キャスター「警部、事件発生からすでに1週間になりますが、捜査はどのような進行状況なのでしょうか?」

警部「あぁ、いい質問ですね。でもノーコメントです」

キャスター「それは現在の捜査状況を公表しないということですか?」

警部「今回の事件は非常に複雑で、状況証拠ですらハッキリしたものがないんだ・・・。不完全な情報を流したところで、いたずらに犯人や被害者達を刺激するだけなんだよ」

キャスター「それが答えですか?」

警部「あぁ、それが答えですよ。じゃ、私は急いでいるので。失礼・・・」


キャスター「卑怯者」

警部「おぃおぉ」

キャスター「被害者の家族がどうなってもういいんですか?」

警部「それは、君が私に言うことじゃないな・・・」

キャスター「偽善者」

警部「・・・君さっきからちょっと失礼だね!」

キャスター「失礼しました」



警部「まったく、なんだってんだよ。散々すき放題言って、どういう神経してんだ・・・。ねぇ、ラジオ聞いてる皆さんもそう思うでしょ?私だってねぇ、事件が解決してほしいと思ってますよ?そうですよ・・・。でも、いろいろ組織の意向ってものがあるんですよ。ただその事件だけにエネルギーを注いでるわけじゃないんです。そこが辛いとこなんですよ・・・」


警部「あぁ、ところで皆さんは途中から話に加わってるから、何がなんだか分かんないでしょ?『事件ってどんな事件なんだろ?』・・・思ってんじゃないですか?」


警部「ん~ごめんなさいねぇ、放送時間は限られてるんですよ。あぁっと、もう時間が来てしまいました。あぁ~、残念だなぁ。このままだといったい何だって感じですよねぇ。もうすぐいつものテーマが来るかな?『ズッジャーン』ってヤツね。(笑)ご存知でしょ?『ズッジャーン』って(笑)・・・テラーのテーマなんですよ。もうすぐかな・・・私のしゃべりはフェードアウトですかね。じゃ、ずっとしゃべってようかな・・・。えぇーっと、いつもの音楽に乗せて『トキノミノル作』とか言うんだよね(笑)。今日はずっとしゃべってる、この私の作品ってことになるんだから・・・私の名前どうしようかなぁ~変なのがいい・・・ぅん、『ちゃむちゃむちゃん』にしようかな・・・」



(テラーのテーマ)(ズッジャーン・・・)


警部「お、きたきたきたきた。雨蘭さんが言うよ、『ちゃむちゃむちゃん作』って(笑)。それっ!」


雨蘭「ちゃむちゃむちゃん作『会話は楽しい』、出演」

入江「入江崇史」

雨蘭「雨蘭咲木子でお送りしました」

入江「ではまた」



ちゃむちゃむちゃん作「会話は楽しい」

出演 入江崇史・雨蘭咲木子

(エレベーター)(ピーン・・・ガタン・・・)

少女「おじちゃん、なんかいですか?」

男「ぇ?はは・・・え~、1階をお願いします」

少女「1階ですね、かしこまりまちた」

(こんなちっちゃい子供がエレベーター遊びなんて・・・危ないんじゃないかな)

(エレベーター)(ピーン・・・ガタン・・・)

少女「ありがとうございまちた。またごりようくだたい」

男「(ゴホン)ねぇ、キミ、おうちどこ?お母さんは?」

少女「おうちはもっとしたよ。おかあさんはいないの」

男「ははっ、もう下はないんだよ。ここ、1階でしょ?」

少女「あるもん。わたしのうちはもっとしただもん。おじちゃんうちにあそびにきて~」

男「ん~いいけど・・・下はないんだって・・・」

少女「したです。したにまいりま~す」

(エレベーター)(ゴゴゴゴ・・・)

男「うぉっ、な、なんだ・・・どうなってんだ・・・」

(エレベーター)(ピーン・・・ガタン・・・)

少女「おじちゃん、こっちよ~」

男「ぃ、いや、ま、真っ暗じゃないか!ね、こ、ここどこ?ね、やっぱり上に戻ろうよ、ね?」

少女「やだ!おじちゃんうちにあそびにきてくれるっていったもん。いままでずーっとひとりぼっちでさびしかったの。これからずーっといっしょにあそんで」

男「いやぁダメダメダメダメ、おじちゃんは忙しいんだから。ね?早く上に戻ろう?」

少女「もどれないもん。わたしがのらなくちゃ、あのエレベーターはしたにこられないからね!」

男「いゃ、そんな馬鹿な・・・」

()(ドンドンドン、ドンドンドン・・・)

