Fantasia


●Kenny Drew trio / Fantasia


1983年録音。ケニー・ドリューのピアノトリオの作品です。
このトリオは音源を多く残していて、当然全てを聴いたわけではないのですが
自分の所持している中ではこれがが一番好きです。


アルバムのタイトル通り、「いつか王子さまが」「Polka Dots and Moonbeams」
「星に願いを」など幻想的な曲を中心に選曲されています。
ただタイトル曲「ファンタジア」はディズニーの曲ではなくケニー・ドリューの
オリジナルです。(しかも結構アグレッシブな演奏。)


ベースのニールス・ペデルセンは「Wishing-Hoping」という美しいバラードを、
ドラムのエド・シグペンは「Children's Dance」という温かみのあるポップな曲を
それぞれ提供していて、このトリオの個性につながっています。
スタンダード曲もいいのですが、やはりどのようなオリジナルソングを入れるか
という所でそのバンドの方向性や人間性が垣間見えるような気がします。


さて、そんなファンタジー選曲なのですがペデルセンのベースは相変わらず凄い。
(いや、相変わらずといっても83年の録音だし最近亡くなってしまったのですが。)
何度聴いても唖然としてしまう迫力。ギニュー隊長になってボディチェンジしたいです。


ベースを普段意識して聴かない人はこの演奏どう思うのでしょう。
ともあれ、全体的にはロマンティックなレコードなので部屋を少し暗くして
聴くのがふさわしいと思います。冬にお薦めの1枚でした。


tropicalism

●THE BOOM / TROPICALISM -0°


ザ・ブームの7枚目のアルバム。1996年発売。
帯に書かれたコピーは『氷点下の熱情主義』。


ブームといえば『島唄』の印象が非常に強く、沖縄音楽のバンドだと
思われがちですがこのCDではブラジル音楽をベースに、
ジャズや東南アジア的なサウンドも採り入れ多国籍・無国籍なものとなっています。

何かに憑依されているかのような凄みを持ったボーカル・宮沢和史の存在感が
全てを纏めている印象です。それをがっちり支えるメンバーの演奏も見事。


歌詞はムルロア環礁での核実験を批判した2曲目など、
平和主義的なメッセージ性が目立ちます。


僕は個人的にポップミュージックの歌詞は、人間の内面を歌うもの
(単純にはラブソングなど)であって欲しいと思います。
音楽で何かと戦いたくないというか…。
まだこの考えは結論は出せていないのですが。


そんな自分も耳を傾けざるを得ない、宮沢和史という人のエネルギーは
とてつもないと思います。
思い出すのはミュージックステーションにブームが出演していたときに
このCDに入っている『手紙』を演奏(朗読)している姿です。
なんだか幼心に面白さと怖さを感じ取りました。


現在は「GANGA ZUMBA」というグループを作り活動していろようです。
果たして今後どんな活動を見せてくれるのか、楽しみな日本人だと思います。




dreamer


●Jose James "the dreamer"


今年、2008年の始め頃に出たアルバムです。
自分の予想では、きっとブレイクしちゃうんだろうなと思ったのに
世間的には意外とそうでもなかったCDです。


ピアノトリオをバックにしたジャズの男性ボーカルで
声質はクリアだけど深みがあり、クールで格好いいです。


バックの演奏も熱さと緊張感のバランスが良く素晴らしい。
なんだかジャズボーカルのバックの演奏って
「歌伴か、ではシンプルにやっておくか」という心理が見てとれて
シンプルを通り越してつまらないプレイをしてしまっている物もあるのですが
ここでは程よく「攻め」の姿勢が見えて、邪魔になるほどやりすぎでもなく
バッキングだけ聴いていても飽きない作品だと思います。


そもそもこのCDを手に取ったのはピアノソロの部分が店頭で流れていて
格好よくて興味を持ったからです。歌入りとは思いませんでした。


この作品は一応ジャンル的にはジャズだと思うのですが
R&BやHipHopのコーナーに置かれているほうがリスナー受けがよさそうな感じです。
ジャズマニアではなく流行に敏感な若者にこそ聴いて欲しいと思います。


『ジョン・コルトレーンに影響を受けたけど、現代ならではの語彙で
彼らのような深みのある音楽を作ることをいつも目指している』とインタビューで語る彼の
今後に注目していきたいと思います。




perceptual

●Brian Blade “PERCEPTUAL”


鬼才ドラマー、ブライアン・ブレードのリーダー作。
"BRIAN BLADE FELLOWSHIP"というバンド名義で2000年に発売されました。


編成はドラム、ベース、鍵盤、アルト・テナーサックスに
ギター3人(含ペダルスティールギター)と大所帯です。
ブライアンブレードはジョニ・ミッチェルのバンドにも参加していて
その繋がりで彼女もコーラスで少し参加しています。


内容は、ジャンル的にはジャズに分類されるのですが
「テーマ~各自アドリブ~テーマ」というジャズの基本的な進行ではなく
1曲のなかでも次々にシーンが変わっていき、その情景のなかで
各自のソロが織り込まれていく、という手法をとっています。


曲調は基本的には暗く静かなものが多く、スティールギターの音や
繊細なシンバルワークによって独特の浮遊感がもたらされています。


各メンバーの演奏は曲を最大限生かすために絶妙なコントロールがされていて、
ドラマーのアルバムだからといってドラムの手数やテクニックを前面に押し出したものでは
決してなく、アルバム1枚を通して一貫したストーリー性を楽しむことができます。


関係ないけど、ベーシストのリーダーアルバムってスラップや速弾きに特化した
ものが多くて、凄いんだけど悪趣味なやつが多いですよね。誰とは言いませんが。


CD作るのってとりあえず上手い人を集めておけば流れで完成できちゃうのですが
(それが嵌って勢いのある良いものが出来る可能性もありますが)
そのようなインスタントな手法をとらずアレンジ・プロデュースを細やかにやり遂げ
芸術的な作品を作り上げる、という精神力が感じられる一枚です。


明日

●平原綾香 『明日』


“Jupiter”で有名になってしまった平原綾香の2枚目のシングル曲。
当レビューでは特に断りがなければアルバムを紹介していますが
その“Jupiter”の歌詞が無駄に壮大すぎるところと4拍子なところが
あまり好きではなかったので、ここではシングル盤としての紹介です。


さてこの曲、とてもシンプルなバラードです。
歌詞も短いのですが、その繊細にえらばれた詞のなかに
聴き手の想像にゆだねられたストーリーの存在を感じられます。


なんでもかんでも起こった出来事や相手への気持ちを言葉にして
詰め込んでいるうちにラップになってしまった昨今のポップスが
『等身大』『リアル』などと評されて支持を集めている状況が
あまり好ましくないと自分は思っているので、
勢いのある状況の歌手がこういう曲をシングルに持ってきたという事は
とても歓迎すべきことです。


といってもこの曲の発売は2005年、いまも『等身大』とやらの人気は
衰えていないようですけどね。若者は舌が回ってよろしい。

まあそういう考えはさておき、この曲は疲れた時や落ち込んだ時に
心に染みます。まさに琴線に触れる、といった感じです。


あと付け加えるなら、しんみりと聴いていたはずなのに
この曲の間奏から出てくる池松宏さんのコントラバスのソロを
いつの間にか集中して聴いてしまい「練習しなきゃ…」という気持ちに
させてくれるという効果がこの曲にはあるのです。
この効果はベーシスト限定ですが。