▷ 今回からは、SSRIの副作用と離脱症状から解放される方法についてです。
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・最初から隠蔽されていた副作用
プロザックの服用によって動揺、不眠、食欲不振、体重減少、うつ、自殺願望などの副作用が引き起こされることは前章で詳しく述べた。
うつの治療のために服用したプロザックが、うつと自殺を引き起こすというのは、皮肉と言うほかない。
しかも、プロザックのこの深刻な副作用が明るみに出たのは、発売から一〇年以上もたってからなのだから、あまりに対応が遅い。
製薬企業とFDA(アメリカ食品医薬品局)の隠蔽体質にあきれてしまう。
プロザックの副作用は、他のSSRIにも同じようにあらわれる。
現在、SSRIを服用している人は信じたくないだろうが、これは事実である。
じつは、FDAの内部にプロザックの副作用にいち早く気づき警告を発していた人物がいた。
精神科医のリチャード・カピトである。当時、FDAでプロザックの副作用を評価する責任者だった彼は、この薬がうつを頻繁に悪化させることを、内部文書でくり返し警告していた。
その一つが、一九八六年三月に発せられたこんな警告だ。
「うつ患者は不眠、神経質、食欲不振、体重減少に苦しむことが多いので、プロザックによる治療によって彼らの病気が悪化する可能性がある」
「プロザックにつきまとう三つの特徴的な副作用は、異常な夢、動揺、うつである」
そして彼は、プロザックによる「うつの悪化」は今後、調査すべき重要な課題であると指摘し、プロザックによってうつが悪化する危険性があることを医師に知らせるために、薬にラベルを添付(てんぷ)することを主張した。
しかし、彼のこのまともな主張は、直属の上司であり長年FDAの精神科部長という要職にあったボウル・レーバーによって拒絶された。FDAは、カピトの再三にわたる警告を無視したのである。
FDAというアメリカ国民の健康を守るために存在する役所ではたらく官僚が、国民の健康そっちのけで製薬会社の利益を守っている。
レーバーの奇妙な行動の理由は後に氷解した。FDAを退職後、彼はコンサルタントとして、いくつかの製薬会社から高額の報酬で雇(やと)われたからである。
プロザックがうつや自殺を引き起こすという、発売以前にわかっていた副作用は公表されることなく、医師や患者の目から隠された。
不可解なことはまだある。
プロザックの販売許可が下りる直前に、プロザックのラベルがほとんどの項目でFDAの高官によって秘密裡(り)に書き換えられていたのだ。とりわけ大事な「よく見られる副作用としてのうつ」は完壁に削除されてしまった。
FDAの高官による狡猜(こうかつ)な書き換えによって、プロザックのおもな副作用であるうつが「頻繁(ひんぱん)に発生する」から「存在しない」に改竄(かいざん)されたのである。
なぜ、高官のしわざと断定できるのか。重要書類が納められている特別の部屋に出入りできるのは、その鍵を入手できる特権を持った高官だけだからである。
これでは、プロザックによく見られる副作用がうつであることを、薬が承認される以前から製薬企業の研究者が知っていたとは、だれも想像できないだろう。
・抗うつ薬の摂取と「自殺」の誤解
うつがとくに怖がられるのは、自殺の危険があるからだ。
読者にも、うつになって死にたくなった経験のある人がいるかもしれない。
あるいは、家族、親戚、友人、同僚に自殺を逮げた人がいるかもしれない。
製薬会社は、広報誌やアニュアル・レポート(年報)でこんなふうにいう。
「うつは治療せずに放置すると危険である。研究によれば、治療を受けないうつ病者の15パーセントは命を落としている」
この文章を読んだ医師や医療関係者は、抗うつ薬による治療が自殺の危険性を下げるに違いない、と推測するだろう。しかし、これはとんでもない誤解である。
プロザック服用による致死量は、ラットの体重ーキログラム当たり452ミリグラムである。
同条件下で、古いタイプの抗うつ薬である三環系抗うつ薬の致死量は20ミリグラム。プロザックの過剰摂取による自殺は、古いタイプの抗うつ薬よりも困難である。だから、プロザックは古いタイプの抗うつ薬よりも「安全」と宣伝されてきた。
ここに落とし穴がある。それは、プロザックは過剰に摂取せず、ふつうに摂取するだけで、自殺の発生率を"高める"し、暴力的な自傷行為に"導く"ということである。
しかも、このことはプロザックだけでなく、他のSSRIにもそのまま当てはまる。
ジョーンズホプキンス大学とメリーランド州検死官は、プロザックを服用している患者は、身を焼いたり、ナイフで自分の身体を突き刺したりといった乱暴な手段で自殺を試みる傾向が強いことを報告している。
