
 
 
 

 
無邪気に何も考えていないような
 
とても落ち着いているような
 
 
 
ふしぎな感覚でした。

  
あの声が
夫のこのケイタイから夫の耳へと
心地よく聞こえてくるのでしょう。
 
その声を聞きたくて
夫は短縮ボタンを押すのでしょう。
 
 

  
 
電話なんて かけなければよかった。
 
 
 
 
 
 
 
知るほどに 苦しい世界。
 
 
海の底に沈んでいくみたいに。







夫のコイビトの声 #1

夫がケイタイを忘れて 出かけました。
 
……
 
 
わたしの仕事は雑誌の編集で
営業マンの夫よりも、遅めの出勤です。
 
夫を見送った後
わたしは
お化粧をし、スーツに着替え、指輪をはめて
 
さて、そろそろ出かけようかな と
冷めたコーヒーの残りを
ひとくち飲もうとカップを手にしたときに
 
テーブルの上に
夫のケイタイを見つけました。
 
 
あるときは夫とわたしを
あるときは夫とコイビトをつなぐ
冷たくて残酷な夫のケイタイ。
 
一瞬、「着信履歴を見たい」そんな衝動にかられます。
けれど
ここで見てしまったら
 
 
 <わたしがわたしに負けてしまう>
 
 
ケイタイはテーブルに戻しました。

「会社にいこっ。今日は取材だ。
 イチバン好きなスーツも着たし。がんばろっ」
 
 
リビングのドアを閉めようと 振り返ると
テーブルには夫のケイタイ。
 
 

 
 
夫の会社は
わたしの通勤途中にあります。
 
「近くまで届けてあげようかな」
 
そんな風に思いました。
 

 
 
おサイフから夫の名刺を取りだし
夫の会社の電話番号を確かめます。
 
結婚をして2年。
夫の会社に電話をするのは
これが初めて。
 
 
すこし、緊張します。
 
 

そして
夫の会社には
 
 

夫のコイビトがいる。
 

  
わたしの知らない 夫のコイビト。
 
 
 

もしも、夫のコイビトが出たら…
 
 
手の先が スゥッと冷たくなるような
そんなカンジがしました。
 
 
「やっぱり電話なんて やーめた。ケイタイなんて しーらない」
一度は、名刺をおサイフに戻しました。
  
でも…。
 
 
夫の会社
私の知らない世界。
 
夫とコイビトが共有している空気
そこは どんな場所?
 
 
気が付くと番号をまわしていました。
 

 
 
夫が働くフロアには30人近くのスタッフがいると
聞いたことがあります。
どの回線がどこへつながっているのか
名刺の番号は、夫のデスク直通なのか
 
どっちにしても
夫のコイビトが出る可能性は、たった30分の1
 
ダイジョウブ、彼女が出ることなんてない。
ダイジョウブ、きっと彼女が出るに違いない。
 
彼女に出てほしくないのか
彼女に出てほしいのか
自分でもわかりません。
 
コールが2回。
 
「やっぱりやめた。切っちゃえ」 
 
緊張に耐え切れず、受話器を置こうとしたそのとき
 
 
「おはようございます。(会社の名前)、担当の野田です」

夫がコイビトの家に泊まった ひとりぼっちの寒い夜

冬のあいだ
わたしたちの家では
エアコンのヒーターの他に
銀色のストーブを使います
 
寒がりなわたしのために。
 
銀色のストーブには
朱色のタンクから、やっぱり朱色のポンプを使って灯油をいれます。

朱色のタンクは寒いベランダにあって、
おまけに
どんなに気をつけていても
手に灯油のにおいが残ってしまいます

わたしは「とうゆ係」が大嫌い
 

夫は 秋の終わりに
「由乃 今年は俺が『とうゆ係』になるからね」
そう約束してくれました。

……

やがて冬がやってきました。

銀色のストーブは
灯油がなくなると「ピーピー」と夫を呼びます

真夜中のウトウトと気持ちよくうたたねをしている時や
朝、出勤前のイチバン忙しい時や
夕ごはんができあがって、アツアツを さぁ食べようという時。

そういう時に限って
銀色のストーブは 夫を呼ぶのです


「ピーピー。とうゆがないよ」
「ピーピー。由乃が寒がるよ」


銀色のストーブが、いつもわたしのかわりに夫を呼んでくれる


夫は、銀色のストーブに呼ばれたら どんな時でも朱色のポンプを手にします

 

ただし
たった一度をのぞいて。

 