男「あ、おい!おーい!助けてくれ~!だ、誰か~・・・」

少女「ふふ・・・、おじちゃん・・・はやくぅ・・・」

コマツトモコ作「下に参ります」

出演 入江崇史・雨蘭咲木子

男友達「な~んだよ、まだ第三段階なのかよ。運動神経いいから、一発で合格するっつったの誰だったんだよ」

ハシモト「・・・そんな・・・思うようにはいかないさ」

女友達「それは違うんだって。ねぇ~?」

男友達「なんだよ?」

ハシモト「・・・何でもないって」

男友達「何だよ、気になるじゃねーかよ!なぁ?」

女友達「あのね~・・・」

ハシモト「おい、言うなよ・・・」

女友達「なんかね~、好きな子ができたらしいのよ、その教習所で~」

男友達「え~、なんだよ、なんだよ。それでその女の子にあわせてわざと先に進まないって事なのか。そんなこといってないでさぁ~、先に卒業していろいろ教えてあげればいいじゃん。ほんでさ、助手席に乗せてあげるとかいってよー、デートに誘えばいいじゃん。な?」

女友達「そうだよ、それがいいよ~。男のくせになかなか先に進めないなんて思われるより、そのほうがカッコイイって」

ハシモト「うん・・・」

(ドア)(ガチャン)

女友達「ふーん・・・、ハシモト君のお気に入りって、どの子かな~?」

男友達「なぁなぁ、あのロン毛の子、いけてなーい?い~なぁ~、教習所ってさぁ」

女友達「うるさい、別にアンタの趣味聞いてないの!ハシモト君って結構、カワイイってカンジの子が好みだから・・・」

男友達「おい、あれ・・・」

女友達「ぇ・・・うっそ・・・」

教習員「ハシモトさん、もういいから!ね?次の人と交代して?ハシモトさん、聞いている?ねぇ、もうアナタ人口呼吸はとってもお上手にできたから・・・。もうキチンとできてるわ、ハシモトさん、お人形さんを離してちょうだい。ハシモトさん、もういいから・・・ね?はやく次の人と交代して・・・。もう人工呼吸とってもお上手よ、ハシモトさん・・・」

(人工呼吸)(フーッ、フーッ、フーッ・・・)

ナカムラフヨウ作「恋のお相手」

出演 入江崇史・雨蘭咲木子

(呼鈴)(ピンポーン)

夫「ん・・・ん・・・ん~、なんだ・・・」

妻「ん~、やだ、な~に、こんな時間・・・。今何時よ?」

(呼鈴)(ピンポーン)

夫「2時半だよ・・・誰だよいったい・・・こんな夜中に。いたずらだったら、ただじゃおかないからな・・・」

(足音)(トットッ・・・)

夫「ぁ、ぁ・・・ぁ・・・ぁぁ・・・ぁ・・・ぁ・・・」

妻「何よ・・・どしたの?誰?」

夫「ば、ばあさん・・・こないだ、死んだ」

妻「うそ・・・」

夫「ホントだよ!覗き穴から見たら・・・立ってんだよ。それで、だ、だんだん顔近づけてくるんだよ」

妻「っっ・・・、やめてよ!?」

夫「俺もぅ、腰が抜けるかと思ったよ。ほら、見てよこの汗。はぁ~、やっぱ葬式行かなかったから、怒ってんのかな・・・」

妻「四十九日も欠席なんてハガキ出しちゃったしね。あなた散々かわいがってもらったって言ってたのに・・・白状なんだもん・・・」

夫「お前だって、連休法事でつぶしたくないって言ってたじゃないか・・・。だけど・・・しょうがないよな・・・。俺こんな思いすんのヤダよ、怖かった~」




(寺の鐘)(ゴーーン・・・)

(お経)(なぁむ、なぁむ、なぁむ・・・)

親戚「まぁ、まぁ、マコトちゃんも奥さん連れて・・・。来られないって聞いてたけど、クロイソのおじさんやキリュウのはとこさん達も昨日になって急に『やっぱり伺います』って来てくれたのよ。おばあちゃん喜ぶわ~、みんな来てくれて賑やかになって・・・」

夫「やりやがったな・・・おばあちゃん」

ノゾミイチル作「真夜中の訪問者」

出演 入江崇史・雨蘭咲木子

(銀行)(大変お待たせいたしました。65番のカードをお持ちのお客様、窓口までお越しください)

行員「いらっしゃいませ~」

客「3億ほど、預けたいんだが・・・」

行員「3億・・・ですか?」

客「金はここにある・・・」

(銃を取り出す)(カチャッ)

