僕の世界は狭い。
生まれてから数ヶ月は透明な板に囲まれた箱のような中で暮らしていた。
そこから離れることになる数日前に二人組の人間のうちの女の子に指をさされながら、なにかを大きな人に言っていたような気がする。
それからまた狭い檻の中に入れられたまま、鉄の箱みたいな高速で動く何かに、女の子と一緒に入って揺られること数分、僕は今住んでいるところに移住したのだ。
透明な板に囲まれていたときと比べると幾分広いけど、板の外に広がっていた空間と比べると結構狭い気がする。駆け回るには不自由しない広さだけど、いささか不満が募るというか。
この部屋の中にも透明な板がある。
その外を見てみると、以前いたような空間とは違ってねずみ色のなにかが、青色の空間に伸びているものがある以外は、ただただ青い空間が広がっていた。向こう側がみえているのに、どこまでも遠くに見える。
この広い空間を駆け回るにはどれくらい時間がかかるだろう。
気の遠くなるような時間がかかりそうだけど、じっと見つめていると駆け出したくなる。
ただいくつか問題があるみたいだ。
まずは透明な板が邪魔だということ。もう一つは、あの青い空間は歩けなさそうだということ。
ねずみ色の空間に伸びているなにかに、女の子が寝るときに体の上においている物体の中に入ってるモノに包まれた変な生物が、その上でしか歩いていないのだ。
たしか女の子が、その生物がバタバタと音をたてて青い空間を駆け抜けていくところをみて、「すずめがとんでいる」と言っていたような気がする。
飛んでいる、とはなんだろう。そういえば歩いているときはねずみ色の上しか歩いていなかったけど、「とんでいる」ときは、上にも下にも自由にかけまわっていたような・・・
歩くと「とぶ」というのはとても違うということがわかった。
僕には「とぶ」ということができるのだろうか。いろいろ試してみる。後ろの足で跳ねてみたり、前の足とかばたばたさせてみたり、走り回りながら跳ねてみたり…
うるさくしてしまったのか女の子がやってきた。ぼくを捕まえてだっこしてきた。はなしてくれ、僕は「とぶ」練習でいそがしいんだ。
と、言いたかったんだけど、ボールをもってこられては仕方ない。僕の意識はそれに夢中になってしまった。
ひとしきり遊び終わったら、女の子は違うところにいってしまった。
これがチャンスだと思って僕はまた「とぶ」練習をする。
すずめ、とやらのように「とぶ」ことができているとは思えないけど、頑張って練習する。
ドタバタやってるようだけどいつかは「とぶ」ことができるさ。
すずめ、ってのができるんだもの。ぼくにだってできるさ。
でも、今日はもう疲れちゃった。練習は明日に持ち越すことにする。
そして朝、すずめとやらが今日もうるさい。でもいつもよりやけにうるさい。耳元で鳴かれているのじゃないかと思うくらいうるさい。
その方向に目をやると、本当に耳元で鳴いていた。
何故耳元にいたのかと、周りを見渡してみると、いつもあるはずの透明な板がなくなっていた。そこからすずめ、とやらは自由に行き来していた。すずめとやらは、「お前もとんでみせろよ」といわんばかりに僕の周りに降りてはとんでゆく。
むかっ腹がたったので、まだ練習でも成功していないけれど、青い空間に向かってとんでみる。
するとどうだろう。いつもより体が軽い。僕の周りが青い。すずめが上下左右に動いているのが隣に見える。
そうか、僕はとべたんだ。とぶって駆け回るより気持ちいいんだ。とぶって広いんだ…。
「ただいまー。お父さん、ニアはー?」
「お、舞。おかえり。ニアはもう寝たんじゃないかな?それより今日の塾のテストはどうだった?」
「にへへー。じゃーん、ひゃっくてーん…は嘘だけどほら、98点だよ。」
「お、もうちょっとじゃないか。この調子で頑張るんだぞ。」
「もちろんだよ。ニアを買ってくれる代わりの約束だもん。」
「あ、こらこら、階段はゆっくり上がりなさい。おちてしまうぞ。」
「ニアー。たっだいまー。…あらら、本当に寝ちゃってる。…なーんかうれしそうな寝言いっちゃってるよ。おいしいご飯でも食べてるのかな?」
あ☆と☆が☆き
THE☆投げやり
なんじゃあこりゃあああ!(腹に手を当て)
…なんじゃあああこりゃああああああ!(手を見て)
……なんじゃあこりゃあああああああ!(あとがきを見て)
オチなんかなかったんや☆