ある日
夫は「飲み会があるから今日は遅くなるね」と出勤し
そのまま終電の時間を過ぎても帰ってきませんでした。

真夜中過ぎたころ
ようやく夫からメールが。

「社長につかまってしまったので、帰れそうにありません。ごめんね
 玄関のカギをきちんとかけて、暖かくして眠ってね」
 
わたしは“今夜は一人ぼっちか”と思いながら
「わかった。気を付けて」と返信しようとしたその時
 
「ピーピー」と銀色のストーブが夫を呼びました。
 
わたしは書きかけのメールを消し
「とうゆがないよ。タクシーで帰ってきて」
そう書き換えて送信しました。


もちろん、本当にそうして欲しかったわけではないけれど

夫からの返信はありませんでした。


“サラリーマンは大変だ”

そんなことを思いながら
わたしは、その冬はじめて 朱色のポンプを持ちました

 

けれど その夜
夫が一緒に過ごしていたのは

社長ではなく コイビトでした

 

銀色のストーブが呼んだら どんな時だって朱色のポンプを手にした夫

 

コイビトの存在は
律儀な「とうゆ係」の夫さえも
揺るがしてしまうようです。


 
 

「ピーピー」


 
 
銀色のストーブが
そして、わたしが

寒くて
夫を呼んでいたのに


高い 高い 橋の上

高い、高い、橋の上を歩いていました。

 

けれど、私は それを知らなかった。

 

 

アスファルトの地面を歩くように堂々と、

川沿いの土手を歩くように颯爽と、

海岸線を歩くように大股で、

 

寄り道をしたり、走ったり、空を見上げたり。

 

 

そんな風にして

毎日を歩いていました。

 

恐れることなど何もなかった。

 

 

けれど私は 知りました。

私は、高い 高い

そして、ゆらゆらと脆い橋の上を歩いていたのだと。

 

 

それに気が付き、下を見ると

途端に私は怖くなりました。

 

 

もう、足を踏み出すことさえできない。

今までは、平気だったのに。

 

クチブエ吹いて、スキップしたって平気だったのに。

 

 

 

 

 

 

夫との生活は

高い 高い 橋の上に あったなんて

知りませんでした。

夫とコイビトの不倫が恋なら 夫とわたしの恋はどこへ

不倫は恋愛。
妻とは別の『好きな人』
 
「彼とワタシは愛しあっているんです。でも彼には奥さんが。だから、彼は家庭を捨てられない…。」
 
不倫は、恋のかたまり。
 
 
不倫が恋なら
そこから もっとも遠く離れたところにあるものが「家庭」なのかもしれない。
 
洗濯物やトイレそうじに近所のスーパー、水道料金や税金、発泡酒や昨日の残りのカレー、子供達の声、歩きやすい靴に日焼けした首すじ …
 
みんな、恋とは程遠いところにあるものばかり。
 
夜景のきれいなレストランでも、海辺のお散歩でも、レースの下着でもない
 
それが「家庭」。
 
家庭は あたたかくて好き。
でも、わたしは夫と家庭を作りたくなかった。
 
 
夫にとって
「妻」という生き物になってしまうのではなく
「由乃」として生き続けたかった。
 
  
 
だから、
わたしたちに子供はないし
彼が亡くなった場合の生命保険について語ったこともない。
 
わたしは自分の仕事を持ち続けているし
 
夕ご飯に、スーパーから買った物をプラスチックトレイのまま出したことも
つまらないウワサ話をしたことだってなかった。
 
彼に平気で「トイレに行く」なんて言えないし
お風呂も入らずにジャージのままエッチをするのもイヤ。
 
 
夫も
重い荷物は 必ず持ってくれたし
あたらしいスカートをはけば「キレイだね」と。
記念日にはGUCCIのチョーカーをくれて
キレイなレストランに出かければ、ドアを開け、先にわたしを通してくれた。
 
映画館でも、美容院でも、どこへでも
いつも手をつないで。
 
 
 
わたしたちは
「夫婦」ではなかった。
ずっと「コイビト」だった。
 
だから
 
わたしは、夫がコイビトを持った理由がわからない。
だって、コイビトはわたしだったから。
 
 

2年前に 
向こう側が透けて見えそうなくらい薄い紙に、
ちょこちょこっと名前を書いて判を押した記憶はあるけれど
たった、それだけで
ふたりの間にあるものは
 
恋ではなく
責任や倫理や情やそういうものに変化してしまう?

