私が若いころに初めてこの籠を見た時には、玉手箱とそっくりで唖然とした。


浦島太郎が浜で亀を助けて、龍宮城に招待されるお話であった。


歓待されて時間の過ぎていく感覚がなくなる。


乙姫様からお土産にもらった玉手箱。


絶対開けないという約束。


浜に上って来て、蓋をあけてしまう。


白い煙が飛び出して、白髪になってしまう。


あたりの村の人には誰も知り合いもない。


おとぎ話だが怖い話だった。




この中に茶碗が二つ重なって入っている。


中のほうが黑楽である。


ピタッと三島の茶碗に大きさがあっている。


神業かと思った。


楽は手作り、一個焼だからできる技。


その楽の中に、またすっぽり入る河太郎棗。


三つ重ねだが、


こんな伝統工芸は手間暇がかかるだろう。


御所籠がなかなか手に入らないのもこの辺の事情であろう。


たとえお稽古でも大切に扱いたいものである。


本物は円能斎お家元が皇室で使われていた化粧籠をいただき、


愛用していたのを淡々斎お家元が色紙点前として作られたのだという。


全体お年寄りのお家元たちのもので軽くできているのである。


そしてちょっぴりユーモラスでもある。