DONT TRUST OVER FIFTEEN -2ページ目

真・ショートショートvol.6「向こう側の君へ」

一メートル四方の小さな空間に、小さな窓。

部屋はいつもカビ臭く嫌な空気が停滞していた。


窓は深い暗闇を向こうに映し出していて、

外の様子を伺う数少ない手段だった。


おおよそ人間に与えられる居住空間では無い。

しかし、脱出する術を知らない私は

無抵抗にそれを受け入れるしかなかったのだ。


ココへ連れてこられたのは1週間前のこと。

人気の少ない裏通りを通って近道を試みていたら、

物陰から影が襲い掛かってきて気がついたらココにいた。


最初のころは自分が置かれている状況がつかめず、

ドッキリか何かだと希望的観測をしていたが

3日目ともなると不安が心のほとんどを占有した。


コンクリート打ちっぱなしのつまらない壁を見ながら、

早く扉を開けて誰かが入ってくるのを期待していたが

結局そんな展開は望む方が筋違いと言うべきだろう。


今日も起きている時間は無表情な壁と共に過ごす。

壁を友人に見立てて会話をしようとしたが、

それはあまりに空しすぎるのですぐにやめた。


また退屈で低刺激な一日が繰り返される。

私はゆっくりまぶたを閉じる。


会社の同僚はどうしているだろうか。家族は。

ミスばかりの駄目社員が一人いなくなったところで、

大きな変化は与えないことは想像に難くないが。

そういえば庭の手入れ。私の代わりに妻はしているだろうか。

あそこは自分の思い入れがある。人に触らせたくない。


細く眼を開けて、視線を床の上に移した。

それからゆっくりと暗闇ばかり映す窓を見る。


そこにいつもとは異質な状況があった。人影。

私は一瞬じっと見つめてしまった。


「私の声が聞こえますか」


影となって見えるその人は静かに語りかけてきた。

若い女の声だった。それに私は「はい」と短く答える。


「あなたが私をココに閉じ込めたのですか」


今度は私から質問する。沈黙。

ドアを隔てた先にいる女は、何も答えない。


「あなた、ソコにいるのなら私を出してくれますか」


返事の代わりにガチャリ、とドアの開く音がした。

幾分拍子抜けの対応。まさかこうもあっさり行くとは。


ゆっくりドアが開いてゆく。


私は立ち上がる。


ドアの向こう側にいるのは


顔中の筋肉が青を帯びている若い女。


それと、


ここと同じ、一メートル四方の狭い部屋だった。

ショートノベルvol.17「シナリオ」本編1

登場人物 


中学生SN854025-B:加持アキラ


その友人SN419873ーR:烏丸マコト


「この世の事象は全て優れた意思の下に」


第五千三百二十五話「モノトーンの中で」


では、スタート。


「また、か。何処でも頭のおかしい規則があるのは同じだけど、

ここはちょっと度が過ぎてる感があるね。バッカじゃない?」


「おい、お前の台詞間違ってるぞ。何回やってんだてめえ。

文句言ってないで真面目にやれ」


「はいはーい。アキラ君はクソ真面目だねえ。与えられた

条件に何の疑問も持たずにロボットしてればそりゃ楽だよ」


「見ろ。表示がオレンジに変わってる。やることはやれ」


「分かった……」


烏丸は俺の言葉を聞き入れたというより、

表示がオレンジに変わって危機感を感じたから従った様だ。


この世界で「シナリオ」を無視する行為は「死」に直結する。

誰か狂った支配者が作ったくだらない「ルール」のせいで。


それはあまりに不条理でどこか滑稽なお遊びのルール。

ただそれを破ったものには死の制裁が与えられるのだが。


そう。これを考えた「マスター」にしてみれば、「お遊び」

自分の退屈の原因を世界に投影して、その結果生まれた

永遠に継続されるバツゲーム。


逃げるという選択肢は選べない。仮にそんなことをすれば

網の目のように縦横無尽かつ逃がさないという執念を

持つかの様な監視カメラに捕捉され、あっさり捕まるだろう。


「ちょっとちょっと。セリフ、早く言ってよ」


烏丸の声で我に帰った。少し疲れてるのかもしれない。


俺は「わりぃ」と軽く謝りながら、「最高だな」と台詞を言った。




ショートショートvol.7「電信柱」4

家に帰っても、やたらめったら居心地が悪いだけだ。


母さんはいつも何処を見るでもなしにボーっとしてる

ことが多いし、話しかけても返事もしねえ。

人形か何かと暮らしてるような違和感。いや確信。


父さんは大工をやっているが、3週間前に足を折った。

それからは朝から晩まで何もしないで半ニート生活。

「しっかりしろよ、親父」と息子に言われても

あいまいに笑うくらいの根性の人間だ。


でもな。兄ちゃんが死ぬ前はもうちょこっとだけマシだった。

母さんは無駄なくらい元気にはしゃぐ気丈な人だったし

父さんは寡黙な男だったがよく笑う働き者だった。


つまるところ、兄ちゃんの死が与えた影響は

俺達家族のバランスを破壊したってことだ。


俺と兄ちゃんはバカなところは似ていたが、