わたしは「由乃」のままなのに。
結婚が恋を霞ませた。
 
………
 
ある日の 
夫へのコイビトからのメールに
 
「あなたと奥さんは、恋人ではなく夫婦なのだから」と。
 

わたしは
2年前に判を押しただけなのに。
 
別れない理由を「夫婦だから」にされてしまった。


夫はコイビトを持ってから わたしにやさしい

夫はコイビトを持ってから
わたしに前よりもっと優しくなりました。
 
 
 
 
たとえば
先々週あたりに
夫とわたしはタイヤキを「はんぶんこ」しました。
 
タイヤキは
少しさめていて
あまりおいしくなかったけれど
 
でも
夫は、「熱くない? やけどしないでね。由乃。
    おいしいね」と言いました。
 
夫がコイビトを持つ前だったら きっと もっとうれしかったのに。
 
 

 
たとえば
2月には
通勤が大変なわたしのために
夫は新しいマンションを見つけてくれました。
マンションの家賃は1.5倍になってしまったけれど
 
でも
夫は、「会社、近くなった?
    由乃の通勤がちょっとでも楽になればいいのに」と言いました。
 
夫がコイビトを持つ前だったら きっと もっと幸せだったのに。
 
 
 
 
たとえば
夫は帰ってくる時間が2時間ばかりはやくなりました。 
それは、コイビトの家に寄らなくなったからかもしれないけれど
 
でも、
夫は「早く帰ってきて 
   由乃と食事をするのがイチバンしあわせ」と言います。
 
コイビトを持っていると知らなかったら きっと ただ嬉しいだけだったのに。
 
 
 
 
 
たとえば
 
たとえば
 
たとえば
夫は
わたしにやさしくなりました。
それは、コイビトを持っているせいかもしれないけれど
 
でも、
夫は「由乃が好きだから」と言います。 
 
 
夫がコイビトを持っていることを知らなかったら
 
 
 
 
 
 

わたしは
 
愛する人を疑うココロを持つこともなく、
 
 
 
 
 
きっと ただ ただ 夫を信じて やわらかで おだやかな毎日を暮らすことができたのに。
 
 
 
 
 
 

 
夫は、コイビトを持ってから 前よりずっと わたしにやさしい。
 
 
コイビトを持ってなければ いいのに。 
 
 


夫がコイビトを持っていると知った後の
夫の優しさは 

 
 
 
 
 

わたしには 
痛いです。 
 
 
 

 

夫がコイビトを持っていると知って わかったことは

夫がコイビトを持っていると知って
半年近くが過ぎようとしています。
 

 
寒い冬だな
なんて思っていたら
いつの間にか、
キレイな緑色の葉が
会社の近くの並木道にさわさわと揺れています。

いつの間に こんなにも時間が過ぎてしまったんでしょう。

夫がコイビトを持っていると知って
わかったことといえば

わたしが ずいぶん 夫のことを好きだったんだ ということ。

これには 
わたし自身も驚き、
そして夫も
わたし以上に驚いています。


夫は
 自分がコイビトを持ち
 わたしを一人ぼっちにして その子の家に 外泊をし
 クリスマスにはその子のために 銀座まで足を運んでプレゼントを選び
 ときには貴重な有給の一日を その子のために取って遊園地に出かけ
 仕事が早く終わった日には わたしとのゆっくりとした食事よりも その子の家に寄ることを選び
 「愛している」といって
 キスをして
 その子を抱く。

そんなことをしても
そして、もしそれが わたしにわかってしまったとしても

「由乃なら平気だと思った」 と言いました。

わたしも
夫がコイビトを持ったり
プレゼントを贈ったり
「愛している」といったり
キスをしたり
彼女を抱いたりしたとしても

 「わたしに迷惑をかけずにいてくれさえすれば
  あたなが何をしようともわたしは平気。」

夫にはいつもそう話していたし
実際、わたし自身さえも
そう思っていました。

でもそれは
一生、そんな日は訪れることがないだろうと
そう信じていたから言えたセリフ。


夫がコイビトを持ったり
プレゼントを贈ったり
「愛している」といったり
キスをしたり
彼女を抱いたりするなんてことを、

本当は想像さえしていなかったし
する必要もありませんでした。
これからもずっと。

だから
わたしは「なにをされても平気」な、強い女なのではなく
夫の愛情を1㎜も疑うことを知らなかったから
強くいられただけでした。

それは 

   『傷つくことを恐れない強さ』

その証拠に
夫の愛情を信じられなくなってしまった私は
世界で一番、弱い女に成り下がりました。

…………………


夫がコイビトを持っていると知って わかったことといえば

「わたしが ずいぶん 夫のことが好きだったんだ」 ということと、

そしてそれが


「わたしのすべてを支えていた」 


ということでした。