鈴木内科クリニック院長ブログ

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~食事で健康になれるはず~

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 水溶性食物繊維が豊富な炭水化物(大麦、オーツ麦)の働きについて簡単に図にしてまとめてみました。大麦に豊富な水溶性食物繊維βグルカンは糖質を包んで小腸下部まで連れて行ってくれます。そこでL細胞を刺激してGLP-1を分泌させます。糖質のみでは小腸下部に達する前に上部で吸収されてしまうため、GLP-1が十分分泌されません。

 
 

 GLP-1は空腹時に肝臓からの糖の放出によって血糖を維持させていたグルカゴンの分泌を抑え、インスリンの分泌を刺激し、さらに筋肉の微小血管を広げインスリンが効きやすくなる準備をし筋肉が糖を取り込みやすくします。これにより、より少ないインスリンで食事による血糖の上昇を抑えることができます。


 そして大腸に達したβグルカンは、腸内細菌によって短鎖脂肪酸に代謝され、大腸のL細胞を刺激してGLP-1を分泌させます。GLP-1と短鎖脂肪酸は脳に直接働き、空腹時の過度な食欲をコントロールします。

 短鎖脂肪酸は血中に入り交感神経節にある受容体に結合すると、体温や体全体のエネルギー消費量を上昇させます。食べすぎてもエネルギー消費を高め、宿主のエネルギー恒常性を保つ働きがあるのです。
 更に白色脂肪細胞にも受容体は多くあり、短鎖脂肪酸がここに結合するとインスリンの働きをブロックします。これにより白色脂肪細胞への脂肪の蓄積を抑えることができ、これによっても肥満を防ぐことができます。

短鎖脂肪酸は腸内環境を整えたり、大腸の主要なエネルギー源となることなどは知られていましたが、GLP-1の分泌刺激となることや、血中に入って作用し腸内細菌と宿主の間の仲介者となることで全体のエネルギーバランスを調節する重要な役割があったことなどがわかってきました。

 以上のような理由から糖質の過剰摂取を問題として、炭水化物自体を避けてしまうことは短鎖脂肪酸やGLP-1の分泌を減らしてしまうことになります。水溶性食物繊維の不足がエネルギーバランスの乱れを生じ、糖尿病や肥満を生み出してきた要因だと判断されるべきだと思います。

先日のセミナーで麦飯を食べるとおならが増えるのはなぜという質問がありましたのでまとめてみました。

 

水溶性食物繊維やレジスタントスターチ、オリゴ糖などは、消化されずに腸内細菌によって代謝され、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)と二酸化炭素、水素が作られます。


 この時作られる水素は還元力が強く、酸化ストレスを軽減する働きがありヒトにとって有益です。


 さらにこの水素はおもに3つの経路(酢酸生成、メタン生成、硫酸還元)で消費されますが、日本人の場合酢酸生成で消費することが多く、最終産物の酢酸はもちろんヒトにとって有益に利用されます。


 外国人の場合、メタン生成、あるいはメタン生成と酢酸生成の両方に水素が使われます。日本人はメタン生成のための腸内細菌がほとんど存在しない人のほうが多く、食物繊維をより有効に利用できる腸内細菌叢を持っている特徴があるといえそうです。


 ちなみに臭いおならは硫酸還元によってできた硫化水素などが原因で、メタンガスは無臭です。

 

 

 これは僕の個人的な考えですが、麦飯を食べ始めて最初のころはおならの量が非常に増えましたが、次第にその量が減っているような気がしています。水素ガスから酢酸への生成を担う菌が増えて、ガスとして排出される水素の量が減ったのではないかという仮説を考えています。

 
以下参照論文

The gut microbiome of healthy Japanese and its microbial and functional uniqueness

 

 

小胞体とは細胞内にある膜構造の小器官で、細胞内で作られたタンパク質の原型を折りたたんで加工し、完成させるところです。膵臓のβ細胞はインスリンというタンパク質を合成し、分泌するのが仕事ですから、この小胞体がとても発達しています。この小胞体でのタンパク質の加工がうまくできなくなると、細胞内に不完全なタンパク質が貯まってしまいます。これを小胞体ストレスと呼んでいます。この不完全なタンパク質を排除する仕組みはありますが、過度、長期間に及ぶと排除しきれなくなり、不完全なタンパク質が周囲の環境に影響するのを防ぐため、細胞自体を壊してしまいます。(アポトーシス)

 

この小胞体ストレスはいろいろな病気の原因になるとされ注目されています。(ノーベル賞の話題が多い時期ですが、この小胞体ストレスの機序についても日本人研究者がかかわっており、ノーベル賞候補にもなっているようです)膵臓のβ細胞はとくに小胞体ストレスには敏感で、β細胞のアポトーシス(細胞死)は糖尿病を引き起こします。その原因として有力なのが飽和脂肪酸で、このことを脂肪毒性と呼んでいます。

 

糖尿病の食事療法において飽和脂肪酸の制限が世界中で推奨されているのはこのためです。

 

 

「Glucagon-like peptide-1 (GLP-1) 産生に対する小 胞体ストレスの影響の研究」という非常に興味深い論文がありました

 

GLP-1を分泌するL細胞にもまたβ細胞と同様のことがおこっていたようです。マウスの実験ですがパルミチン酸(飽和脂肪酸、動物性脂肪に豊富)が小胞体ストレスを介してGLP-1の分泌を低下させるというものです。さらにオレイン酸(一価不飽和脂肪酸、オリーブ油に豊富)はこれらの、パルミチン酸による小胞体ストレスやGLP-1産生抑制作用を抑制するというものでした。地中海式食事法のメリットをうらずけるような結果です。

 

この結果は肥満症のヒトにおける GLP-1 分 泌低下の一つの理由を示唆する結果であるとしており、動物性脂質を多く含む食事によって、 小腸 L 細胞において小胞体ストレスが生じ、GLP-1 産 生・分泌が減少し、糖尿病のリスクが増大する可能性を示唆するとしています。また、今 回マウスの検討から、8 週間の高脂肪食負荷により GLP-1 分泌が減少していた。しかし血中のインスリン濃度は、空腹時およびグルコース経口投与時において、コントロー ル食群に比べて増加しており膵 β細胞の減少が始まる前から小腸において負荷がかっている可能性が示唆された。この結果は、糖尿病の発症メカニズムにおいて GLP-1 分泌減少が早期に起こり、その結果、膵β細胞の小胞体ストレス緩和作用が減少している可能性が考えられるとしています。