【社説】観光立国日本に於ける583系寝台電車引退
我が国鉄道は明治維新直前に具体策が出来上がり、維新直後に建設が始められたが、地形は複雑で高低差も大きく、更に自然環境は多様で、複雑にして狭隘な「鎖国連合」だった江戸期を参考に英国人が「ここは簡易な1067ミリ軌間で」としても仕方無い。
しかし、「スタンダードゲージ」の1435ミリに変更する機会は幾つかあった。
それも実現出来ないまま、我が国の鉄道は欧米に比較して独特の発達を重ねた。
その象徴が世界初の寝台電車である。
昭和42(1967)年に登場した寝台・座席兼用電車581系は、東京〜新大阪間東海道新幹線に接続した山陽・九州北部連絡高速列車として構想され開発された。
座席は客車A寝台(プルマン式)を三段寝台としたもので設計した側からすれば「破格の」豪華設計だったのだが、「向かい合わせ」の座席が「三等車」(普通席)を連想させた一般消費者、特に一部報道者は「格下げ」と囁いた。
翌昭和43(1968)年9月9日、東北本線と常磐線の全線電化に伴ってそれまで気動車を使っていた特急はつかりが、10月のダイヤ改正で経由変更(昭和33年11月に客車特急として設定されて以来、はつかりは常磐線経由だった)されるのを機会に電車化するものとなり、581系(直流と交流60ヘルツ対応)を改良し交流50ヘルツにも対応、加えて寒冷地・降雪地向けの装備としたものが583系である。
東海道ルートに対して旧態以前な輸送体系だった東北ルートは、この改正と583系の登場で変貌したが、本格的な電車特急網の構築に車体単体がとても重く、しかも高価な寝台電車を投入するには財政的にも厳しく、それは座席専用交直流電車483・485系列の登場まで先延ばしをされたのである。
電化と同時に投入された583系は、単に電線(架線)が引かれたところなら走れると言う代物でもなく、その重量と基本13両編成と言う条件から「運行制限」が多く付いた車両でもあった。
東海道・山陽ルートがメインルートに沿った旅客流動で対応出来るのに対して、東北・上信越など「上野口」は青森や新潟だけが主では無く、山形を経由する秋田方面と酒田を経由する秋田方面・長野を経由する北陸方面と長岡で編成をひっくり返す北陸方面、など行先は同じでも経由が大きく異なって、しかも旅客流動が多様である中で「制限」が多い583系は自然と「上野〜青森間対北海道輸送」の主力の位置に在り続けなければなかった。
東北新幹線開業後は寝台列車兼盛岡〜青森間輸送に専ら使われる様になったが、東海道ルートの新幹線シフト化と長距離の航空移転で先に「ダブり」気味となった寝台客車が流れ込んで来た中で、次第にランニングコストの高い583系は活躍舞台を減らした。
しかし、結果としてはその14系・24系客車が先に引退し、定期便こそ無かったが多用途設計であった事が幸いし、秋田で臨時輸送用として半世紀近くまで生き残った。
鉄道ファンの感情としては寂しさを感じる方は多いだろうが、むしろ今日まで残った事が奇跡なのだ。
問題はこの先である。
東京発夜行「サンライズ」は寝台電車である。
言わば581・583系の直系後継者だが、これは直流専用で東北・北陸・九州では使えない。
一方、内需拡大にも行き詰まった平成現在の日本では、国策として「観光立国」を打ち出して、外国人観光客の取り込みに政財界も力を注いでいる。
しかも五輪が近付くこの時期に、狭い乍らも多用途対応な列車が無くなるのは、観光誘致の面から見て「痛撃」だ。
583系引退、よりも「その後継」が無い事で、この不便極まりないニッポントレインに外国人観光客を押し込めようと言うのだろうか。
観光客が産業面から有為となるシーンは「散財」で在る。
ただ、名前ばかり豪華寝台列車が固定したルートでしか運行されないし、出来ないと言う状況を眺めると、その面で期待は出来ない。
いわゆる「富裕層」旅客は、パッケージされた行程で満足してしまう傾向が強い。
つまり散財ポイントが限られる。
そして量数的には「フリー」で節約指向な観光客ほど広く散財する。
一点だけが儲けても、それで景気の底上げにならないのだ。
しかもその集中点ではその収入を確保し続ける為に儲けた分、投資しなければならなくなり、限られた業種の限られた企業だけでその「収益」を分配する、つまり「富の偏り」しか生まないのだ。
皆で貧乏と言った発言が物議を醸している様だが、観光では「広く浅く儲ける」仕組としなければ、観光産業そのものが続かないのである。
【広告】トレインタイムスチャンネル
【動画公開】国葬列車〜東北本線上野発西那須野行〜公開
各位
平成28年02月22日
アルファクスクラフトワーク
ユーチューブトレインタイムスチャンネル
新番組の御案内
日頃より御支援賜り誠にありがとうございます。
平成28年02月22日より、「国葬列車~東北本線上野発西那須野行~」を公開致しました。
初のドキュメンタリー作品でございますが、鉄道史研究などの発表のスタイルとして今後も制作を続けて参ります。
何卒、皆様に於かれましては御笑覧賜りたく存知ますと共に、広知化に御支援を賜りたく重ねてお願い申し上げます。
<現在公開中>
音の鉄道記録(1)昭和57年11月14日特急第11M列車「みちのく」最終放送
※第1M「はつかり11号」を付録
https://youtu.be/Jw-4PA9BO-0
音の鉄道記録(2)昭和60年3月13日急行第801列車「天の川」最終放送
https://youtu.be/BUpGkrcwg_M
音の鉄道記録(3)平成元年9月6日急行第412列車「まりも」車内放送
※ドラマ効果音
https://youtu.be/Z0W3pCWlva4
恐々謹厳