「よーい、ドンっ！」

小学校の運動会以来あまり耳にしていなかった掛け声から撮影はスタートした。正直監督の掛け声などどーでもいいのだ。ただあまり慣れていなかったパターンに私はとても刺激的なスタートの中、間違いなく「変身」がクランクインしたのだ。それと同時に佐藤孝樹監督の壮絶な夏が始まった。

「…あ、じゃぁ～、オッケ～。」

初めての監督OKテイクの掛け声は一瞬でキャスト、スタッフの気持ちを１つにさせた…不安。

無理もない。監督は何もかもが初めてなのだ。そして監督は勉強だけは才能があると自負するくらい出来るのだがドラマ撮影に関しては全くの経験値0。監督もテンパっているのだ。

そんな監督を尻目に空から雷のような音が聞こえる、いや、これもう紛れもない雷だ。

トドメを刺すかのようなゲリラ豪雨。

酷だ。右も左もわからない高校生監督の撮影初日にこれは酷だ。しかしこれが現場なのだ。神が与えた試練だ。困難無くして良い作品はとれないのだ。不安そうに弁当に食らいつく監督。

待つこと1時間半。晴れた。奇跡だ。

天をも味方につけた監督はもう既に現場というものを掴みつつあった。今回僕が演じた役は高校デビューを成功させようとするこじらせ男子。そう、監督本人だ。

撮影前は僕にはアイディアも何も無いと言っていた監督は細いセリフのニュアンスなど自ら発信することが多くなった。

さすが早い。東大を目指す者の学習能力の高さには感心だ。そして僕たちのお芝居をみて物申したくなる気持ちこそ本物だ。そしてそれは身の引き締まる思いだ。これからどんな盛り上がり方をして行けるのか楽しみだ。そんな期待を込めて、1人の監督として信頼できた１日だ。

それはもう撮影終わりに一緒にカレーライスを食べた。

今日の監督、そのニ