くにゆきのブログ

くにゆきのブログ

今、自分が感動したこと、また知っていただきたいことを、主に記していこうと思います。

     (『人間革命』第11巻より編集)

            51

          〈大阪〉 4

 

 本は、戸田が、妙悟空のペンネームで、聖教新聞に連載してきた小説『人間革命』であった。

 

 戸田の出獄である、この七月三日を記念して発刊されたのである。

 

 妻の峯子は、着替え類を詰めてきたカバンを慌ただしく渡し、無言のまま伸一を見た。

 

 「ありがとう。大丈夫だ、心配ない。あとは、よろしく頼む

 

 伸一は、口早に峯子に言い、青年部の幹部に促されるままに、ロビーを出た。

 

 そこには、大勢の幹部の姿があった。どっと伸一を取り囲み、彼の手を握った。皆、同じ広宣流布の目的に生きる戸田門下生であり、同志である。

 

 「お元気で・・・」

 

 「ありがとう、これがあるから大丈夫だよ」

 

 伸一は、戸田から贈られた『人間革命』をかざして、挨拶を返した。

 

 彼は、小沢弁護士と共にゲートの方へ進んだ。わずかな待ち合わせ時間であったが、彼には、戸田の慈愛の泉を一身に浴びた、大いなる蘇生へのひとときであった。

 

 大阪行きの飛行機は、羽田を離陸した。彼は、席に着くと、『人間革命』をぱらぱらとめくっていった。

 

 そのうちに、伸一の目は、吸い寄せられるように、本に集中し、時のたつのを忘れて読み進んでいった。

 

 主人公の巌さんが警察に留置され、執拗な取り調べにあい、遂に拘置所の独房で呻吟しなければならなくなった辺りになると、伸一は興奮を覚えた。

 

 時が時である。あと数時間もすれば、自分の身にも、おそらく同じ運命が待ち受けているであろうことを思うと、切実であった。

 

 巌さんは、法華経を獄中で読み切ることによって、彼の生涯の使命を自覚する。

 

 伸一は、戸田の獄中での生活を幾たびとなく聞かされていたが、今また、戸田の小説を読むことによって、師の苦闘が、まざまざと脳裏に浮かんできた。

 

 そして、自身にも獄中の生活が迫りつつあることを、ひしひしと感じていた。