根本のところでやはり少し差異があった。


学校の成績とか、人との接し方とか。

俺は感情がすぐ顔に出る単純な人間なので、

気にいらない相手に対しては教師だろうが

なんだろうが愛想笑いは出来なかった。


よく兄ちゃんに「不器用だな」とけなされたものだ。

まったくのその通りなので何もいえなかった。


俺は2段ベットの下の段に体を横にし、右手に

見える深い闇を横目でちらっと見た。


少し驚いたが、すぐに眼をつぶった。

ヘッドホンを両耳にしっかりかけ、音量を最大にして

無視を試みる。


「ねえ、無視しないでよ」


とんとんと窓をたたきながら、あの女が話しかけてきた。

真・ショートショートvol.5「ヒーローの定義」

ぐるりとあたりを見渡せば、煙と瓦礫の山、山、山。

 

なんて言ったか名前は忘れたが

「なんたらかんたらジェノサイトEX」とかいう

俺たちの必殺技で一面焼け野原にしたのだった。

 

なんて言ったかどうしても思い出せないが、

爆発の中心にいるのは悪の組織「エクサム」の一員、

なんとかモゲラとかいう適当なネーミングの怪人。

 

30分前に本部から通達があり、

とりわけ何の被害も出していないがとにかく出撃した。

 

それが俺たちの仕事、正義の味方「ヘル・ゲート」の務め。

 

勝負は簡単にカタがついた。怪人がボケッとしてる間に

死角から必殺技一発。真っ向から勝負するほど馬鹿じゃない。

 

結果が全てなのだ。負けることは許されない。

 

そう、分かっちゃ、いるけどなぁ。

 

「これで良かったんかね、実際」

 

グリーンは少し考えてから口を開いた。

 

「結局ハッピーエンドってのは自分たちが都合よく

解釈してるだけなわけよ。その中には色々な像悪とか

愛だとかが展開されてるわけだし、ハッピーとか

バットかなんてのは単に視点の違いによって

生まれるあいまいな不確定要素なの」

 

吹っ飛んだ怪人の手には家族の写真が握られていた。

後味の悪いショートショートvol.2「画面の向こうに」中篇

夜と昼と逆の生活を続けていたら精神の状態がすこぶる悪化した。


朝起きてパソコンに座って寝るだけのひきこもライフ。


いつか必ず発狂するか何か惨めな犯罪を犯してゲームオーバーか

あるいは今日にも首を吊って自決するかに思われた。


今生きてる時間は執行猶予的な、ロスタイム的なものだと思う。

つまりこれ以上無気力で自堕落な人間を続けるよりは、

いっそ今自分自身で自分の人生の最終地点を決断したいのだ。


何日もあけていない窓を開けると、部屋の中の空気が浄化された気がした。

何処までも広がる青い空、この心地よさの中で今日死んだらどれだけ

気持が良いだろうかとぼんやり考えた。


いや、もちろん死ぬ勇気もさらさら無いわけだが。


勇気も無い人間は戻ることも終わらすこともできない。

嫌でも何でもこのつばを吐きかけたくなるような現実にとどまるしかないのだ。


だからこそ俺はあがく。それははたから見ればノータリンの愚考にしか

見えないだろう。でも俺はそれでも惨めにあがく。


ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ……………


パソコンからアラームが鳴り響く。何の刺激も無いこの部屋での

唯一の活動音だ。俺は慣れた手つきで「ダウンロード」をクリック。


そしていつもの様に、「おはよう、今日も可愛いね」と

犯罪者的な薄ら笑いを浮かべながら画面に映る少女に語りかけるのだ。

少女




後味の悪いショートショートvol.1「画面の向こうに」前編

会う女性は母親とパソコンの画面に映る2次元少女だけ。

女性に限った事ではない。俺はここ数年、正確に言えば5年。

自分の部屋にパラサイトして誰とも会わない生活をしている。

 

きっかけの「なんとなく」から外に出られず、

一日一日時が経つにつれてますます出づらくなっていった。


 いや、もちろん「なんとなく」ってのは嘘だ。

大学受験にも失敗したし2年付き合っていた彼女にもフラれた。


別れの言葉は「やっぱりやめます」


とにかく色々精神的にまいっちまうようなことが立て続けに起きた。

俺はヘコんだ。 心のバイオリズムが底辺で下がったまま、

回復の見込みが絶望的であることを悟った。 誰とも会いたくない。

ずっと部屋の隅に隠れていたい。世界の終わりまで眠っていたい。

何も聞きたくない。知りたくない。誰とも関係を持ちたくない。


ただただ漠然とした、実態の無い不安が付きまとった。

この生活に不安を感じない日は無い。

すでにダブルA引きこもりライセンスを取得している俺だが

どこまでもお先真っ暗な今の状況は、明るいとはいえない。


 「………………………………………………………」


ぼーっとしてそんなことを考えていると、

精神的に社会的に不適応障害の俺の精神に

どす黒い暗黒パワーがじくじく溜まる感じがするので

俺はパソコンの前に座って画面に映る世界に集中した。

 