また、ヨーロッパでは、プロザックの服用が自殺の企(くわだ)てを増やしていることが確認され、ヨーロッパの行政官僚、とりわけドイツ厚労省はリリー社に、プロザックの初期の治験データから自殺の企ての発生率を算出し、提出するよう求めた。
アメリヵの治験ではプロザックとプラシーボ(偽薬(ぎやく))、プロザックと古い抗うつ薬のアミトリプチリン(商品名エラビル)の効果が比較検討された。
リリー社の内部評価では、プロザックを服用した患者は、砂糖錠やアミトリプチリンを服用した患者より6倍も高い頻度で自殺を試みていることが確認されている。
ドイツ厚労省がリリー社に求めたのはまさにこのデータなのだが、同社はドイツ厚労省への回答を拒否したままである。
しかし、リリー社が必死になって隠したこのデータは、アメリカでプロザックの副作用によつて自殺や暴力行為が起きたとする訴訟が頻発(ひんばつ)したことで暴かれ、今こうして読者も目にしている。
人為的に隠されたものはいつか必ず、白日のもとにあらわれるのである。
・最新のSNRIでも自殺を誘発
SSRIが自殺を引き起こすことは明らかとなった。では、SSRI以外の抗うつ薬は安全なのかというと、決してそんなことはない。
SSRIより進化したとされる抗うつ薬がSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)だ。SNRIはセロトニンだけでなく、ノルアドレナリンの再取り込みも妨(さまた)げる。
SNRIの代表が、セルゾン(成分名ネファゾドン)とエフェクサー(成分名ベンラファキシン)である。
アメリカの医学研究者トーマス・ムーアは、治験段階でFDAに報告されたセルゾンとエフェクサーを服用した患者の自殺の試みと完遂(かんすい)データを分析し、報告している。
それによると、セルゾンを摂取した3496人の患者のうち9人が自殺を遂げ、12人が自殺を試みた。その一方で、砂糖錠(ブラシーボ)を服用した875人の患者では、自殺を遂げたのは0、自殺を試みたのは1人。セルゾンの服用で、自殺と自殺の試みはプラシーボの5・3倍に増えた。
エフェクサーの分析でも同じような結果が得られた。エフェクサーを摂取した3082人の患者のうち7人が自殺を遂げ、36人が自殺を試みた。一方、砂糖錠を服用した739人の患者では1人が自殺を遂げ、2人が自殺を試みた。エフェクサーの摂取によって自殺と自殺の試みがプラシーボの3・4倍に増えることが明らかとなった。
読者は、「自殺を試みた患者は、うつ状態だったからでは?」と疑問を抱くかもしれない。しかし、抗うつ薬を服用した患者も砂糖錠を服用した患者も、治験の参加者全員がうつ状態にあったのだ。
しかも、いくつかの治験では、同じ患者が抗うつ薬と砂糖錠を異なる時期に与えられる「交差試験」も行われていた。
SNRIを服用した患者も砂糖錠を服用した患者もうつであったが、SNRIを服用した患者はより頻繁に自殺を遂げたり、試みたのである。
・衝動コントロールが効かなくなる
では、プロザックに代表されるSSRI(SNRIも同様)は、どんなしくみで自殺を決行させるのだろうか?
うつの人が脳の興奮薬を飲むと自殺しやすくなることは、数十年前から知られている。
SSRIの本質は"脳を興奮させる薬"であり、その興奮効果はアンフェタミン、メタンフェタミン、コカインなどの覚醒剤と似ていることはくり返し述べた。
少しでも自殺願望を持った人がSSRIを摂取すれば、衝動的になるため、否定的な感情にしたがって自殺を決行しやすくなる。
人は大きな失望や落胆にあったとき、死にたいほど辛(つら)い気持ちになる。ともすれば、嫌気がさして死にたいという衝動も起こる。しかし、たいていの場合、人は自殺を決行しない。これには二つの理由が考えられる。
一つめは、理性がはたらき、衝動的な思いを短絡的な行動に移さないようにブレーキをかけているからだ。このブレーキのことを"衝動コントロール"という。しかし、この時、脳に強い刺激が入力されると、衝動コントロールが抑えられてしまう。
これは、下り坂を走行中の自動車のブレーキがきかなくなった状態に似ている。
興奮性薬物を摂'取している人は、感情のスピードが出すぎる状態である。
心が定まらず不安にかられる。衝動コントロールが適切に機能せず、キレて早まった行動に走りやすい。
理由の二つめは、うつの人には自殺を決行するだけのエネルギーが不足しているため、ギリギリのところで踏みとどまっている場合が多いからだ。
しかし、そのような人が運悪くエネルギーをSSRIから獲得すれば、自殺を試みたり、完遂(かんすい)してしまうことになる。
