15 弥生28
浅草合羽橋から橋場に住み替えて、木々が多くなり 鳥を良く見る、今時分は鼻筋白ひばん、足下にせきれいがちろりとおり、尻をふってる
何かの花びらが玄関先に落ちていたりする時節に為った、
こっちは不粋だからなんだか判じかねるが
春物の掛け軸に替えるいい目安だ、
「桜下美人画」
西門右京祐信画 近代の画家
紹介したがこの絵師の事は知らない
かの軸は二つに折れ筋が入っている、
我が婆様若かりし頃
爺様がかの軸の美人画、実に良くほめる、
婆様、嫉妬 勘癪起こして、この軸をしわくちゃにしてしまった、その跡が二本の折れ筋になって残っている
馬鹿たれ婆様ですなぁ
春の武家女房の良い絵だと思ふ
出すにあたり、座敷の片付け
途中に与力、頼もうと来、
この間、神田のうなぎ屋に供に寄せ、
ウナ様おごりたまへで喰うだけ食って
母上から連絡が来て喰い逃げやがった奴です、
ひとくさり
はばぁがこの軸をやりやがったと言いつけた
もう一枚出す「鳥とこぶしの絵」
勾田甚嶺 中村竹渓門人
誰だ、この人はと聞くので
お前知らんのか、
こちらも知らん
春物だねひ
与力と浅草に、作家山口瞳、池波正太郎の通った、女板前の「金寿司」へ行くが、
まだ仕度前だった、
寿司屋横丁の常寿司へ
喫した後は芋羊羹の船和の前、建物二階の喫茶ブラジルに、入る
子供の頃に入った覚えあり、
こいつ良く浅草の見世しってんなぁと思ったねひ
他の在所からの者が良く知ってる、
マスターの趣味かジャン、ギヤバンの写真が貼ってある、
煮しめた渋い見世
一枚だけオードリーヘップバーンが貼ってあるがこいつが華か
ここのカツサンドは旨いと叉若衆がまた喰う、
見てれば、つられて
しとつぶんどって喫するとトマトソースが旨いし、カツの肉が旨かった
昼をまわり段々混んできたので、二人してな、
この場から逃げる
地の者は、六区で何かの催しやってるぞ、
では行くの混んでるからよそう考える
大川端に出て桜色ずく枝を見て
すちゃらか与力と二人してな、
帰る
(大屋根之図)