行員「ひっ・・・」

客「っ・・・、静かにしろ!いいか、このバッグに一千万つめるんだ。騒いだら・・・殺すぞ」

行員「そんな・・・わ、わたし・・・わ、わたし・・・()

客「くそっ!つかえない女だ!ちくしょおぉぉ・・・」

(発砲)(パンパンパパン・・・)

(叫声)(キャーーッ・・・)

女「ねぇ・・・10年ぐらい前にさ、上野の『ユウヒ銀行』で、強盗事件があったじゃない?」

男「あぁ・・・あの、行員とかさ、お客さんが全員殺されちゃったやつだろ」

女「あの犯人さぁ・・・そのあとどうなったんだっけ?」

男「いゃ、たしか死刑になったろ。先々月くらいだっけ、執行されたのって」

女「だよね・・・でもさ、見たのよ私、今日」

男「何を?」

女「犯人をよ」

男「えぇ~?」

女「しかも、同じ上野の『ユウヒ銀行』で」

男「人違いだろ~?」

女「今日さ、保険料払いに行ったの。したら、結構窓口すいててさ、私なんとなくフッと隣見たら・・・いたのよ、窓口にその男が」

男「でも・・・お前、よく顔覚えてたな?」

女「うん。あの犯人、中学の時の友達にそっくりだったから、よく覚えてんの。でね、私がドアから出ようとした時に突然、男の悲鳴がしたのよ!」

男「うん・・・」

女「で、振り返ったらさ・・・その男が血だらけになって倒れてんの・・・」

男「えぇ~・・・」

女「私、関わりたくなかったから急いで出てきちゃったんだけど、・・・びっくりしたなんてもんじゃなかったわよ~」

男「でもさ・・・今日祝日だから、銀行休みじゃなかったっけ?」



イイジマタカコ作「銀行強盗」

出演 入江崇史・雨蘭咲木子

(雑踏)(ざわざわ・・・)

サトミ「ナミコ~、なんかアンタ今日『ぎしゅ』じゃん?」

ナミコ「え~、失礼ね。サトミの方が『ぎしゅぎしゅ』よ」

サトミ「ったく暑いとこれだからやだよな~」

ナミコ「ってゆーか、サトミ、アンタちょっと異常じゃないの?」

サトミ「何いってんのよ!じゃあどっちが『ぎしゅ』か試してみようよ」

ナミコ「あら、いいわよ。じゃ、エステにでもいって、お肌のテストしてみましょうよ!」

(ドア)(バタン)

店員「いらっしゃいませ~。今日はいかがなさいますか?」

サトミ「ってゆーかー、『ぎしゅ度』?測ってもらいたいんですけど~?」

店員「かしこまりました。ハーブコースとガーリックコースがありますが・・・どちらになさいますか?」

ナミコ「え?何それ?」

サトミ「バッカ、知らないのかよアンタ。アロマテラピーってやつじゃない?」

ナミコ「なんで、『ぎしゅ度』測るだけなのにアロマテラピーなのよ?『ピピピピー』とかやって終わりじゃないの、フツー?」

サトミ「いいじゃん、なんだってよ~」

店員「それじゃあ、そちらのベットに横になってくださいね」

ナミコ「ちょっと・・・サトミ。私たちいつまで寝てんの?」

サトミ「小一時間経ってんじゃん?変な管みたいのつけられちゃってさ・・・。何なのいったい?点滴してんじゃねんだっつーの!」

店員「お疲れ様でした~。いかかでしたか、ご気分は?」

ナミコ「ご気分はいいわよ。でもねぇ、私たちの『ぎしゅ度』どうなの?」

店員「こちらになります。えーと、こちらがハーブで()(ゴトン)、こちらがガーリックになります()(ゴトン)。ガーリックの方は2本分摂れましたよ~。すごいですね~、『ぎっしゅ度』100。お料理にでも何にでも使えますよ、このオイル」

サトミ「ちょっと・・・何これ。私らの油!?」

店員「25000円になります」

ナミコ「あら信じられない、ぼったくりよ~!こんなんじゃ油取り紙なんかで絶対取れないはずだわよね・・・。ほら見て御覧なさい、アンタのほうがギトギトよ」

サトミ「ちょっと、でさー。ナミコが、ガーリックの方だよね?」

ナミコ「あら、違うわよ」

イイジマタカコ作「天然オイル」

出演 入江崇史・雨蘭咲木子

(空港)(ざわざわ・・・)


(金属探知機ゲート)(ピンポーン)