うつの人が急に元気になったら注意が必要だ、と昔から言われてきた。
わたしが大学一年のとき(約三〇年前)、同級生の一人が下宿の一室で首を吊った。彼の死ぬ三日前のことだ。通学路でバッタリ会った彼に「近ごろ、あまり見なかったね。どうしてたの?」と話しかけると、「身体の具合が悪くてしばらく学校を休んでいたんだ」との答えが返ってきた。
「元気になってよかったね」と言って別れてから三日後に不幸な出来事が起こった。彼は身体の具合が悪いと言ったのだが、じつはうつに苦しみ、抗うつ薬を飲んでいたのである。彼が飲んでいたのがSSRIではないことは確かだが(まだ発売されていなかった)、重いうつの人が急に元気になると自殺の可能性が増すことがわかる。
SSRIの摂取によって衝動コントロールが抑えられると、死にたいという衝動的な思いが強くなり、自殺を決行してしまう。
うつの人がSSRIの服用で自殺する原因は、もう一つ考えられる。
落ち込んだ心にSSRIの副作用である不安と動揺が加わると、感情が乱高下する。この感情の不安定に耐えられなくなり、自殺によって人生を終わらせたいという欲求が強くなるのだ。
うつと不安が入り混じった状態のことを"動揺したうつ状態"と呼び、自殺や暴力を引き起こしやすいことが確認されている。
一九九九年の全日空ハイジャック事件の犯人が、SSRIの服用のため、この危険な精神状態に陥っていたことが、検察にも認められ「あえて無期懲役を求刑」された。
多くの医師は、抗うつ薬が患者の自殺を抑制すると信じている。
抗うつ薬のラベルには、「抗うつ薬が効果を発揮しはじめるまで、患者の自殺に十分に注意すること」と記載されているので、まるで抗うつ薬が自殺を防ぐ効果があるものと間違ってしまう。
医師が一般向けに書いた書籍にも「自殺予防にも役立つ抗うつ薬」などとあるくらいだ。
しかし、抗うつ薬は自殺を減らすことも防ぐこともできない。抗うつ薬が自殺を防ぐというのは"神話"にすぎない。
事実はその反対で、抗うつ薬は「自殺を増加させる」のである。
・止めるのは難しいSSRI
SSRIによるうつの改善効果は砂糖錠ほどしかなく、一方で副作用は、不眠、悪夢、動揺、不安、神経質、うつ、自殺願望など、命を危険にさらすものまで多岐(たき)にわたる。
「SSRIの副作用は小さい」などというのは真っ赤なウソである。
もし、現在のあなたがSSRIを摂取し、不都合が出ているのなら、できるだけ早くSSRIを断つことが身のためである。
医師が執筆した一般向け書籍に「SSRIに依存性はない」とあるが、これは戯言(ざれごと)である。
そうたやすくSSRIはあなたを離してはくれない。
そう覚悟してから、SSRIとの決別を実行すべきである。
SSRIを止めたいのだが、止められないで困っている人はとても多い。
裕司(五四歳)もそんな一人だった。彼は気分が落ち込んだのをきっかけに精神科クリニックを訪れ、パキシルを処方してもらった。それから三年たった今もパキシルを飲みつづけている。薬が止められなくなったのだ。彼はこう言う。
「止めようとすると、吐き気をもよおして、本当に吐いてしまう」
「ひどい頭痛に襲われ、不安で頭の中が変になりそうなんだ。筋肉痛も辛い。一生このまま薬を止められないのかと心配になるんだ」
裕司が苦しんだ吐き気、嘔吐(おうと)、頭痛、不安感、筋肉痛などは、薬を中断したときにしばしば発生する離脱症状(禁断症状)の代表である。
多くの人が、SSRIの服用をはじめるのは容易だが、止めるのは難しいという事実に直面している。
困ったことにどの医師も、少しでも気分が悪いという患者にはSSRIの服用を勧めるのだが、
SSRIをどのように止めるかについて熟知している医師はごく少数にすぎない。
精神活性薬物を摂取すると気分が変わるのは、
この薬物が脳内の神経ネットワークをかけめぐる伝達物質の流れを変化させるからである。
この変化が神経ネットワークの正常なはたらきを妨げる、あるいは異常なものにする。
アルコール、覚醒剤、コカインからSSRIにいたるまで、精神活性薬物は、脳に"異常"を発生させるのである。
もちろん脳だって黙ってはいない。
脳は薬によって引き起こされた異常に反発する。
そして、この反発が"もう一つの異常"を引き起こす。
第三章で述べた、SSRIの摂取によっ
て脳内のセロトニン受容体が死滅する
ことは、その代表例である。
薬の摂取量が減少したり、中断されたとき、
脳がそれまでつづけていた反発を止めるのには時間がかかる。
離脱症状があらわれるのは、この時である。
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