寝不足でうつろな瞳をぎらぎらさせながら、

風呂に入っていない油っぽい髪をぼりぼり掻きながら。


 風呂?んなもんいらねぇよ。


 身なりを気にしてくれる人間はいないからな。


そんな投げやりな思考だから、この状況があるんだ。

自分で何とかできるならとっくに仕事してるさ。


 カタカタカタカタ………


俺はパソコンのキーを叩く。


ネット回線を通じて向こうにいるのは俺の唯一の楽しみ。

 他人のパソコンに侵入して、その生活を盗み見することだ。


 あ、今俺のこと軽蔑したろ。まあいいさ。

真・ショートショートvol.4「別離」

「非道いよ……私、騙されてたの?」


「いや……僕は……僕は……」


「知ってるんだよ?昨日、あの女のトコに行ったこと」


「…………」


「何で黙ってるの?嘘でもいいから否定してよ……」


「……隠し事をしてたのは謝るよ……

でも……もう君とはやっていけそうに無い……

もう限界だ。君といると息がつまるんだ…自由にさせてくれ」


「そんな……」


「はーい!お昼寝の時間ですよー!

ほらそこ。なにマセた事やってんの」


保母さんの声が間に入り、ケン君とアキちゃんは

しかたなくおままごとを中断した。



真・ショートショートvol.3「絶対生存者」

「オラアアアアアアアアアア!!」


男が私に向かって包丁を振り下ろした。


しかし私はよけるつもりは毛頭無い。

生きる気も無かった、というのもあるが

私は死にもっとも縁遠い存在なのである。


ほら、今だって。


男は私の体に傷をつける前に、

足元の水たまりに足を滑らせて転倒した。


手にしていた包丁は宙を舞い、

男の顔めがけて落下する。


どす。


「ひ……うわ………あ……」


包丁は男の耳に少しかすって地面に落下した。

すっかりおびえてしまっている。


これでは私を殺すことは出来ないだろう。


「はあ…」


私は深く、ため息をついた。


本当に、私が死ねる日は来るんだろうか?

ちょっといいですか?

ここの小説はダークばかりですが、

あまりエンターテイメント性がないのも先行き危ないので

ここで馬鹿っぽいことも言っておきましょう。


騙されたと思って次の言葉をパソコンの前で言ってください。


「こんとんじょのいこ」


はあ?って方のために説明しますと、

えなりかずき君が「簡単じゃないか」って言ってるように聞こえます。

あなたにも出来る簡単お手軽シュールでちょっとムカつくモノマネ。


はい、それだけです。


テーマが「手抜き更新」なので内容も同様に手抜きです。

では馬鹿画像もおひとつドゾ。

魂の叫び

エピローグvol.1「記憶、その後」

「アハハ。あなたってホントおおらかな人ね」


キニーネが僕の前から姿を消してほどなく新しい出会いがあった。


きっかけは僕の庭。季節ごとに色々な彩を見せる僕の庭は、

彼女の興味を引くのに十分な要素だったのだろう。


名前はクレア。僕は知的な女性に弱いという病気を持っているので

出あった瞬間恋に落ちた。実際彼女はとても頭がよく1学年上の

僕の勉強も見るほどだったが、惚れどころはソコじゃあ無い。


なんというか、雰囲気。顔でもなく、スタイルでもなく、

僕が夢中になったのは彼女から漂う知的オーラ。


人間自分に無い特性を持つものには興味を抱くものだと思う。

僕の場合はその種の興味が病的にある。


結果としてこの様に付き合えるようになったのでとりあえず

これでハッピーエンド、となるはずなのだが……

なにか、違和感というか冷蔵庫開けた時あれ俺なに出そうと

してたんだっけみたいな歯がゆさというか、

とにかく釈然とした気分になれないまま、花に水をやる彼女を見た。


「ねえ、どうしたのさっきから黙っちゃって」


「いや、ちょっとね。君を見てると誰かを連想するんだけど、

どうしても思い出せないんだ」


「ふうん。あんまり芸能人に似てるって言われたこと無いけどなあ」


「そうじゃなくて、もっと身近な誰かな気がする」


「家族とか友達とか?」


「うん……どうだろう?」


取り留めの無い会話だった。僕の真意は結局分からず、

彼女は庭の鉢の植え替え作業を続けた。


その光景を見ていると、またしても脳裏を朧な映像がかすめる。

それはごく最近の、おそらく1、2年前の同じ場所での記憶。


そこで僕の思考は中断された。


彼女が悲鳴を上げパクパク口を動かしながら庭の一角を見据えていた。


その場所にある物体を見てようやく僕は理解する。

そこにいたのは、生前の面影は微塵も残っていないキニーネ。

虫が内臓という内臓を食い荒らし、美しかった顔の筋肉は腐り、

骨が露出した見るに耐えない元恋人。


地べたに崩れたまま恐怖で身動きできない彼女の一連の動作を見て、

僕はこのデジャ・ビュの根幹となる記憶の存在を認識した。


そうだ、確かあの時も……キニーネに庭の死体を見られて……  


ちょうど……そう…………こんなふうに……………


ナタを、彼女の脳髄めがけて思いっきり振り下ろしたんだ。


ガッ。