検査員「あ、すいません。なんか金属製のもの身につけてます?」

乗客「いや、つけてないと思うけど?おかしいな・・・」

検査員「ベルトのバックルとか違います?」

乗客「えぇ~、バックルなんかでも反応しちゃうの?」

検査員「えぇ、ときどき反応しちゃうことあるんですよ~。すいませんけど、ちょっとベルトはずして通ってもらえます?」

乗客「はい・・・」


(金属探知機ゲート)(ピンポーン)


検査員「ぁ、メガネだ。ちょっとメガネはずしてもう一回お願いします」

乗客「へぇ~、結構反応鋭いんですねコレ」

検査員「えぇ実はコレ、最新のやつで・・・今日から導入したばっかりなんですよ」

乗客「ん~、なるほどね・・・。あの、じゃあ通りますよ」


(金属探知機ゲート)(ピンポーン)


検査員「あ~れ、おっかし~な・・・。カフスとかつけてませんよね?」

乗客「いーゃ、つけてないですよ。小銭入れもカバンの中だし、ピアスもしてないし、時計もさっきはずしたし・・・壊れてんじゃないですか?」

検査員「い~ぇ、さっきチェックしたばっかりですから・・・。お客さん、カツラじゃありませんよね?」

乗客「カ、カツラだと引っかかるんですか?」

検査員「いぇ、そういうわけじゃないんですけど、ちょっとまぁ個人的に気になったもんで・・・。それにして・・・ぁ、失礼ですけどお名前はなんとおっしゃるんですか?」

乗客「僕ですか?『アサオカ テツタロウ』ですけど?」

検査員「それだ。ほら、名前に金属が入ってるじゃないですか、鉄。じゃ、その鉄を取って『アサオカ タロウ』としてここを通ってもらえません?」

乗客「そん、そんなこと言われたって・・・。ど、どうすりゃいんですか?」

検査員「『アサオカ タロウ通ります』って通って下さい」

乗客「なんだかやだなぁ・・・」

検査員「でもそうしないと、ずっと空港で暮らすことになっちゃいますけど?」

乗客「わかりましたよ・・・いきますよ。あの、(咳払)(ゴホン)えっと、僕は・・・『アサオカ タロウ』です」


(金属探知機ゲート)(ピンポーン)


乗客「どうなってんだよ、コレ・・・」

検査員「ん~、ところでご旅行はどちらのほうへ行かれたんですか?」

乗客「一応ヨーロッパですけど」

検査員「ひょっとしてベルギー行かれました?」

乗客「えぇ」

検査員「それです」

乗客「どうして?」

検査員「ですからほら、ベルギーの『ベル』って鐘のことじゃないですか。鐘は金属でしょ?」

トキノミノル作「税関にて」

出演 入江崇史・雨蘭咲木子

(ドア)(ガチャッ)


妻「ねぇあなた、起きてる?」

夫(起きてるよ・・・)

妻「もう寝ちゃった?」

夫(だから、起きてるよ!)

妻「ねぇ・・・ちょっと電気つけていい?」

夫(それは別にいいけど・・・)


(電気)(パチッ)


妻「あぁ、なんだ起きてるじゃない。もぅ寝たフリなんかしちゃって・・・」

夫(そうじゃないんだってば!!)


妻「あのさ、昼間の事なんだけど・・・やっぱりちゃんと話したほうがいいと思ってさ。変に誤解されても困るし・・・」

夫(それ、別に今じゃなくても・・・できれば明日にしてほしいんだけど・・・)


妻「ねぇ・・・そんな目で見ないでよぉ」

夫(そんな目しかできないんだよぉ・・・)


妻「あのね、あれは浮気でもなんでもないんだからね。なんか、ありきたりな事言うようだけど、彼とはたまたま街でばったり会ったの。それで・・・久しぶりだからって、一緒にお茶飲んだだけ。ホンットにそれでおしまい。分かった?」

夫(分かった分かった。ハッキリいって今そんな事別にどうでもいいんだよ!)

妻「ぁ、やっぱり信じてない。彼だって今ちゃんと結婚して子供だって3人いるんだから。ホントだよ?」

夫(あ~あ~あ~あ~、そりゃよーござんしたね。頼むから今はほっといてよ・・・)


妻「私浮気なんて絶対しないから。彼とお茶飲んでるときも、恋愛感情の「れ」の字も感じなかった。ほんとに!」

夫(こんな切ない目して訴えてるのに・・・ぁぁ、まだわかんないのかな・・・)


妻「(甘えた声で)ねぇ~、あなたぁ~」

夫(ぅわ・・・なんだ・・・おぃ、まさか・・・つまんないこと考えてんじゃねーだろーなぁ・・・)

妻「私が好きなのはぁ~、ん~、あなただけぇ~」

夫(かんべんしてくれよ・・・それ、それじゃなくてもすっごい不安なんだから今・・・。くっそぉ・・・なんで今日の金縛りこんなに長いんだよぉ・・・。ぁぁ、せめて小指一本動かせたら、あっという間に解けるんだけど・・・)


妻「ね~ぇ?キスしてい~い?」

夫(うぅ~、ダメダメダメ、お前そんな事されたら、息ができなく・・・。それでなくてもお前のキス、め、めっちゃくちゃ・・・な、長いんだから・・・たのむょ・・・)



(キス)(チュー・・・)

トキノミノル作「Long Kiss Good-bye」

出演 入江崇史・雨蘭咲木子

(足音)(コツコツコツコツ・・・)


女「やだ・・・遅くなっちゃった。もぅ、この道は何でこんなに暗いのかしら」


お爺さん「もしもし・・・」

女「!!だ、誰??」

お爺さん「もしもし、そこのお嬢さん。道をお尋ねしたいんですが・・・」

女「はい・・・。でもおじいさん、どこへ行かれるんですか?こんなに夜遅く・・・」

お爺さん「あぁ・・・駅のほうへ。ちょっと迷ってしまいましてな・・・」
女「駅はこの坂をずーっと下っていった所にありますけれど・・・もう電車ありませんよ?」


お爺さん「あぁ・・・ご親切に。どうもありがとう」

女「いいえ、お気をつけて」

お爺さん「ぁ、はい。あなたこそ、気をつけて・・・」

女「はい、では急ぎますので・・・」



女「はぁ、びっくりした・・・。音もなく近づいてくるなんて、脅かさないでよ・・・」


お爺さん「もしもし」

女「!!はい・・・ぁ、さっきのお爺さん」

お爺さん「お嬢さん、これ・・・落としましたよ」

女「私のハンカチ・・・ありがとうございます。やだ・・・なんで落としちゃったんだろ?」


お爺さん「あぁ、間に合ってよかった。なにしろ・・・私は・・・足が悪くてね」

女「ご親切にどうも。では急いでおりますので、さよなら」

お爺さん「お嬢さん、くれぐれも・・・気をつけて」

女「はい・・・」



(早足)(コツコツコツコツ・・・)

女「やだもぅ・・・早くうちに帰りたいわ。もう誰にも会いませんように、会いませんように・・・」


警官「もしもし」

女「!!・・・やだもぅ脅かさないで下さい・・・」

警官「あぁ、どうかしましたか?」

女「あぁ、おまわりさん。いぇ・・・何かあったんですか?」

警官「えぇ、この先でね、強盗が入って・・・。危ないですからお送りしましょう」

女「ありがとうございます。で・・・犯人は?」

警官「ぁ、捕まえました。いゃ強盗に入られたご老人が勇敢でいらしてね。おかげで大きな傷を負われて、先ほど亡くなられたんですけどね・・・」

女「ご老人?」

警官「足を悪くされていたにもかかわらず、おもてに出られて、駅の交番まで行かれるつもりだったんでしょうねぇ・・・。犯人に刺されてしまって、そこに倒れたままお亡くなりに・・・。ぁ、ほら、そこに・・・」

女「!?お爺さん・・・」

警官「お知り合いですか?」

コマツトモコ作「暗闇坂の怪」

出演 入江崇史・雨蘭咲木子

男(僕の足が地面から離れようとする瞬間、僕はもう一度、狙いを定めた彼女の姿を68階のビルの屋上から見下ろした。そして静かに目を閉じた・・・。1・・・2・・・3・・・)

男(米粒ほどの彼女の頭上に、僕の体が命中する確率は50%と見積もっていた。だがしかし、僕の体は意外にも、ものすごい速さで落下していく・・・)

男(もしも彼女の上に落ちることができたら、彼女は僕の下で永遠の眠りについてくれるに違いない。そして僕を優しく抱いたまま、二人はあの世への旅路に着く・・・。だがその確率も、今となっては限りなく0に近い)

男(体がバラバラに千切れていく・・・。内臓をどこかに置いてきてしまったみたいだ・・・。頭だけが重力に導かれて、まっすぐと彼女へ向かって落ちてゆく。風の音しか聞こえない・・・。)

男(目を開くんだ・・・彼女はどこだ。・・・だめだ。もはや僕の目は地上34階にとどまったまま、僕自身を見下ろしている・・・。それならば今落下していくこの物体はなんだ??・・・僕の頭か?僕の心臓か?僕の気持ちか・・・?それとも・・・・・・)

(グシャッ・・・)

女「!?キャーッ!!!」

イイジマタカコ作「10秒の夢」

出演 入江崇史・雨蘭咲木子